第16話 「これ、私からのプレゼント!」 喜んでいる姿が見えた。
誕生日会は割と自由な感じで続いた。
それぞれケーキを食べながら雑談を楽しんだりしている。
ちなみにケーキはみんなでお金を出し合って全員がそこそこ食べれる量を買った。
生クリームのいちご多めでほどよい甘さでとてもおいしい。
「これ、私からのプレゼント!」
「わ~ことちゃんありがと! 開けてもいい?」
「もちろん!」
ほかのクラスメイトたちは、複数人でちょっと高めのお菓子をプレゼントしたりしている。
クラス全員で誰かの誕生日を祝うなんて初めてのことだったのに、こんなにうまくいってみんなには感謝だな。
俺もプレゼントあげないとな……。
そして最後には……。
すごく緊張する。
「はい、
「わっ!
学園祭の時に仲良くなった子たちは個人的にもプレゼントをしていた。
ハンカチをもらったらしい。
その後も雑談は続いた。
今はまだそういう時間だ。
「
「琴羽。どうかしたか?」
「ううん。緊張してるんじゃないかと思って」
そう言いながら紙コップを渡してくる。
中にはオレンジジュースが入っていた。
「ありがとう。ご明察通り絶賛緊張中だよ」
「だと思った」
赤縁の眼鏡をくいっと上げながらなぜかドヤ顔をしている。
ほぐしてくれないんかい。
「いやーそれにしてもうまくいってよかったね!」
「そうだな。みんなには感謝してるよ」
「じゃあ絶対成功させないとだね!」
「なに? プレッシャー掛けにきたの?」
「あははっ」
「…………」
「いたっ!」
俺はデコピンを喰らわせる。
女の子になんてことをと言いながらおでこを押さえる琴羽なんぞ知らん。
「調子良さそうじゃないか康ちゃん……」
「お」
たしかに、なんだか緊張ほぐれたかも。
「さすが琴羽! ありがとう!」
「デコピンをする前に言って欲しかったよ……」
おでこをすりすりしながら琴羽は離れて行った。
でもあれは琴羽が悪いと思う。
「よっ
「
「最高だっだぜ。あれ、康太が教えてあげてたんだろ?」
「俺は全然なんもしてなかったよ。麗とうちの妹が主に見てた」
「そんなに大勢でか。ありがとな。その……大変だったろ……?」
「まぁ俺は麗の妹を見てたからあんまりわからないんだけど、すごかったらしい……」
祐介も姫川さんの料理の腕は知っていたらしい。
俺はキッチンから聞こえる麗の絶叫しか聞いてないから詳しくはわからないが、すごいことはよくわかった。
包丁がどうとかなんか入れすぎだとか聞こえてたからな。
「とにかくありがとな」
「お前がお礼を言うのは姫川さんだろ?」
「それは何度も言わせていただきましたとも」
「いいなお前は」
「康太だって負けてないだろ?」
そう言ってニヤリと笑う。
たしかに弁当を交互に作ってきたり、あ~んとかもしてるけどな。
まだ俺たちは付き合ってない。
そう、まだ……。
やば、また緊張してきた……。
「こらこら
「あ、すまん
「ここはそう、花畑~」
「康ちゃんが壊れた!」
「すまん康太! 戻ってきてくれー!」
ぐわんぐわんと肩を揺すられる。
視界がぐるぐるしてきておかしくなりそうだ。
「やめんか!」
「わっ!」「おっ!」
まったくこの二人は!
