第14話 「おはよう!」 さすがに違うと思う。

 琴羽ことはは明日には退院することになったらしい。


 俺はそれを聞いて安心して家に帰った。

 その日の夜。心優に琴羽は明日退院するよという話をした後、俺は再びうららと通話をしていた。


『よかったぁ……』

「昨日から大丈夫だとは言ってるけどな?」


 まぁ心配なのはわかるが……。

 俺はとりあえず、元気だったことと明日には退院することを伝えた。

 そうしていると、メッセージが入ってきていることに気づいた。


 それがなんだか不思議なメッセージだったので、何も言わずに覗いてみた。

 見ると、琴羽からの招待でグループになっている。

 どうやら麗以外のクラス全員が入っているらしい。


『それにしてもどうして倒れたのかしらね?』


 メッセージはこうだった。


【ららちゃんの誕生日が日曜日だったんだって! みんなでサプライズで祝わない?】


 それにクラスメイトたちはもちろん賛同する。

 もちろん俺も大賛成だった。


 とても面白そうだ。


 しかし、俺は気づいてしまった。


『ねぇ康太こうた聞いてる?』

「え? ごめんなに?」

『だから、何のストレスで倒れちゃったのかなって』

「さ、さぁ……?」


 俺は答えをはぐらかす。

 理由は、さっき気づいたことに関連している。


 たぶん、このサプライズは、自分のストレスの原因をこっちに押し付けようとしているんだろう。

 麗たちに知られるのが恥ずかしいから。

 さすがにそれでストレスは無理があるというか、いろいろな意味でひどすぎるけど、とりあえず麗には隠しておく。


 琴羽には後で落ち着けと言っておこう。

 麗の誕生日会の準備がストレスなんて、もっとひどいからな。


『まぁいいや。連絡ありがと。また明日ね』

「おう。おやすみ」

『おやすみ』


 そうして通話は終わった。

 麗だけのいないグループは、藍那あいなさんサプライズ誕生日会というグループ名になり、話し合いが続いた。


 そんな中で、忘れないうちに琴羽にメッセージを送る。


『冷静になって考えてみろー。この誕生日会がストレスってことにするつもりか?』

『しまったそれはひどすぎる!』


 たまにポンコツを発揮する琴羽はちゃんと気づいてくれたようだ。


『仕方ないから白状するか……』

『俺が言っておこうか?』

『もっと恥ずかしいからやめて!』


 やっぱり言わなくて正解だったか。


 その間にも誕生日会の話し合いは続いていた。

 俺はその内容が固まっていくと共に一つの決意をした。


 きっとみんなプレゼントを用意してくる。

 俺ももちろんプレゼントはある……。


 琴羽が俺と麗の中を勘違いしていたってことは、みんなも一緒だろう。

 それなら……。


『俺と麗、実は付き合ってないんだ。告白したいんだけど、段取りとか一緒に考えてもらっていいかな?』



※※※



 次の日。

 今日退院の琴羽は、今日はまだ学校に来ていない。


 なんだかクラスの連中は、俺も含めてそわそわとしながら一日を過ごした。

 麗へのサプライズ決行は明日の放課後だ。

 先生にも協力してもらい、空き教室を確保することができた。


 そこでの飾りつけも、昼休みやちょっとの休み時間を使い、バレないように少人数で作業を進める。


 俺はその辺手伝うことができないので、もどかしく思いつつも、麗にバレないように雑談を続けた。

 それは放課後も一緒で、麗を連れてさっさと帰ることにしている。


「今頃ことちゃん家に着いたかな?」

「着いてるんじゃないか? なんだか家に突撃してきそうだな」

「えー羨ましいわ。あたしもことちゃんとしゃべりたい」

七海ななみちゃんとかえでちゃんがいるんだから今日は諦めろ」

「わかってるわよ」


 なんとか普通に話せていると思う。

 ある程度おかしくても、バレない自信がなぜかあった。


 しかし、ここで異常事態が発生する。


「あ、スマホ忘れちゃったわ。先に行ってて」

「へ!? あ、ちょっと待った!」

「なによ」

「お、俺が取ってくる……よ?」

「なんで?」


 やってしまった。

 絶対におかしいじゃんこんなの。


 やばい。どうしよう……。


「あ、いや、俺も行くよ」

「いいわよ。先に行ってて」

「一緒に帰りたいんだけど、ダメか?」

「…………」


 すっごい怪しまれている気がする……。


「ま、いいわよ」

「ありがとう」


 俺は、麗が正面を向き直ったと同時に急いでみんなにメッセージを入れた。


『麗が忘れ物して教室に戻る!』

『なに!?』

『まじか』

『やべ』


 お前らメッセージ打ってないでなんとかしてくれー!


