第54話

 それが本来ならば天子であるべきで、権力の所在は決まっている。

 決まっているが、なぜかその所在がコロコロと、転がってしまうのが宮中の、面白い処で困った処だ。

 要はその時の実力者の都合で、幾らでも勝手ができるという事で、現時点で今上帝は普段の今上帝ではなくて、それは恐ろしいものを醸し出す処か、もはや放ちまくっている権力者だ、これ程の実力者が何をどうしようと、文句を言える者など存在しない。それどころか上手く理由を付けて、重臣などは退出しているのは確かだ。

 そして瑞獣女御はもはや、今上帝の御一言で儀礼手続きをはぶいて、となっているだから、地下じげの朱明が清涼殿の今上帝に、御簾越しの拝謁処か、直に御目通りすら許される事になる。今上帝の御一言で……だ。

 ……という事で、退出するのが遅れた朱明は、それは恐ろしい模様を体内から放出状態の今上帝と、事もあろうか御簾越しでも無く、じかに御目通り頂いている。

 さすがに恐ろしいので、東庭の地下にひれ伏した。

 ひしひしとその圧と恐怖が、朱明に伸し掛かる。

 以前瑞獣様を伊織の屋敷にお連れして、今生一度の御目通りを、御忍びで頂いた事があるが、その時のお方とはまるで別だ。

 威圧的で脅威で、とにかく恐ろしい。

 その恐ろしさが、一体何なのか解らない恐ろしさだ。

 例えば朱明ならば、到底調伏できぬと思われる異世界の物……大物の鬼や怨霊や霊などに抱く恐怖なんて物では無い。

 には、一応果敢に立ち向かった事もあるが、あんな物の恐怖なんて物ではなくて、神聖なる決して朱明が立ち入る事をとしない、そんなの存在だ。

 つまり神の域か……それに類する域だと思う。

 だから朱明は震えた。

 陰陽寮で陰陽頭おんようのかみと感じた、あの恐怖だと悟った。


「陰陽師……」


 今上帝はそう言いかけて


陰陽助おんようのすけであったか……」


 と笑いを漏らして言われたが、その笑顔が美し過ぎて気味が悪い。

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