第15話 「え゛っ」 今の声どこから出たんだ?
サプライズ決行日。
この日の当番は
「ありがとぉ」
そんな心優に見送られて、ゴミ捨て場へ。
すると、向かいの家から一人女の子が出てきた。
「おはよう
「おはよっ!
まだ何も整えていないふわっとした髪の琴羽。
いつものパジャマを着て、ゴミ袋を持っている。
琴羽は俺の隣に並ぶと、笑顔を浮かべた。
「会わないようにもっと早く起きてたんだ~」
「倒れた理由の一つは、実際は寝不足なのかもな」
「そうかも!」
「外れて欲しかったなぁ」
俺や
そりゃ道理で会わないわけだ。
「でも康ちゃんに許してもらえてよかった~」
「許してはないぞ?」
「えっ! うそっ!?」
許すという言葉は一度も言っていないはずだ。
気づかない俺自身も悪かったとは思うが、そもそも琴羽が相談しないのも悪いし、何も言ってこないのが悪い。
幼馴染は、困ったように「えー! どうしよう!」と隣で騒いでいた。
「でも、麗へのサプライズを考えてくれたから、ギリギリ許そうかな」
「その節は大変申し訳ありませんでした」
ぴっちり九十度。
綺麗な礼を見せる琴羽は、本当に申し訳なさそうにしていた。
琴羽が倒れた日は麗の誕生日当日で、
しかしまぁ、琴羽が無事だったから全然いいんだけどさ。
あの状況で琴羽のとこに駆け付けなかったら、麗は絶対に怒っていた。
嫌われるどころの話じゃないよまったく。
「もういいって。俺も悪かったところはあるし」
「康ちゃ~ん……」
「はいはいよしよし」
二人でゴミ捨て場に袋を置き、来た道を戻る。
天気はそこそこよく、昼間は晴れる予報だった。
夜になると雨が降り始めるらしい。
きっと寒くなることだろう。
「よしっ! それじゃあサプライズ頑張っていこうか!」
「頼むよ」
「康ちゃんも頑張ってね?」
「……おう」
麗への告白。
それが俺の中では一番のイベントだ。
俺がサプライズイベント側の準備をすると、麗に絶対怪しまれるということで、俺はそちらには参加していない。
もちろんそのサプライズも成功して欲しいが、みんなに頼んだこと。
それは、告白したいから手伝ってくれというものだ。
どういう感じにするかはもうすでに決めてある。
みんなに感謝だ。
琴羽と別れ、家に戻るとすでに料理ができていた。
心優と一緒にいただき、準備をしてから家を出る。
向かいの家からは琴羽がちょうど出てきていた。
髪を綺麗に整え、ポニーテールに結んでいる。
制服もぴしっと着て、朝の無防備具合とは大違いだ。
「一緒に行ってもいい?」
「ああ。いいぞ」
「ららちゃんにも謝らないとぉ」
「それが目的か」
一人じゃ謝りづらいってか。
久々に話すから。
「それはないと言うと嘘になるけど……」
「なるけど?」
「単純に、みんなと話したいんだよね」
心優とは昨日一緒に映画を見たし、俺とはこうして話している。
後は麗だ。
この時間に俺と麗が一緒にいるということを、俺たちを避けるために行動していた琴羽は知っているのだろう。
だからこの時間を選んだんだ。
たとえ俺がいなくても、麗と会うためにこの時間を選んでいたんだろう。
駅に着いた俺たちは、電車に乗り込んで麗を探す。
いつもなら、用がある時以外は電車内では一緒にいない。
降りてから合流はするが、電車内では無理に探そうとしないからだ。
この時間なら比較的空いているが、そこまでするほどじゃないとお互いに思っているのだ。
車両を移ると、スマホを触っている麗を見つけた。
「ららちゃ~ん!」
「わ、ことちゃん!?」
その姿を見つけると、琴羽は小さく叫ぶという器用な真似をして麗の席に向かった。
そのままぎゅっと抱き着くと、向かいの席に腰を下ろす。
「ごめんねららちゃん……。誕生日会を台無しにしちゃって……」
「ううん。ことちゃんが無事ならよかったよ」
「ありがとぉ……!」
琴羽には甘いなぁ。
俺は麗の隣に掛けながら、
「よかったな琴羽。許してもらえて」
と言った。