すっかり緊張が戻ってきてしまったので、とりあえずどんな様子かと麗を見る。
他のクラスから来ている唯一の人物である姫川さんに気づいて、仲良く話していた。
麗はすごく喜んでいるようだ。
「康ちゃん嬉しそうだね」
「え? そうか?」
「康太は
「からかうなよ」
事実だけど。
「ま、頑張れや康太。一緒に踊ったお前なら大丈夫さ!」
「そうだぜ康ちゃん! 自信持ちなって!」
「だからなんでプレッシャーを掛けるんだよ!」
わざとやってんのか二人とも。
肩をバシバシ叩いてから祐介は俺から離れて行った。
琴羽も俺の肩にポンと手を置いてから離れて行った。
まったく……。
「ねぇ康太」
「おう……麗か……」
「なんでそんな疲れた顔してんの?」
「気にしないでくれ……」
俺に対しての疑問だが、その表情の中には喜びや嬉しさが覗いている。
相当喜んでもらえているようで、俺も安心だ。
「康太は……その……」
「心配しなくてもプレゼントはあるぞ」
「ほんとっ!?」
なんでそんな子どもみたいに笑顔を……。
いや、当然だな。
猫かぶりだった麗のことだ。
本心から祝ってもらうこととかなかっただろう。
そもそも早く帰ったりしなきゃいけなくて、祝ってもらったことすらなかったかもしれない。
「はい。誕生日おめでとう、麗」
「わ~! ありがとう康太!」
俺が渡した瞬間、その一瞬だけ教室が静かになる。
が、すぐに雑談が再開した。
こいつら……。
しかし、麗は気づいていなかったようだ。
「開けてもいい?」
「いいぞ」
麗は箱を包む紙を破かずに丁寧に剥がしていく。
中からは小さな箱が出てくる。
実は、この箱イヤリングケースなのだ。
いくつかのイヤリングを収納できるものになっている。
それも一緒にプレゼントしようと思いついた時、自分のことを天才だと思った。
「わ! イヤリングとケースじゃない! かわいい!」
「気に入ってもらえたか?」
「うん! すっごくいい!」
眩しすぎるほどの笑顔を浮かべ、麗はイヤリングとケースを掲げる。
そんな純粋な笑顔で喜んでもらえると、こちらもプレゼントした甲斐がある。
というか、さっそく付けてるし……。
「どう? 似合う?」
「似合ってるぞ」
俺があげたのは藍色の月の形をしたイヤリングだ。
金髪という明るい髪色をしているので、ちょっと暗っぽい色が合うかなと思って選んでみた。
もともとの色が黄色として表される月という理由で月の形にしてみた。
普段は長い髪に隠れるが、ふとした時に見えるのがいいと思って買ったのは、やはり正解だったようだ。
こっちは個人の感想なので黙っておく。
「ちょっとちょっと康ちゃん! 粋なものを選ぶねぇ~」
「すごく似合ってるよ麗ちゃん!」
思わずといった感じで琴羽と姫川さんがやってきて、口々に似合ってると麗を褒めた。
それを境に、クラスの女子たちが麗を囲み、チラチラと俺を見ながら話している。
何を言ってるのか聞き取りづらいが、彼氏がどうとかの声も聞こえていた。
なんだか恥ずかしくなってしまう。
「やるじゃねぇか康太」
「祐介……」
強めに俺の肩を叩いた祐介はやはりニヤニヤとしている。
「この後も頑張れよ」
「お、おう……」
これのせいでハードルが上がったんだが……。
女子たちが集まって話している間、男子たちは俺のもとにやってきて応援してくれる。
俺の心臓はバックバクだよ……。
それからしばらく再び雑談の時間がやってくる。
そしてついにその時が来た。
琴羽の号令で解散となり、片づけをしようということになる。
当然主役の麗は、片付けに参加させない。
ここからが俺の本番だ。
「康太は……?」
「麗に気づかれないようにしてて、俺は準備とか手伝ってないから、さすがに片づけは手伝わないと」
「じゃあやっぱりあたしも……」
「主役はさすがに手伝わせられないよ……」
「そう……」
麗はちょっぴり残念そうにしながらしゅんとする。
イヤリングをケースに片づけ、鞄を持つと、俺たちの方に振り替える。
そして笑顔を浮かべて言った。
「今日はありがとう! 最高の誕生日会とプレゼントだった! それに、教室まで貸し切って飾り付けもこんなに……。本当にありがとう!」
俺たちサイドからは改めておめでとうとかひゅーひゅーとか色んな声が飛んだ。
麗はもう一度笑顔を浮かべると、それじゃあと言って教室を出て行った。
綺麗にぴたっと扉を閉める。
そして足音が小さくなると、誰かが俺の背中をバシッと叩いた。
