第11話

「怪しげな者達が……」


「なに?」


 典侍はそう言うと、持ち前の気丈さを見せて立ち上がった。

 すると穏やかに乳を御子様に与えていた碧雅が、苦しげに顔容を歪めて胸を押さえた。


「女御様……如何致されました?」


「母御様……御子を……皇子をお護り下さいませ」


 碧雅が顔容を歪めたまま言うから、典侍ないしのすけは側に寄って跪いた。


「何を仰せにございます?」


 すると碧雅は皇子を典侍に差し出したので、合点がいかぬまま典侍は、それは未だ小さな皇子を抱きかかえた。


「……と内親王を連れて今上帝の側に……今上帝の側に御逃げ下さい……今上帝の側に御らば、この子には手が出せませぬ」


「何を仰せなのか意味が?」

 

 刹那、鋭い弓矢が御簾を破って放たれた。


く今上帝の座す宮中へ……」


 そう言うと碧雅は苦しげに身をもたげ、それでも息遣いを荒げて立ち上がった。


「疾く!!!」


 皇子を抱いて、唖然とする典侍に叫ぶ。

 矢継ぎ早に放たれる矢を、碧雅は神力を掌より放って止めた。


「誰ぞ?……その様な下衆なる術を使うは……」


「妖狐よ、天子を唆して天下を思う通りに致そうとは……この陰陽師が見破ったり」


「は……馬鹿を申すな……私は妖狐ではないし、今上帝をそそのかして、天下を思う通りに致そうなどとは考えてもおらぬ……」


「何を化け物が……」


 再び矢が放たれる、碧雅は大いなる神力で矢を止め折った。


「早う御子を……狙いは皇子にございます」


 碧雅が両手を上げて大きく振ると、それは物凄い風が掌から放たれて、庭で競り合う侍達を吹き飛ばした為に、伊織の屋敷の侍まで吹っ飛んで痛手を負った。


「よいか?愚鈍なる陰陽師よ、私も妖狐も神獣である、神である。化け物ではないわ!!!」


 碧雅は産後の大業を成した躰で、天に掌をかざして、恐怖に慄くもの達を睨め付けた。


 ……母御様御子様方を、お護り下さいませ。隙を見て今上帝の元に……


 心に響かせる心の声音で叫ぶ、と同時に天が大きく響きを上げた……と思った瞬間、伊織の屋敷目掛けていかずちが落とされた。

 耳をつんざく程の雷鳴が、地響きと共に響き渡った。

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