それに対して琴羽は頷くが、麗は何言ってるのというように首を傾げた。
「許すとは言ってないよ?」
「え゛っ」
「今の声どこから出たんだ?」
とても女の子から発せられたとは思えない声が琴羽から飛び出した。
「でも、あたしも気づかなかったし……。今回は許してあげる」
「康ちゃんと同じこと言ってる~!」
「あ、からかうなら許してあげないから!」
「そ、そんなっ! ご勘弁を~ご勘弁を~!」
とても賑やかなまま景色は流れ、
俺はぐっと伸びをしてから歩き出す。
麗と琴羽の雑談に混ざりつつ、いつもの登校だ。
しかし、俺はこっそりとメッセージを送っていた。
もちろん、クラスのみんなに。
『そろそろ学校に着くぞ』
『おけ』
『りょ』
『り』
『りんご』
『ゴリラ』
真面目なんだか不真面目なんだか……。
下駄箱で靴を履き替え、教室に向かう。
完璧なカモフラージュである。
ちなみに、サプライズの方は姫川さんも手伝ってくれていたりする。
俺たちはそんな様子を一瞥し、いつも通り自分の席に着き、いつも通り準備を進めた。
そして、いつも通り……いや、先生ちょっとそわそわしてるな。
先生は参加はしないはずなんだけどな……。
ホームルームが始まった。
※※※
短い休み時間の間も、数名が空き教室に行って準備をしたりしつつ、昼休み。
琴羽も加え、三人での昼食だ。
本当に久々なもので、逆に変な感じだ。
しかし、麗と琴羽がおかず交換をしているのを見て、やっぱりこれだなと思った。
「ことちゃんの作るハンバーグはホント最高ねぇ……」
「そんな大げさな……。ららちゃんの卵焼きだっておいしいよ!」
たしかに麗の作る卵焼きはおいしい。
心優が当番だったので俺が食べている弁当も麗の作ってきたものだ。
この卵焼き本当においしい。
どうなってるんだか。
「ららちゃんの作るお弁当が食べれるなんて康ちゃんは幸せ者だね~」
「だろ? 羨ましいだろ?」
「羨ましいよ~。このこの!」
「ちょっと二人ともやめてよ!」
顔を赤く染めて麗が照れる。
「私もららちゃんに作ってもらいたいなぁ~」
「じゃあ明後日! 明後日作るから!」
「お、やった~」
策士だな。
俺すらも利用して麗の手作り弁当を確保しやがった。
「あ」
「なに?」「どうしたの?」
思い出した。
麗のは作ってもらって渡したけど、琴羽のはまだだ。
「あの琴羽さん……」
「ん?」
「千垣って憶えてるか?」
「もちろん」
「協力してもらうのと引き換えに、実は琴羽の手作り弁当を差し出す約束をしてまして……」
「なんで私のお弁当を勝手に差し出してるの!?」
「そうでもしないと協力してくれなそうだったので……」
なんだかこのやり取り前にもした気がするぞ。
「あんたことちゃんのまで差し出してたのね……」
「まさかららちゃんも……?」
「申し訳ありません」
麗はまだしも、琴羽のは本当に申し訳ないとしか言いようがない。
仕方ないんだ。
俺のと心優のは普段から提供してたし、仕方なかったんだ……。
「じゃあ明日作ってくるよ……。みんなの分も。その代わり、来週の月曜日は康ちゃんがみんなの分ね」
「明日はことちゃん。明後日があたしで、月曜日に康太。なんだか楽しくなってきたわね」
「たしかに。ありがとう琴羽」
「いいよいいよ~。じゃあ明日からしばらくは
そう来たか……。
しかしまぁ、琴羽のを食べれるだけでなく、また麗のも食べれて俺のもなんかついでに食べれるんだから千垣からしたらラッキーだろう。
俺たちと一緒に昼食っていうのもセットだけど。
とりあえず連絡入れておくか。
弁当はともかく、勝手に一緒に食べるってのもなんか悪いしな。
特に、麗とは初対面だからな。この間は俺が届けただけだし。
「あたし会ったことないのよね」
「あれ? お弁当あげたんじゃないの?」
「康太が持ってっただけなのよ」
千垣は結構人見知りをする性格だから、どうだろうと思ってそうしたんだよな。
慣れると結構ストレートとか飛んでくるんだけどな。
そのうちギターで殴られたりするんじゃないか?