「なんか騒がしいわね?」

「部活とかでなんかあったんじゃないか?」

「そうかもね」


 麗が部活をやめていてくれて助かった。

 もし部活をやってたらこの手のでたらめは通じなかったかもしれない。


 無事に教室に入り、忘れ物であるスマホを回収する。

 何人か教室内に隠れているやつを俺は見つけたが、麗は気づかなったらしい。

 教卓の下。カーテンの裏。掃除用具の入ったロッカー。


 ロッカーから音がした時はどうしようかと思った。


 なんとか校門を出て、俺と麗は駅に向かう。


「ふぅ……」

「どうかした?」

「あ、いや、なんだか慌ただしいの見ると、こっちも焦るじゃん?」

「あー……たしかにそうね」


 次々にボロが出そうになる。

 一旦落ち着かないと……。


「そういえば自転車ありがとな」

「いいのよ。当然のことよ」

「返すのは土曜日でいいか?」

「いいわよ。ついでに寄ってく?」

「そうさせてもらおうかな」


 ついでにデートにでも誘おうかと思っていたが、まさか向こうから家に寄るかと誘われるとは。

 七海ちゃんと楓ちゃんも当然いるだろうが、家に呼ぶなんてもっと警戒した方がいいんじゃないだろうかと思わなくもない。


 でもこれで約束ができた。

 やっぱり嬉しい。


「それにしても、なんだか今日はみんなそわそわしてたわね? 何かあったのかしら?」

「さ、さぁ……」


 気づいてたのか。

 やばいこれは話を逸らさないと……。


「土曜の約束もいいけど、琴羽も一緒に遊びたいって言ってたぞ」

「あたしも遊びたいな~。あ、でもショッピングはパスかな……」


 あの時、着せ替え人形みたいにされたのを思い出したようで、どこか遠い目をしている。


 俺にはその気持ちを理解することができないが、何回も服を着替えるとなると、大変かもしれない。


「もう土曜日にみんなでどっか行くか? 心優も七海ちゃんも楓ちゃんも連れてさ」

「あ、いいかも……」


 すごく楽しいと思う……が。

 言ってから気づいた。

 もし告白が成功していたとしよう。


 すると、彼女、幼馴染(女の子)、妹、彼女の妹、彼女の妹というメンバーになる。

 こっちならまだいいが、もし告白に失敗したら……。


 考えたくもない。いろんな意味で。


「なら、ショッピングもありかなぁ」


 勝手に想像を膨らませている麗。

 その表情はとても楽しそうで、やっぱりやめようという雰囲気にはならない。


 あ、そうだ。


「もういっそのこと祐介ゆうすけ姫川ひめかわさんも誘うか?」

「あんたいいこと言うわね。佐古さこくんとはあんまり話したことないけど」


 彼女持ちでも、男が一人いれば俺の体力も持つはず。

 それに俺自身、祐介とあまり遊んだことがないので、ちょっと遊びたいという気持ちもあった。


 こんなに大勢で出かけられたら、さぞかし楽しいだろう。


「でも、楓もいるし、いきなりみんなでショッピングはちょっと無理かな」

「それはそうだな」


 突然知らない人がいたらいくらしっかりものの楓ちゃんも大変だろう。

 むしろ、しっかりものだから気を使って大変かもしれない。


「とりあえず、心優ちゃんは初めてじゃないから良しとして、後はことちゃんかな」


 振り出しに戻った。

 ここは諦めるしかないらしい。


 駅に着き、電車に乗って並んで座る。


「康太とあたしとことちゃんで、ちょっと遠出するのもありね」

「みんなで遊園地とかも行ってみたいよな~」

「いいわね~」


 なんだかどんどん話が進んで行く。

 心優も遊園地とかで思いっきり遊ばせてやりたいしな。

 その時は真莉愛まりあちゃんも誘えるといいな。


「こういうこと考えてると、遊びたくなっちゃうわね」

「とりあえず土曜日の予定考えようぜ。きりがないよ」

「たしかにそうね」


