第6話

 そして御出産においても、産屋うぶやから始まり、諸々のしきたりや行事というものが存在するが、修法と物の怪のり移しにおいては、それは御立腹であられた。なにせ御身内に神をお持ちのお方なのだ、出産とは命懸けの大業ではあるが、御母子様がなどなるはずが無い。つまり不必要なと御思いだ。

 なおかつ産後の儀式にも御不満だ。

 乳付ちつけという儀があるのだが、もはや乳母がする事となっており、産後の肥立ちも良ければ后妃は早く内裏に戻り、再び今上帝からの子授かりを頂くものなのだが、何せ瑞獣だ、痩躯と我が身を卑下して、今上帝のせんの中宮のに、執拗な迄の拘りを残して妬んでいたが、内親王懐妊と共にそれは見事な女体と化された、その美しくも形良く程よくたわわなる乳房で、ご誕生の御子様に乳を与え、なかなか内裏に戻らなかった。

 そのお陰で今や今上帝には、二人の親王と四人の内親王がおわされる事となったのだが、子育てはこの国の風習に合わせて、乳母に任せる気など無いらしい……。しかし御待ちになれない今上帝の、再三の御催促に渋々と内裏に戻られ、屋敷の主人の伊織はホッと肩の荷を下ろした感じだった。瑞獣で神のお身内を持っていようが、この国の天子の寵妃を預かっていたのでは、伊織が気が気でないのは当然だ。

 だが此度は、親王が二人もいる状況なので、もはや今上帝が他の后妃に子授けをする必要はないという。

 なぜなら、瑞獣女御のお身内の神おふたりが、親王の成人から高御座たかみくら迄をお守り下さるからだそうだ。

 つまり死ななければ親王は少ない方が、周りで蠢く者が策略を巡らせ、宮中を乱れさせる事も少ないという道理だ。

 そして内裏を穢さない出産ならば、ギリ迄居たいし置いておきたいと、今だにお熱いお二人はお望みになられたが、何だかんだと先例を引き合いに出され、女御は伊織の屋敷に追い出された感じで里下がりをした。

 そして、二匹目のドジョウを目論んだ方々の意とは反して、今上帝は御残りの后妃をお召しになる事は無く、今回もあっさりスポンと、それは見事にお美しい皇子をご誕生になられた。

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