ハイパーカジュアルデモ鎮圧作戦

ちびまるフォイ

そんな簡単にデモるんじゃない!

「あのすみません、ここはなぜ渋滞してるんですか?」


「デモだよ、デモ。行列が道路の前を封鎖してるのさ」


「デモ? 何のデモですか」


「自動販売機の"あったか~い"を

 "あったかい"に記載変更したことへのデモみたいだよ」


「はい!?」


結局、デモの影響でいつもの道を使うことが出来ず

研究室にたどり着く頃には日もくれていた。


「あ、教授。遅いですよ。今日はどうしたんですか?」


「いや実はデモがあったとかで……」


「最近多いみたいですね」

「そ、そうなの?」


「SNSで批判するよりもデモのほうが

 効果はありますし、何より同じ意見を持つ同志と一緒に

 戦えるっていう充実感もありますから」


「サークル活動みたいに言われても……。

 しかしね、あったか~いをあったかいにしても

 世界の半数以上は困らないような気はしているよ」


「人によっては大問題なこともありますから。

 それより問題なのは、デモ犯罪のほうです」


「デモに乗じて盗みを働く、とか?」


「それもありますけどデモがエスカレートして

 デモに反対する人を叩きのめしたりする

 危険なこともあるみたいです」


「僕もボコられていたかもしれなかったのか……」


教授は改めてデモを迂回してよかったと安心した。


「しかし、なんとかならないものですかね。

 こう毎回デモられると困る部分も多いんですよ」


「うーーん。そうだねぇ」


「国は催涙弾使っているんですが

 その行為自体への批判デモが起きてますし……」


「ようし、しれっとデモを解散させるものを作ろう!」


教授は全自動卵割り機の開発を一旦ストップさせて、

新しい開発をはじめた。


そうして完成したのは透明な水だった。


「教授この水が新しい開発なんですか?」


「これこそが"倦怠期水"だ。

 この水をスプレーボトルに入れてみたまえ」


「入れました。ちょっと手についちゃいました。

 教授がタメ語なのに少しイラつくだけで

 とくに人体には影響ないみたいですね」


「ふふふ。それこそ効果が出ている兆候だよ」

「え?」


「倦怠期水は触れた人を倦怠期にさせるんだ!」


「……効能がよくわかりません」


「わかりやすいように軍人を連れてきたよ」


ガラガラと教授は荷車で軍人ふたりを連れてきた。

日頃の厳しい訓練もあり、連携と信頼がしっかり取れている。


「ここにいる2名は同じ釜の飯を食って、

 同じ布団で寝て、同じ訓練を受けた戦友同志だ。

 すさまじい信頼関係が出来ているだろう」


「はあ」


「この二人に倦怠期水のスプレーをかける」


プシュ。

霧状になった倦怠期水が軍人ふたりが浴びた。


すると、さっきまで目の奥にたたえていた信頼の光が消え

離婚間近の熟年夫婦ほどお互いを憎み、嫌い合うようになった。


「きょ、教授!? これは!?」


「わかったかね? 今、二人は倦怠期になった。

 もうお互いの一挙一動が憎たらしくてたまらないだろう」


「軍人どうしがくちげんかをはじめました!!」


「倦怠期水の効果はばつぐんだな!

 お互いを嫌うから団結ができなくなるんだ」


「教授! 素晴らしいです!

 これはすぐに国へ提出しましょう!」


「国へ?」


「国へ認可されれば多くの場所で、

 デモに困っている人を助けるために使われます!

 私達の開発がたくさんの人を救うんです!」


「なるほど! それはそうだな!!」


教授と助手はすぐに倦怠期水を国へ提出した。


催涙弾がゴム弾をはじめ痛みを与えて

強引にデモをしりぞけるような方法を変えたかった。




しかし倦怠期水を渡してからも一向に反応はなかった。

依然としてデモとの衝突でケガをする人が耐えない。


「教授、倦怠期水の件どうなったんでしょうね」

「おかしいなぁ。ちょっと行ってみようか」


二人はどうして認可されないのか不思議に思い、国を訪れた。


「お前の意見は嫌いだ!」

「読んでないがとりあえず反対!」

「資料に誤字があるから、検討しない!!」


その様子を見て二人は思わずうつむいた。



「教授……まったく団結できていなくて、認可されないみたいです」


「ああ、まぎれもなく倦怠期水の効果が出ているな」


二人は帰りのその足で認可してくれデモをはじめた。

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