第19話 第二章-7

 ホワイトは自らの発言を追認する。


「じゃあ、ある程度の期限はわかってるのね。私たちが穴を掘り終えなければならない時期はいつなの?」

「考えればわかることだよ。会長が言うように一月後――つまり文化祭までに掘り終えることが出来ればそれが理想だ。でも、これはもう物理的に無理だよね」


 実のところレッドは、それぐらいまでに掘り終える勢いで考えてはいた。

 しかし今日、誰も呼びかけに応じてはくれなかったという事実が、勢いを目減りさせている。

 だからこそホワイトのその言葉に、レッドは渋々ながら頷いた。


「となると次の機会だ。今度、中学生を中心とした入学希望者が総央高校を訪れるのは……?」


 そこでホワイトはわざとらしく、言葉を切った。

 レッドは必死で記憶を辿り寄せる。横を見ると修平も同じように悩んでいた。


「あ、グリーン。早く食べないと、ちくわはおいしくないよ」


 ホワイトが狙いすましたように、修平が取り皿に置いていたちくわをネタに茶々を入れる。


「ああ、てめぇ、うるせぇ! わざとだな! そうに決まった!!」

「何だと言うんだい? 僕が親切に……」


 案の定、言い争いが始まった。

 自分も巻き込まれてはたまらない。レッドは反射的に自分の取り皿を見る。


 よかった、なにもない。


 と、そこでレッドの頭の中の回線が不意に繋がった。


「学校見学……そうよ、学校見学ね。確かあれは年明けじゃなかったかしら?」


 レッドは確認するようにホワイトに尋ねる。


「うん、そうなんだよ。恐らく、いや間違いなくその日が、最終期限となるだろうね。ほとんどの受験希望者は、事情を承知の上でやってくるのだろう。しかし、やはり山越えはきつい。体験すれば翻意する人も少なからずいるだろうね。でも、トンネルが完成していれば……」

「そうね、通学路問題は一気に解決することになるわね」

「ほへ……だけじゃない」


 ちくわを一気に飲み込んだ修平が、二人の会話に参加する。


「そのトンネルを作った奴は、無条件で注目を浴びるぞ。それも新入生に特にだ」

「掘った奴って、私たちの事じゃない」

「正確には、掘る予定の人達ってことになるね」


 修平の言いたいことを、すでに読んでいるのだろう。

 至極冷静に、ホワイトはレッドの言葉を修正する。


「だから、これ以上ない部員の勧誘になるだろうが。俺はまぁ、テストしなくちゃならんが、レッドの所やホワイトの所も酔狂な人間が入る可能性を広げると言うことで」


 その言葉に、レッドは一瞬虚をつかれ、ついで喜びに顔をほころばせた。


「そ、そうか。そうよね。今までよくわかんないままに『掘るぞ~~!!』って気分だったけど、そういうことなら……うん! 全然いい感じよね!!」


 そのレッドの言葉に、今度は修平が驚かされる。


「今まで、このことに気付いてなかったていうこと自体が……大体気づきもしないで、なんだってあんなにモチベーションが高かったんだ、こいつは」

「まぁまぁグリーン。それがレッドというものだよ」

「じゃあ、次の問題点行きましょう! 確か真っ直ぐ掘る方法だったわね」


 さらにテンションを上げて、レッドが高らかに口火を切る。

 修平はやれやれと肩をすくめ、ホワイトは笑みを浮かべる。


「実はそれに関しても腹案があるんだ。まずとある器具を用意するんだ……」


 ホワイトのその腹案とは、ちょっと聞く分には子供の遊びのような話であった。

 しかしホワイトの箸と、柔らかく煮えた大根とのコンビネーションによって具体的な実施方法を説明された修平とレッドは、ついには反論材料をなくしてしまった。


 もとより、他に腹案のあるはずもない。

 その後も色々と細かなことを話し合った。


 資金の調達方法――結局、何とかしてアルバイトを捜すことになった。


 掘る時間――極秘裏に行わなくてはならないので放課後限定。


 役割分担――背の高さなどから考えても、堀り崩すのは修平とホワイト。レッドは掘り出した土を外に捨てていくという分担に。レッドはそのための台車の調達まで視野に入れての、役割分担となった。


 予算の管理――これまたレッドの管轄。他の二人は口を揃えて「自分に自信がない」と言い切ったためである。また、予算案に関してはホワイトに一任されることとなった。


 ――等々と話し合っている内に箸も進み、ついには大きめの鍋の中から全てのおでんだねが姿を消した。

 既にコンロの火は落としてある。


 余熱で未だにぐらぐらと揺れるだし汁の表面を、三人で見つめあい、そしてほとんど同時に顔を上げ、お互いの顔を見つめ合う。


「実は最大の問題が残っているんだよね」

「あ、俺も気付いてるぞ」

「私もわかったわよ。あなた達がやたらにこの計画を極秘扱いするから、考えてみたのよ。そしたら、ある理由に思い至ったの」


 三人は同時に頷き、そして同時にその問題点を口にした。


「「「あの山の持ち主は誰だ?」」」


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