第12話 「お待たせ」 とても似合っていてかわいかった。
十一月七日。
午前九時三十分。
俺は
今日も天気は晴れで、ぽかぽかと暖かい。
しかし、人の出入りはまだそこそこだ。
というのも、ゲームセンターが開くのは十時からだし、ショッピングモールもだいたい十時からだ。
だから天気の割に、人はまだ少ない。
俺たちは九時五十分には集合ということになっていたのだが、電車の都合などもあり、早めに着いていた。
さっと辺りを見回すが、
あの金髪なら、見落としたということはないだろう。
スマホを触ったり、周囲を気にしたりしながら待つこと数分。
「
「おう麗。おはよう」
「おはよ」
ついに麗がやってきた。
白いインナーに茶色のカーディガンで、スカートは良く見ると模様のある灰色のスカートだ。
カーディガンの色に合わせたベレー帽のようなものを被っている。
服装は派手すぎない印象だが、それによって際立つ金髪が綺麗だ。
とても似合っていてかわいい。
「似合うなぁ」
「ありがと」
素直に感想を言えた俺を誰か褒めて欲しい。
なんて
「まだ開店まで時間あるわね。どうする?」
「そうだな。やってる店もないだろうし、ゆっくり歩けばちょうどいいんじゃないか?」
「そうね」
そう言って俺たちはゆっくりと歩き出す。
「
「お見通しだな。いつもは部屋にいるらしいけど、せっかくだからって」
「ふふふ。いつもより賑やかな誕生日になりそうだわ」
そう。今日は麗の誕生日。
まずは誕生日おめでとうと言いたかったが、グッと堪える。
それはパーティーの時まで取っておかないと。
「午後から楽しみにしておいてくれよ? ま、俺は七海ちゃんと
「ふふふ。午後だけじゃなくて、午前も楽しみにしてたわよ?」
「お前はまたそういうことを……」
「ふふふ」
口元を押さえながらくすくすと笑う。
からかっているのか本音なのかわからないが、ちょっと頬が赤いので後者だと思っておこう。
「心優ちゃんは何してるの?」
「それが心優に怒られてね……」
「え? 心優ちゃんに? なんで?」
「麗の誕生日がわかったら教えてくれって言われてたのに、言い忘れてて……」
「何やってるのよ……」
少し呆れたように麗は「やれやれ」と言った。
「心優もプレゼント用意するって言ってた」
「それは嬉しいわね。楽しみにしてるわ」
そうしているうちに、ゲームセンターの前に着いた。
時間的には、少し十時を過ぎていて、ちゃんとお店は開いていた。
俺たちは、ゲームセンターの中に入る。
まだあんまり人はおらず、すいていた。
どこのゲームもすぐにでもできると思う。
「まずは何しようか?」
「あたしゲームはそこそこよ」
「ならなんか対戦でもしてみるか」
俺はあんまりゲームを持っていないし、ゲームセンターも全然行かないから得意とは到底言えない。
たぶん麗も同じ感じだと思うので、結構いい勝負ができるんじゃないだろうか。
「康太、そこのゲームは?」
「いいね」
赤い帽子の某有名キャラクターたちがレースをするゲームだ。
ただのレースではなく、アイテムなんかも各所で入手でき、相手の妨害や、自身のスピードをあげることなどができる。
俺たちはお金を投入し、椅子に座ってハンドルを握る。
一緒にできるように画面を操作し、いよいよレースが始まった。
「いくら初めてでも負けたくないわね」
「俺もだ」
レースは一騎打ちで、アイテムを駆使しながら追い越したり追い越されたりを繰り返す。
最後の周回。俺はアイテムを当てられ、麗に追い越されてしまう。
俺はいいことを思いついた。
この相手にぶつけるアイテムを取っておいて、最後の最後に当てて逆転しよう。
俺はひそかににやにやしながらその時を待つ。
「今だ!」
俺はアイテムを放り投げる。
「あれ?」
たしかに、アイテムはぶつかっているように見えたが、麗の操作するキャラは、ダメージを受けた様子無く、そのままゴールした。
「にやにやしてたから何か企んでると思ってアイテムで防御させてもらったわ」
「そ、そんなことが……!」
ドヤ顔でそんなことを言われてしまう。
完全に敗北だ。
「も、もう一回!」
「じゃあ、先に二回勝った方が最終的な勝ちね。負けたらそこのアイスを奢る」
「よし。負けないぞ」
もう一度お金を入れ、レースを開始する。
しかし、残念ながら俺の負けだった。
「はい、あたしの勝ち~」
「ちくしょー!」
悔しい!
