第14話

 此処中津國は、天子となれる血統が決められている。

 他国の様に力のある者、運のある者、賢い者がなれるものでは無い。

 天子とは、天命を受けて天下を治める事。

 とか言われるが、中津國では天に代わりて、天下を治める事が真実ほんとうだ。何故なら天の大神に代わりて、地を治めるからだ。

 つまり天の大神の、子孫でなくてはならないのだ。

 そして法皇が今上帝に語った事で伊織も知ったが、その血の濃さは高々の人間には解らない、だから天が認められない天子を、高々の人間が据えたりすると、その治世は乱れ争いが起きる。

 ……だから高々の人間の我らは、私利私欲で天子を担ぐ事は適わない。

 そうしたとして、それは真の政とは見なされないからだ。

 そんな高々の者が神の域に携わるには、その血を通してしか携われない。

 つまり尊い血統を受け継ぐ幼帝を介して、その域に携わる事だ。

 そんなに取り憑かれた者達は、内裏において我が娘にを託して、尊き御血を頂く皇子を望む。そして我が身が、その自分の血すら流す幼帝の代わりに天下を司る夢を見るのだ。

 そしてそんな夢を見る一族の兄弟での政権争いが、この中津國は久しく続いている。

 伊織などにしてみれば、兄弟で争う意味が解らない。

 同じ血を流す一族の中の、両親すら同じ者達の争いなど、理解しろという方が困難だ。

 子供達は母方の実家で育つから、異母兄弟なら顔も知らずに育つ事が多々とある、がしかし同腹なら同じ母だから同じ所で育つ……にも関わらずだ。まっ、伊織には同腹の兄弟はいないから、解らないも当然かもしれないが、異腹の兄弟すら何人いるのかも解らない。

 母は未だにこの宮中で勤めているし、父には同居している妻も居れば、通っている妻もいるはずだが、伊織にとって一番の身近な存在は今上帝であって、共に育ったのも今上帝であるのだから、たぶん同じ父の血の繋がった兄弟達よりも、今上帝との繋がりの方が強いだろう。

 だが今の父の地位は、母が今上帝の乳母である事で得られた地位だから、一族の者は母と伊織に一目置いている。

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