 ふふふと笑う麗は、いつ見てもかわいらしい。


 その後は土曜日にどうするかを話し合いながら電車に揺られた。

 とっくにサプライズをするという緊張感は俺から消えていて、そこからは問題なく麗と会話をすることができた。


 当然バレるようなこともなかった。

 先に電車から降りるのは俺なので、また明日と言って麗と別れる。


 電車を降りて、少し伸びをしてから俺は歩き出した。

 今日は俺が当番なので、とりあえずスーパーに向かう。


 今日何を作ろうかを考えながら、安い野菜なんかを買っていく。

 なんとなく、お菓子も買って行こうと思っていくつかお菓子も買った。

 心優が好きそうなやつも買っていく。


 家に着くと、心優はすでに帰っていた。


「ただいま」

「おかえりぃ」


 俺は買ってきたものを一旦キッチンに置き、学校の鞄などを部屋に持っていく。

 着替えてから手洗いうがいをして、エプロンを付けてキッチンに立つ。


 今日の献立は、とんかつにしようと思う。

 肉が安かったのだ。


 まずは肉をパックから取り出し、切れ目を入れて塩、胡椒で下味をつける。

 小麦粉、卵、パン粉を別の皿に用意し、その順番で肉につけていく。


 後は油で揚げるだけ。


 その間にキャベツの千切りと味噌汁と冷奴を用意する。

 とんかつが綺麗なキツネ色になったら、油から取り出して好みの大きさに切り、皿に盛りつけて完成だ。


 ご飯を盛りつけ、食卓に持っていく。

 運ぶのは心優も手伝ってくれた。


 二人で手を合わせてとんかつを一口……。

 とてもジューシーで柔らかく、おいしかった。

 いい肉だったらしい。


「ん~おいし~」


 心優も満足そうに、頬を押さえている。

 我ながらうまくできたようで、すぐに食べ終わってしまった。


 その後は先に心優が風呂に入り、俺が皿洗いをする。

 次は俺が風呂に入って、二人でテレビを見た。


 いつも見るバラエティー番組をリビングで眺める。

 いつもの日常って感じだった。


「そういえば、ことお姉ちゃんのストレスの原因ってなんだったのぉ?」

「あー……。それは本人から聞いてくれ……」


 きっと心優にも言っちゃダメだ。

 今度は俺が怒られてしまう。


「ん?」

「はーい」


 こんな時間にインターホンが鳴る。

 心優がすぐに玄関に向かった。


 俺も遅れて玄関に向かう。


「あ、琴お姉ちゃん!」

「みっちゃんおはよう!」

「おはよっ!」


 いつもの挨拶と共にハイタッチをする二人。

 いくらなんでも夜におはようは違うと思う。


「どうしたんだ琴羽」

「映画みようぜ映画!」

「お、いいねぇ」

「なんでホラー映画なんだよ……」


 心優はノリノリで琴羽を招き入れ、準備を始める。

 たぶんだけど、あんまり交流できなかったから交流したかったんだろう。


 ま、俺も嬉しいからいいんだけどさ。

 いいんだけど……。

 なんでホラー映画なのか。


「やっぱりホラーだよね!」

「琴羽ってそんなにホラー好きだったっけ?」

「別に?」

「いや何なんだよ」


 もうすぐ冬だし本当にわけがわからん。


「準備できたよぉ」

「よし! じゃあ見ようぜ! あ、こうちゃん電気消して~」

「はいはい……」


 そうして俺たちはなぜかホラー映画を見始めた。

 なんでこんな季節、こんなタイミングに突然ホラー映画なのか本当に訳がわからないが、二人とも楽しそうだし良しとしようか。


 俺はそんな二人の様子を写真に撮り、麗に送ってみた。

 麗からは、羨ましいからこれからあたしも行くというメッセージが届いた。

 俺の周りの人たちは、テンションがおかしくなっているらしい。


 もう少し落ち着いて欲しいと、俺は思うのだった。

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