また負けるなんて!
せめて一回は勝ちたかった……。
「じゃ、アイス奢ってね~」
「はいはい……」
自動販売機のアイスを二つ購入する。
麗はストロベリーアイス。俺はチョコチップアイスを買った。
近くのベンチに座って二人でアイスを食べる。
「ん~おいし」
「そうだな」
そこで俺はピンと閃いた。
これは今朝の仕返しをするチャンスなんじゃないか?
「麗、一口くれないか?」
「そっちも一口くれるならいいわよ?」
あ、わかった。
これ俺から言わせる作戦だ。
挑発的に微笑む麗を見てわかった。
しかし俺はそんなことでは屈しない。
最悪の場合は共倒れだ!
「いいぞ? ほい」
「あ……」
なんとか平常心を保ちながらアイスを差し出す。
そう言うからには当然こっちからアイスを差し出すに決まっているだろう!
「じゃあ……」
そう言って、控えめにはむっとアイスを食べた。
少しもぐもぐしてから、
「こっちもおいしいわね」
と言った。
どうだ。
参ったか!
「じゃああたしのも……。はい、あ~ん」
「え……。あ、あ~ん……」
やばい。
味わかんない……。
弁当を食べさせ合うということはしたが、これはなんかそれとは違う。
だってこっちはデート中みたいなもんだし……。
「どう?」
「お、おいしいよ」
どうしても返答がぎこちなくなってしまう。
麗の方も頬がほんのり赤くなっている。
それから俺たちはどうもうまく話せなくなり、黙々とアイスを食べた。
食べ終わったゴミをゴミ箱に捨てて立ち上がる。
「次は何する?」
「そうだなぁ……」
パッと箱の形をしたゲーム機? が目に入ったので、俺はそれを指さす。
「あれってどんなのなんだ?」
「見てみる?」
見ると、銃の形をしたコントローラーを画面に向け、画面に出てくるゾンビを倒す協力ゲームらしい。
ガンシューティングゲームというのは後に知った。
「へぇ~協力ゲームなのか。ちょっとやってみないか?」
「いいわよ」
というわけで、二人で中に入って座る。
カーテンを閉じると、真っ暗なところに二人きりでなんだかドキッとした。
お金を投入して、コントローラーの銃を持ち、画面の操作に従う。
ちょっとしたストーリーが流れて、ゲームが始まった。
「こういう世界観って、あんまり得意じゃないのよね」
「俺もだ」
某ゾンビ映画とか、怖くて見たくない。
「難しいな」
「このままじゃ弾が無くなるわ」
俺たちはあっさりゲームオーバーになった。
お互い顔を見合わせ、首を振って外へ出る。
「これはダメだわ」
「同感だ」
もともとゲームが得意な方じゃないんだ。
こういうのは難しすぎる。
次に向かったのはユーフォーキャッチャーだ。
かわいいぬいぐるみや、アニメのキャラクターが描かれているグッズが置いてある。
「かわいい……」
「ん?」
「取るわ」
麗がチャレンジを始めたのは、少し大きめのハムスターのぬいぐるみだ。
愛くるしい目をしていて、腕にすっぽい収まりそうな感じがなんかいい。
麗は即座にお金を投入し、手元のボタンで操作し、ハムスターを狙う。
「難しいわね……」
ハムスターを持ち上げることに成功はするが、なかなか穴まで持って行けず、獲得できない。
「ちょっと代わって」
「いいわよ」
麗と交代し、俺もチャレンジするが、これが意外と難しい。
持ち上がってはくれるが、うまく穴に落ちずにぼよんと跳ね返ってしまう。
「次はあたしやるわ」
「おう。横から見とくよ」
麗が操作をし、俺が横から指示を出す作戦に変更。
いい感じのところでストップといい、麗はボタンを離す。
さっきより惜しい気がするが、なかなか獲得にならない。
「もうちょっとなんだけど……」
「次は俺がやる」
今度は麗が横で指示を出し、俺が操作を行う。
横の軸はこちらから見て、いい感じのところで止める。
奥行きの部分は、麗の指示に従う。
「ストップ!」
そう言われるとほぼ同時に俺はボタンを離す。
先ほどよりがっちりとハムスターを掴んでいる気がする。
「もうちょっと!」
「いけ!」
そしてついに、ハムスターのぬいぐるみは穴に落ちた。
