第7話

 さすがは神をお身内に持たれる、瑞獣だ。

 何とも安産だし、出産を手伝う者達が言うには


「安心して見届けられるご出産」


 だそうだ。危険な処など微塵もありはしない。

 それでも悪霊を祓う為米を撒く散米うちまき、そして乳付ちつけ、今回は皇子ご誕生なので、宮中より近衛の守が勅使として、剣が届けられる佩刀はかし、そして新生児に湯を浴びせる湯殿と儀式は続く。

 皇子の場合一日ニ回七日間も行われる。

 それも日時刻を占い、産湯の水も吉方の井戸を使うし、邪気払いの為の儀も平行して行われる。


「そんなもの必要無い」


 とご生母瑞獣は、無事出産を願う修法同様に不機嫌を露わにするが、中津國でずっと続いて来た、御子様を元気にお育てする儀式なので、これは従って頂かなくてならない。

 ブチブチグチグチと不快を愚痴るが、何といっても今上帝の最愛なる皇子なので、儀式はご生母の愚痴など構い無しに、滞りなく進められて行く。

 

 今上帝は直ぐにでも飛んで行きたいはやまやまだが、そうはいかないご身分なので、その御苛立ちを伊織に御ぶつけになられる始末である。

 文は一日に何通も送られるが、筆不精なんてものではない瑞獣だ、殆ど返事が来ないから、それも今上帝は伊織に御当たりになられる始末で、はっきり言って屋敷では気を使い、宮中の主上の御前では当たり散らされ、散々たる伊織である。

 ……なので、お返事をお願いすると、さすがの瑞獣も、御出産という大業の後の子育てで、それ処じゃないらしく、今上帝に気を使う処じゃない御様子だ。

 まったくもってこういう処が、他の女御達とは大きく違う処だ。



 そんな最愛なる女御が皇后となるを楽しみに、御寵愛なる皇子の九日目の産養うぶやしないの祝宴も無事済んだ頃、今上帝は清涼殿の昼御座ひのおましで、臣下とご面会の最中に御倒れになられた。

 お側にはべる伊織が慌ててお側に寄ったが、今上帝は意識を失われてそのまま昏睡となられた。


「誰ぞ侍医を!!」


 伊織はわめく様に言う。


 殿上の間に列していた殿上人が右往左往とし、その合間を縫って蔵人達が慌しく走り回った。









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