第6話 「うん。そうだね」 思い出しつつそう答えた。
「ただいま」
「おかえり~」
家に帰ってくると、
今日は俺が当番なので、心優はリビングでテレビを見ていた。
俺は荷物を部屋に置き、手洗いうがいをしてからキッチンに立った。
何を作ろうかということはもう考えてる。
もちろん材料はすでに購入済み。
準備万端だ。
というわけで、今日はハンバーグを作ろうと思う。
まずは玉ねぎをみじん切りにする。
ひき肉、パン粉、卵、牛乳、塩、胡椒、先ほどの玉ねぎを用意し、適当に混ぜ合わせる。
形を整え、真ん中に窪みを作って窪みを上にして焼き上げる。
焼き目がついたらヘラを使って引っ繰り返し、蓋をして焼き上げる。
ハンバーグを作る前、作ってる間を利用して、うまくサラダやみそ汁を作ろう。
蓋を開け、竹串を差し込み、透明な肉汁が出てきたら完成だ。
作っておいたサラダと味噌汁、炊いておいたご飯を盛り付け、テーブルに並べる。
並べるのや、箸などの準備は心優も手伝ってくれた。
二人で席に着き、手を合わせ「いただきます」と言ってから食べる。
「おいし~♪」
「また焦がすかと思ったよ」
「あれはさすがに勘弁してほしいねぇ」
前回俺がハンバーグを作ったときは焦がしてしまったから、今回ちょっと心配だった。
その心配も杞憂に終わってよかったが……。
「明日、コロッケでも作ろうかなぁ」
「お、いいね」
「最近さらにうまくできるようになったからねぇ」
最初に作ったときもおいしかったが、最近は慣れてきたのかさらにおいしさが増している気がする。
これは楽しみだ。
「最近カツ食べてないから、それもありかもぉ」
「この前その肉が売ってなかったんだよなぁ。見かけたら買うよ」
「お願いねぇ。わたしも見かけたら買うからぁ」
「わかった」
カツのことを話していたらなんだか食べたくなってきた。
これはすぐにでも手に入れたいところだ。
二人で「ごちそうさま」と手を合わせて、食器をキッチンに運ぶ。
俺は、食器を洗った後、心優が風呂から出るまで待ち、風呂に入ってから就寝した。
※※※
そして日曜日を終えて、月曜日。
昨日はしっかりとコロッケを食べて元気いっぱいだ。
今日はカツに使う肉を狙って行こうと思う。
それはともかく、平日なので当然学校がある。
いつものように準備をしてから、俺は
この時間なら朝練に行く人や出社する人もいないので、比較的空いている。
どこに座ろうかと周りを見回すと、こちらに手を振っている人を見かけた。
「おはよう
「おはよ。ここ座っていいわよ」
「ありがとう」
俺は麗の対面に腰を下ろす。
「
「好奇心の塊だよなー」
「でもたぶん。一個一個教えないとダメなタイプよ」
「麗がそう言うならそうなんだろうなぁ……」
あの時の料理教室を思い出してみる。
俺は
きっと大変だったんだろうなぁ……。
「また今度教えることにするわ」
「人手不足なら俺も手伝うから呼んでくれ」
「そうするわ」
その後も何気ない雑談をしながら電車に揺られる。
一度伸びをしてから、俺は麗の隣を歩いた。
昨日のテレビについて話したりしているうちに学校に到着した。
下駄箱で靴を履き替え、教室に向かう。
教室に入ると、朝練も終わったのかたくさんの生徒がいた。
その中の一人、朝練はないだろうが彼氏と登校するために早く来ている生徒、
「おはよう麗ちゃん、
「おはよう奏」
「おはよう姫川さん」
どうやら
「一昨日は本当にありがとねっ」
「いいのよ、気にしなくて」
「それでお願いなんだけど……」
「ん?」
「お弁当を一通り作れるようになりたくて……」
一昨日教えたのはオムライスだけだった。
そしてこの聞き方の感じ……。麗の言っていた一個一個教えないといけないと思うという予想は大当たりだろう。
たぶん、卵焼き、ハンバーグなどの一つ一つを教えなければいけないんだ。
そういえば、もともと弁当を作りたいって話だったな。
先に祐介の好物を選んだのは、もはや本能とも言える何かが働いたんだろう。
「それなら教えるけど、放課後一つ一つってのは難しいわよね……」
「麗ちゃんの家までちょっと距離もあるし、バレないようにするのもできないかも……」
祐介に姫川さんが料理を勉強しているということがバレないようにしなくちゃいけないんだよな。
「そういえば姫川さん部活は何してるの?」
「わたしは手芸部だよ。水曜日だけ活動で作品を見せ合ったりして、後は行かなくてもいいの」
「へぇ……そんな部もあったのか……」
ぶっちゃけ何の部活があるのか把握していない。
学園祭の時、CDを吊るしていたあの部は一体どこなんだろう?
「あれ? でも祐介と帰ってるんじゃないの?」
「祐介から聞いたっ……? 水曜日以外も部室で作ってるから、それで一緒に帰ってるの」
「あ、そういうことか」
なら祐介にバレずに帰ってどこかで料理教室というわけにもいかないのか。
「やろうと思えば水曜日以外は部室に行かないこともできるのね?」
「一緒に帰らなければできるかなっ。夜にもできるし。でも、バレちゃうんじゃないかな……」
「そこよね」
毎日一緒に帰っているというところが問題だな。
帰ってこっそり練習なんてこともできないわけだ。
ちゃんと先に帰ると伝えないといけないから。
あれ?
