第5話

 古今東西何処の国の王でも天子でも、最も御寵愛のものが産んだ御子を、寵愛するのは変わらないものらしい。

 そしてその御子に自分の座を、与えたいと念ずるのも変わらないらしい。

 結局貴いものであろうと、そういうものらしい。

 それを天理というのか、只の情と片付けるのかは、それを見て聞いた第三者が勝手に語る事だ。

 そして中津國の第三者たる伊織は、それは只の情であると理解している。

 今上帝は暇を見つけては、藤壺へ御渡りになられて、御寵愛の女御とその御子様の内親王を愛でられておられた。

 ご自分似の内親王様にメロメロであられ、他の女御がお産みの御子様方など、忘れておいでなのではないかと思わせる程だ。

 そして今はご出産に当たり、伊織の屋敷にお下がりであるから、今上帝は寂しい日々を送られておいでだ。

 出産は命に関わる大業だ。内裏は穢れの無い場所で無くてはならないので、出血を伴い死産、または産婦が命を落とす事がある出産は内裏ではできないので、后妃は里に下がって出産する習慣がある。

 占いによって里に下がったり、他に設えた産屋を使ったりするらしいが、何といっても御出産のお方が瑞獣だ


「阿呆か?そんなもん要らん」


 の一言で伊織邸に決まった。

 早いお方なら三ヶ月くらいで、里下がりをされる方も居るが、何せ相手が瑞獣だ


「お母君様は女神であり、お長兄あに君様も神だ、それに瑞獣は長生きなのだ、死ぬわけがないであろう」


 の一喝で、八ヶ月頃迄藤壺においでであられ、今上帝のお側においでになられた。

 しかしながら、内親王様ご誕生のみぎりには、朱明の屋敷に下がると言う女御と、それを不満とする今上帝の御心持ちがあり、何の因果か伊織の屋敷となり、何の準備も整っていないにも関わらず、着帯の儀を終えるとさっさと里に下がって来られたには、屋敷の主人たる伊織がそれは大変な思いをさせられた。

 通常里下がりして着帯の儀をするのだが、どうしても他の者に託せぬ今上帝が、御自ら帯を御結びになられたのだ。

 そして後で分かった事だが、その間に他の后妃達に、今上帝が子授けをしなくてはならず、それを見るが辛い瑞獣女御は、さっさと内裏を出たのだそうだ。







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