第13話

 今上帝は昏睡状態で、御帳台の上にあった。

 お側に仕える伊織は、今上帝の様子を侍医に診せるものの、その状態がどういう事になっているのか、全くもって埒が明かなくイライラとしている。侍医には、今上帝の状態の理由が解らないのだ。


……ただ寝ている……


としか告げられない。つまり意識も無く昏睡状態だと言う事が、ならばどうすればいいのかが解らず、侍医を始め医師くすし神祇じんぎ、陰陽寮が力を尽くすも全くのお手上げ状態だ。

 そんな清涼殿の御寝所に侍る伊織は、加持祈祷の読経の声を聞きながら、各神社仏閣での加持祈祷と、奉幣が大臣達によって支持された事を知った。


「伊織様……」


 蔵人所の気の利いた者が、摂政家の親王と左大臣家の親王とで、東宮争いが起きている事を注進してきた。


「東宮争い?」


「……関白家、左大臣家のどちらの御親王様が、東宮となられるかという事でございます」」


「何を?主上は御存命であられるのだぞ?」


 伊織はそう言って、言葉を呑んだ。

 幸か不幸か、親王は高貴な家柄の女御に誕生した。

 どちらかが低い身分の、女官出の者なら話しは簡単に片付いた。

 母親の身分の低い者の皇子は、東宮などになり得ない。

 余程の理由が無い限りは……。例え東宮となり天子となった処で、臣下に軽んじられるだけだ。

 そんな事例は古今東西、何処の王室でもある話しだ。

 だが、今回は摂政家……といっても今や今上帝は、御立派な天子と御成なので、前摂政家現関白家というべきだが、途中から再び実権をお持ちになられた法皇が摂政をお気に召さず、摂政と並び立ち、それ以上のお力をお持ちだったが為、摂政は嘲りの対象として関白となっても、未だに陰ではと呼ばれているのだ。

 そして左大臣はその摂政の弟で、この治世の実権争いを、法皇が全てのお力を今上帝に差し出されたので、兄の元摂政とやり合っているのだ。

 今や今上帝が危うい御状態ゆえに、先の御幼帝の外祖父を狙って、同じ一族の同じ親を持つ兄弟は、権力争いを繰り広げている。

 東宮の外祖父となる事は、確かに政権を握る意味では大きい。

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