「そういえば、先週俺と朝に会ったことあったよね?」
「うん。そうだね」
「その時に祐介に何してるかは内緒みたいな話してなかった?」
「そういえば……たしかに」
俺が姫川さんにお礼をしたいと言い続けたら、姫川さんがこっそり料理のことを教えてもらうのもあるからもうお礼は十分と言ってくれたんだ。
その時、祐介が内緒話かと聞いてきて、まだ内緒と姫川さんが言ったんだ。
何をしてるかまではわからないけど、何かをしているのはバレているのでは?
「なら、何かしてるのはバレてるってこと?」
「そうなるな」
麗の言う通り、何かをしてるのはバレてるのだから、何をしているかさえバレなければ何しててもよさそうだ。
「でもやっぱり放課後は難しいわね。距離的な意味で」
「じゃあ、水曜日はどう? 水曜日は祝日だし、麗ちゃんさえよければ……」
「特に予定はないからいいわよ」
「やったっ」
決まりだな。
「康太(こうた)も来る?」
「行かせてもらおうかな」
「りょうか~い。たぶん妹たちもいるからよろしくね」
「わかった」
「後で材料の分担とかは決めましょう。
「やべ」「あ、ほんとっ……」
祐介がクラスの人たちに挨拶をしているうちに姫川さんが俺たちから離れていく。
俺は麗に適当な雑談を振りつつ、姫川さんの様子を見た。
俺たちと話していたことはバレていない様子だった。
※※※
次の日。
昨日の夜のうちに材料の分担なども決め、今日の放課後、みんなで買い物をしに行くことになっている。
いつも通りの遅めの時間に家を出て、咲奈駅に向かう。
今日は曇っていてなかなかに寒い。
もう冬でいいんじゃないかという寒さだ。
早く電車に乗りたいと思いつつ待つこと数分。
ようやく電車に乗り、ほっと一息付けた。
外をぼんやりと眺めながら踊咲高校前駅に到着するのを待つ。
なんだか雨でも降ってきそうだ。
踊咲高校前駅に着き、電車から降りる。
一度伸びをして、歩き出そうとすると、声を掛けられた。
「康太」
「あ、麗おはよう」
「おはよ」
声を掛けてきたのは麗だった。
最近この時間の電車に乗っていることが多い。
「あれ? そういえば部活は?」
それで思い出した。
麗がこの時間の電車に乗っている時は、月曜、水曜、金曜の三回だった。
しかし今日は火曜日。そういえば、先週も先々週も火曜、木曜とこの時間に会った気がする。
つまり、火曜日と木曜日もこの時間の電車を利用しているということになる。
麗は火曜日と木曜日はバスケ部に参加していた。
なら、朝練でこの時間にはいないはずなのだ。
「今頃気づいたの? 放課後も材料買いに行く約束してるのに」
「いやぁ……。あはは……」
「まったく。やめたのよ、あの部活」
「え!? やめてたの!?」
驚いた。
バスケ部をやめてたなんて聞いてない。
「だってまたあの人と会う可能性があると思うとちょっとね……」
あの人。
麗とはいろいろあったからな。
言われてみれば、学園祭の後からだったな。火曜日と木曜日も、麗とこの時間に会うようになったのは。
「だからやめたの」
「そうだったのか。麗に聞くのは悪いと思うが、先輩はどうなったんだ?」
「さぁ……。すぐに退部届け出して、もう顔も出してないから全然わかんないわ」
「そうか。ごめんな、嫌なこと聞いて」
「ううん。もう全然大丈夫だから」
さすがに学園祭のあの時のことは広まっているだろうし、もう生徒のほとんどが知ってるだろう。
この状況で部活を続けているとは到底思えない。
まぁ、罰が当たったと思ってもらうほかないな。
「むしろ――」
麗がぼそぼそっと何かを言ったが、最初の方しか聞こえなかった。
「え?」
「なんでもないわ」
そう言ってくすっと笑う。
気になるなぁ……。
上機嫌の麗は、小さいスキップをしながら俺の前へ出た。
「そのうち、答えてあげる」
「なんだよそれ」
「ふふ~ん」
なんで急に上機嫌になったのかわからないが、嬉しそうにしている麗を見ているのは、なんだか心地よかった。
下駄箱で靴を履き替えて、教室に向かう。
今日はすでに、祐介が教室にいて姫川さんと話していた。
なので姫川さんがこちらに話に来ることはなかった。
まだどこかで何かをしているようだ。
俺は自分の席に着き、教科書などを机の中に入れ、ホームルームが始まるのを待った。
「はい、じゃあ席に着けー」
先生の声がぼんやりと聞こえる。
外を眺めていると、雲が増え黒くなっていることに気づいた。
「あ、雨だ」
ぽつんぽつんと雨が降り始める。
折り畳み傘が鞄に入っているから別に構わない。
あ、いや、そういえば教科書を出すときに折り畳み傘は見当たらなかったな。
やってしまった。
どうやら、傘を忘れてしまったらしかった。
「はぁ……」
心優は傘を持って行ってたかなぁ。
「はい、じゃあホームルーム終わりなー」
ため息をついていると、どうやらホームルームが終わったらしい。
いつの間にか、琴羽が席に着いているのに気づいた。
一体どのタイミングで入ってきてたのか。
とてもギリギリだったんじゃないなかと思う。
俺はもう一度窓の外を眺める。
すっかり本降りになってしまった雨は、今日一日は止みそうになかった。
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