……言ったら本当にやられそうだ。黙っておこう。
「それじゃあますます楽しみだね!」
「琴羽はほどほどにな」
「ちょっとそれどういうこと~!」
あの日、千垣に名前で呼んで欲しいと頼んでたのに、ずっと名前で呼んでもらえなかったからな。
きっと苦手なタイプと判断したんだろうな、千垣は。
たしかに琴羽と千垣がすごく親しそうにしてるのは想像できない。
友達にはなれると思うんだけどなぁ。
なんでだろ。
「ごちそうさまでした。ちょっと用事があるから行くね~」
「え、大丈夫なの?」
「今度は大丈夫だよららちゃん! それじゃ!」
「康太……」
「大丈夫だよ」
言えないよ。
サプライズの準備に行くから大丈夫だよとは。
琴羽よ。もっとうまく行けなかったのか。
「ならいいんだけど……。ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
俺たちも昼食を食べ終える。
麗と雑談をしながらその後も過ごしたのだが、やはり琴羽が心配なようで、時々ボーっとしていた。
今日の放課後までの辛抱だ。
それまでなんとか口を滑らせないようにしないと……。
そうして残りの授業も終え、何事もなく放課後を迎えた。
※※※
ちょうどいい言い訳を思いついたのもこの時だ。
千垣が昼休みに空き教室で一人でごはんを食べていることを麗にも言ってあった。
サプライズをする空き教室は別なので、邪魔はしていないぞ。
それはともかく、そのことを利用できるかもと思った。
実際にはメッセージで連絡しているが、弁当の件を伝えるから放課後に千垣のところに寄ると言えるのだ。
千垣の使っている空き教室がどこかまでは麗は知らない。
これでサプライズをする空き教室に連れていくことが可能だ。
ちなみに千垣は放課後は部活か帰宅かしているはずなので、空き教室にはいない。
でも麗は当然知らないから、俺はまさに策士。
本当にいいことを思いついたと自分を褒めたい。
しかし、クラッカー等の準備もあるのですぐには行けない。
俺はどうにか時間を潰し、千垣に弁当の件を伝えると麗に言い、一緒に教室を出た。
向かうのはサプライズの用意ができた空き教室。
クラスメイトたちからは準備おっけーのメッセージが続々と届いていた。
一人にしろよ。連絡役は。
「なんか緊張するわ……」
「いや、同級生なんだからそんな緊張しなくても……」
意外なことに、麗も結構人見知りらしかった。
この緊張感は逆にありがたい。
ここでクラッカーからのサプライズはどう考えてもおいしすぎる。
俺はにやにやするのを堪えながら空き教室の前に辿り着いた。
「ここだぞ。準備はいいか?」
これは実は中にいるクラスメイトたちへの合図だったりする。
「いいわよ」
「よし、じゃあ開けてくれ」
「あたしが開けるの……!?」
「おう」
何も理由を考えてなかったけど、緊張してるみたいだからたぶん開けてくれるだろう。
「じゃあ、開けるわよ……」
そう言って麗はなぜか勢いよく扉を開いた。
もし本当に千垣に会いに来たんだとしたら絶対驚かせるだけだろうと思った。
しかし、今回驚くのは麗の方だ。
扉を開けた瞬間。
パーン!
電気が付くと同時に、クラッカーの音が鳴り響いた。
麗は驚いてびくりと肩を震わせる。
「藍那麗さん! 誕生日おめでとー!」
と、クラスメイトたちの声が続いて響き渡る。
俺は、そっと麗の肩を押しながら教室に入った。
「え、あ、え……?」
「麗、誕生日おめでとう」
「え……?」
麗は困惑を隠しきれない様子で、まだ状況を把握できていない。
「ららちゃん、この間はごめんなさい! お詫びと言ってはなんだけど、みんなに協力してもらってサプライズ誕生日会を開かせてもらいました!」
クラスメイトたちから「ひゅーひゅー」や「おめでとー」などの言葉が飛び交う。
ようやく麗は理解したようで、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「えー! すっごいびっくりした! みんなありがと!」
教室内は、綺麗に飾り付けられていた。
学園祭の時に使った飾りも多くあるが、そうでないものもあった。
みんな頑張ってくれたんだな……。
「さぁさぁららちゃん。主役はこちらに……ささっ……」
「あ、ちょっとことちゃん?」
そう言って琴羽は麗を真ん中に連れていく。
真ん中には、ケーキが用意されていた。
周りにいた人がろうそくに火を灯す。
電気を消し、部屋をできるだけ暗くする。
そしてみんなで、みんな知っているあの歌を歌った。
「すご……。いつの間にこんなの準備してたのよみんな!」
その間にも麗は驚き続けていた。
歌が終わると、麗はふぅっとろうそくの火を消す。
そして、一斉に拍手が起こった。
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