俺は一歩二歩と前に進む。
「行ってこい康太! 応援してるぜ!」
「康ちゃん! 頑張ってね!」
「せっかくここまでしたんだから成功させろよ!」
「そうよ!」
「絶対麗ちゃんも神城くんのこと好きだって!」
「ほらほらいけいけ!」
「このリア充が!」
最後の方は罵倒も含まれていたような気がするが、みんなから激励をもらった。
俺はみんなに力強く答えた。
こんなにも勇気をくれて、こんなにも協力してくれたんだ。
失敗しても、後悔はない。
「行ってくる!」
俺は、扉を開けて麗の後を追いかけた。
「麗!」
「康太……?」
とてもゆっくり歩いていたようで、すぐに麗を捕まえることができた。
麗は階段の踊り場に止まり、こちらを振り向く。
喜んでいいのかなんでこっちに来たのか聞きたいのか、微妙な表情をしていた。
俺は階段を一歩一歩降り、麗の正面に立つ。
緊張で口が乾く。
心臓がバクバクとリズムを刻む。
夕日が窓から差し込んできた。
俺は一度深呼吸をしてから口を開く。
「改めて、誕生日おめでとう。当日に祝えなくてごめん」
「それは、康太のせいじゃないし、ことちゃんのとこ行かなかったら絶交だったから」
「それはそれだよ。今度|七海(ななみ)ちゃんと楓(かえで)ちゃんにも謝りに行くよ。ごめん」
「そんな、気にしなくても……」
少し困ったような顔をする麗。
ぶっちゃけこれは自己満足のようなもんだ。
「それでさ、麗に伝えたいことがあるんだ」
「なに?」
なんのこともない相談か何かだと思っているようで、いつも通りに聞き返してくる。
心臓がさっきよりも激しく鳴り響く。
麗まで聞こえているんじゃないかと錯覚するほどだ。
大丈夫。
きっと大丈夫だと自分に言い聞かせる。
深呼吸をしても心臓の高鳴りは収まる気配はない。
もう一度深呼吸をする。
不思議そうな顔をする麗が目に映った。
「藍那麗!」
「は、はい!?」
急に大声を出したので、驚いた麗はびくっと肩を震わせる。
それと同時にぴしっと綺麗な気をつけをする。
「あなたのことが……好きです!」
言ってしまった。
ついに言ってしまった。
麗に思いを伝えるのはあのキャンプファイヤー以来だ。
あの時は麗の方から言ってきてくれたから流れで俺も言えたところがある。
しかし今回は違う。
頑張って言った。
言ってやったんだ。
「俺と、付き合ってください!」
麗の目が右往左往する。
頬が赤く見えるのは、きっと夕日のせいじゃない。
手がせわしなく動き、口をもごもごさせている。
俺は、九十度に曲げ、右手を麗の前に差し出した。
もう麗の様子を見ることは叶わない。
どっちに転んでも、後悔はない。
ドキドキと鳴り響く心臓の音を聞きながら、麗が答えてくれるその時を待つ。
それはたった数秒のことだったかもしれない。
しかし俺には、何分にも何時間にも感じた。
そっと右手が、柔らかいものに包まれる。
顔を上げると、麗の両手が俺の右手を優しく包み込んでいた。
そして、照れたような微笑みを浮かべた麗がゆっくりと口を開く。
「はい、喜んで」
今、喜んでって言ったか……?
言ったよな……?
よし……。
よし……。
「よっし――」
「うおおおおおおお!!」
「おめでとぉぉぉぉ!!」
「神城くんかっこよかったよ!」
「おめでとう康太!」
「康ちゃんよかったね!」
俺の喜びの雄叫びがクラスメイトたちによって掻き消される。
俺も麗も驚くことしかできなかった。
俺より先に我に返った麗が声を張り上げる。
「ちょっとみんな見てたの!?」
「見てた見てた!」
「いやーいいもん見たわ!」
「麗ちゃんおめでとー!」
「ひゅーひゅー!」
俺と麗は揃って俯く。
頬が熱くなっていくのがよくわかった。
尚も歓声は止まない。
俺は、麗の方を見る。
麗もちょうど顔を上げ、こちらを見ていた。
目が合い、頬を染めた麗の顔が目の前にある。
俺たちはお互いに微笑み合ってから、クラスメイトたちの方を向いた。
「お前ら! 覚悟はできてるんだろうな!?」
「そうよ! 覗いた罰は大きいわよ!」
それに対してクラスメイトたちは笑顔で言った。
「やべ、逃げるぞ!」
「走ったら怒られない?」
「担任になんとかしてもらおうぜ」
「なにそれひっどい!」
「いいから」
「逃げろ~!」
もちろん、怒られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます