『キャンパスライフはまだ始まらない』

 体長2mを超える鳥のちゅんちゅんというギャップのある鳴き声で目を覚ます。

「(これが朝チュンってやつか)」

 なんて考える煩悩の裏腹にまだ眠っている体に脳が日光を当てるよう命令し、カーテンを開き朝日を浴びる。

 程よく日光にあたり伸びたら、洗面所に向かい顔を洗う。


 毎朝のルーティンだが、今日は気分が違う。

 これから俺にはキャンパスライフが待っているのだ。

 そのせいで正直夜も眠れず朝が少し辛い。

「遠足前の小学生か!」とツッコミたくなるのも分かるが、前世の記憶があるとはいえ、日本ならまだ小学6年生の体なんだから許して欲しい。


「ふんふんふん」と気分よく鼻歌を歌いながら、朝ごはんの置かれている机座る。



「(ここで食べるご飯は今日で最後か……)」

 俺は12歳であり、ここの孤児院に居られるのも12歳までと決まっている。

 もう少しなら居ることも出来たのだが、学校進学とともに寮生活をする事にした。

 寮と言っても他に寮生は居ないらしいから、貸切状態になる。


 べナナとカチカチのパンを口に運び、水を飲む。

 量は少なく食べ盛りには足りないが、お金も払っていない俺に毎日食わせてもらってるだけで感謝でいっぱいだ。


 部屋に戻り、色々と入っている荷物を持ち、玄関に行気少し待つ。

 孤児院のおばさん……カルネラさんにお礼を伝えなくてはならない。


 1分程待っていると、カルネラさんは出てきて手に何か持っていた。


「カルネラさん。3年前見知らぬ俺を拾ってさらにここまで育ててくれて本当にありがとうございました!感謝してもしきれません」

「良いのよ。それが私の仕事でもあるんだからさ。ほらこれを持っていきな」

 手を出すと小さな石が置かれた。

「これは……いったい?」

「必要な時に、必ず役に立つよ。それまでの秘密さ」

「分かりました。ありがとうございます」


 一呼吸置いて、「では、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 カルネラさんは手を振り元気に見送ってくれた。



 ……………………………………………………



 今俺は領主ゲブタールの支配地域から離れ、王自らの足元に置かれている王国都市アリザーノの少し外れに建てられた大学……いや、魔術学校と言った方が筋が通るのか……。

 勉強は勿論、魔術、剣術、経営等この場所にはこの世界の全てを学ぶことが出来る機関が詰まっている所に来ている。勿論戦争も。

 広大な大地に包まれる様に学校は作られている。広場には噴水が行き良いよく飛び出し、馬車や学生が行き来したりする場所だ。


 そもそも大学というのは贅沢品であり、貴族や王族、豪商等の権力者しか行くことが出来ないのが普通である。

 市民や農民は初等教育と中等教育ら辺までは学ぶことが出来るが、それより上となると多額のお金が必要となる。

 そのため多くの人が、進学できず親の仕事を継いだり職に就いたりになったりする。


 ここでひとつ疑問に思ったことがあるだろう。それはじゃあ何故孤児院に居たたった12歳の少年である俺が大学に行くことが出来るのか。

 それは実に単純な答えである。

 正解は家に受けた覚えのない合格通知が届いたからだ。

 最初は手紙の送り間違えだと思い、返事を大学に手紙として出したが確かに間違いはない事が確認され入学が許可された。

 断る事も出来ただろうが、断った所で行く宛てがない俺からしたらむしろ好都合と言えるので断らずそのまま今日に至る。



「見かけない顔だな」

 後ろから美声が掛かり振り返る。

 豪華に装飾された馬車に白馬のサドルはキラキラと光宝石がいくつも装飾されている。その中心に居るのは多分声をかけてきた青年だろう男。

 そしてその横には執事らしき中年男もいる。

 イケメンという言葉はこの青年の為に存在すると言ってもいいほどにイケメンな青年。オッドアイのルビーとサファイアのような瞳はすらも引き寄せてしまうそんなオーラを感じた。

 歳は多分2程上な感じがする。


「はじめまして」

 ここで嫌われたらお終いだ。地球に住んでた時の記憶が一瞬過り、シンプルな挨拶で返す。


「堅苦しいな。これから共に勉学に励む仲だというのに。なそう思うだろ?ロン爺も」

 隣の中年男はロン爺と言う男らしい。

「アドラー様が仰るならその通りかと」

「うーんその……なんだ。お前はもう少しは自分の意見というのを持った方がいいと思うぞ」

「左様でございますか」

「そうだぞ。昔からのずっとロン爺に意見求めても、『アドラー様が仰るなら』『左様です』この繰り返しじゃん。もうこっちとしては年の離れた友達感覚なんだからもう少しは意見して欲しいかな」

「アドラー様がそこまで仰るなら……。精一杯努めさせてもらいます」

 ロン爺はアドラーと言う青年に一礼する。


「おっと失礼。君を置いてきぼりにしちゃったね。わた……僕の名前はアドラー。アドとかアドラーとか様が付いたりちゃんが付いたりと色々あるから好きなように呼ぶといい。それで君の名前は?」

「ラムエアって言います」

「ラムエア……。あまり聞かない名だな。どこかの地方の方かな?」

「いえ、特にそういったのでは無いです。拾ってくれた孤児院のおばさんであるカルネラさんが名ずけて下さったのでもしかしたらカルネラさんが地方の方なのかもしれませんね」「まぁいい名前である事には変わりない。これからよろしくな」