「「やったー!」」
思わず二人でハイタッチをする。
お互いに手を握り、喜びを分かち合う。
「嬉しいもんだな!」
「そうね! さっきのより協力してる感じがしたわ!」
俺は、取り出し口からハムスターを取り出し、麗に渡す。
「いいの?」
「当然だろ?」
「ふふっ。ありがと」
ハムスターのぬいぐるみを、ぎゅっと抱きしめる麗は、とてもかわいらしかった。
※※※
その後、しばらくいろいろなゲームを楽しんだ。
太鼓を叩くゲームや、バスケのゲーム、メダルゲームも少しだけやってみた。
どれも楽しく、とても充実した時間を過ごすことができた。
「最後にプリクラ撮って行かない?」
「来たか……」
「なによ」
まさか本当に言われるとは……。
「男からしてみれば、プリクラはラスボスなんだよ」
「よくわからないわね」
わからないさ……。
「で、撮るの? 撮らないの?」
「撮るよ」
「何なのよ」
当然好きな人と撮らないなんて選択肢はない。
ただやはり、撮り方とかわからないし、いろいろ緊張する……。
麗が適当に選んだ筐体の中に入り、お金を入れる。
フレームとかなんか選べるらしく、麗にどうするか聞かれたが、まったくわからないのでお任せすることにした。
そしてついに撮影に入るらしい。
どういうポーズすればいいのだろうか。
学校とかの写真とかはピースだけどここは何をするのが正解なんだ?
「そんなそわそわしなくても、適当にポーズ取っとけばいいのよ」
「そんなもんか?」
「ほら、もう撮るわよ」
カウントダウンが始まってしまう。
俺は焦ったままとりあえず適当にポーズを撮った。
「結局何したの?」
「まぁまぁ」
どうせ後でバレるのに、恥ずかしくて言えなかった。
麗は特に気にすることなく次に移る。
まだ撮影をするらしく、もう一度ポーズを取れと言われた。
「と言われてもな」
困った。
また変なポーズをするわけにはいかないし……。
「なら、こうするわ」
「ひっ!」
突然麗が腕に絡みついてきた。
「ちょ! 何してるんですかね!?」
「いいじゃない。ほら、撮るわよ?」
「あ、ちょっと待っ!」
無慈悲にも、シャッター音が響いた。
すべての撮影を終え、落書きをすることに。
こんなこともできるんだなぁ。
「こりゃないでしょ」
「だってさぁ……」
最初に取ったポーズがバレてしまった。
俺が取ったポーズは指で丸を作って目元に当てて眼鏡にするポーズだ。
正直アホだと思う。
「ま、思い出思い出」
「なんで上から眼鏡の落書きするんですかね?」
さすが麗というべきか、落書きのセンスが高い。
俺を思いっきりいじめてくる。
「これ、すっごい驚いてる顔ね。ふふ……」
「ちくしょう……」
腕にくっつかれたやつは、すごく驚いた顔をしている。
続けて撮ったやつは顔を真っ赤にして照れてるやつが撮れている。
最悪だ……。
「いや~すっごくよかったわ」
「女王様に満足いただけたようで光栄です……」
「そんなに落ち込むことないじゃない。はい」
麗から写真を半分渡される。
中には普通にお揃いポーズで撮ったやつもある。
隣を見れば、例の写真を見て麗がくすくすと笑っている。
まぁ、麗の笑顔が見てたし、よしとするか。
「じゃあそろそろ帰りましょうか」
「そうだな」
七海ちゃんと楓ちゃんはすでに準備を終わらせて待っているかもしれない。
もう昼近く、かなりいい時間だった。
俺たちは、二人でゲームセンターを出る。
麗の家に向かって歩き出そうとすると、俺のスマホに着信が入った。
着信なんて珍しい。
麗に一言断りを入れて電話に出た。
電話番号は、知っている番号だった。
「あ、康太くん!?」
「おばさん、どうかしたんですか?」
電話を掛けてきたのは琴羽の家の電話から、琴羽のお母さんだった。
なんだか焦ったような雰囲気に、俺も思わず身構える。
その緊張が麗にも伝わったようで、麗も真剣にこちらを見つめる。
「
「琴羽がどうかしたんですか!?」
「琴羽が倒れちゃったの!」
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