 手を差し出されたので手を握る。


 すると、目の前にいたアドラーから煙が湧き姿が全くの別人に変わっていた。目の特徴は同じサファイアとルビーのような赤と青の透き通る瞳。髪色は黒髪から銀髪に変わり、見るものを引きつける要素が顔と髪だけで完成仕切っている。だが驚くのはそこだけじゃない。性別まで変わっているのだ。キリッとしたイケメンな顔が可愛い女の子の顔に変わっている。

 そして服装も変わっている。白を基調としたドレスを見に纏い、胸元は少し開けている。

 腰にふたつの青いリボンが結ばれて居て、肩出しのオシャレなドレスになっている。

 ありえないことが目の前で起こり、何も言えない。

「やったな!ロン爺結構上手くいくようになってきた」

「お見事です。クイン様。」

「…………」

 目の前の情報の多さに困惑してまだ言葉が出てこない。

「ごめんね。騙すつもりは無かった……いや少しあったけどこんなに上手くいくとは思わくてさ。私の名前はクイン。この国の懐刀と言われてるアルディーヌ家の長女にして一人娘。で、何してたかと言うと変身の魔法の練習をしてるんだ。まだ魔法そのものに慣れてなくてあまり上手くいかないんだけどね」

「魔法か……。初めて見ました。凄いですね!声のトーンや性別、見た目まで全て変えれるなんて……。魔法はなんでもありだなー」

 更なる情報追加で未だに呑み込めず反応が適当になる。

 王国の懐刀程の大貴族でありながら魔法使いと言う選ばれた人である。そして魔法の中でも相当高度な魔法をまだ完全ではないが操っている。この時点でラムエアが関わっていい相手ではないことは明白だった。


「ラムエアだったよね。そろそろ始業の時間だ。とりあえず入ろうか」

「う、うん。そうだね」

「では私はこれで失礼致します」

 執事であるロン爺は一礼し2人を見送った後、馬車に乗り込み、来た道を戻っていく。




 ……………………………………………………


 始業の鐘が魔法により自動化され、定時になり鐘がなり始業式が始まる。


 競技場中央に全校生徒750人は集められ、学長の話が始まった。

 小太りの優しそうなおじいちゃん系の見た目をした学長の話は日本の校長と変わらないテンプレのことを述べて終わる。


「次に、魔法適正力の測定、体内魔力の測定、魔法知識力検査を順に行う。各クラス教室に戻り、板書に書かれている通り行動してくれ。終わり次第各自自由にして貰って構わない」


 副学長がこのあとの予定を告げ、始業式は終わった。

 クラスの発表などは事前に聞かされた通りになっていて、クインとラムエアはおなじクラスメイトだ。


「あ、クインさん。良かったら会場まで一緒に行きませんか?」

 クラスに他の知り合いがいる訳でもないので、先ほど知り合ったクインに話しかけぼっちを回避する。

「こっちも声を掛けようかなと思っていた所だよ。行こっか」


 混沌としている競技場を抜けるよう人混みを掻き分けていく。


 その途中からとある話し声が聞こえてくる。

「おい。あそこを歩いているのはクイン様じゃ無いのか?」

「本当だ。なんて麗しい」

「見てるだけで脳が溶けるようだ」

「……尊い」

 自己紹介で王国の懐刀と自負していただけのことはある様で、クインが歩くだけで人混みは開け感激の声を漏らしている者が多い。

「クイン様はあんなにも美しいのに。なんだあの横にいる男は」

「あんな男パーティーで1度も見たことも噂で耳に挟んだことも1度もないぞ!」

「どんな関係なのかしら。どなたか聞いてみて下さいよ」

「そ、そんな失礼に当たるのでは」

「(なんか凄い人気者になった気分だけど、100%クインのお陰なんだろうな)」



 競技場を抜け、クラスに向かい順番を確認し、その会場に向かう。

 最初に行うのは魔法適正力の測定。次に行うのは体内魔力の測定、最後に魔法知識力検査の順番だ。


「では、これより魔法適正力の測定行います。説明は1度だけなので、しっかり聞いてください」

 計測場所に着くと魔法により自動化された音声が流れ始めた。

「初めに名前を入力したのち、こちらの水晶に向かってなんでもいいので、魔法を使ってください。魔法適正力のこの学園での平均ランクはA〜Cランクとなっています。Aランクは赤。Bランク緑。Cランクは黄色水晶が変化します。黒く光った場合、ランクC以下。白く輝き始めたはA以上となり、後ほど再び検査を行いますので、奥の部屋に進んで教師が来るまで待機していてください」


 説明は終わったが教師が現れる気配は毛頭ない。

「初めて良いのかな?」

 クインが皆の疑問を口にする。

「ちッ。退けよ貴族のボンボンがよ」

「うっ……」

 正装を雑に身に着け、顔にはいくつもの傷がついている長身でガタイのいい男がクインを押し退けた。


「魔法を撃てばいいんだったか?《凍結を護りし雷鳴よ今此処に轟け》」

 冬魔【アイスサンダー】を唱え辺り一面に雷が落ち、その雷はマイナス100度以上の冷気と電力を保ちながら、地面を駆け巡った。ひとがみっしゅうしているこの場における最悪とも呼べる魔法をこの屈強な男は放った。

「…………なっ!?バカな」

 だか皆生きている。魔法を放ってからこの教室と言えるような場所が寒くはなったが、身体が凍ったり、痺れは一切無い。

 だが、男が驚いたのはそこじゃない。

 白い冷気が引いていくと視界が良くなり水晶を視認できるようになっていた。


 その水晶の色は黒く光っている。


「ふざけるな!威力、範囲その全てが完璧と言えた。何故だ!なぜC以下なのだ……!この俺様が!」

「…………」

男は吠えるがその問いに返答はない。

「こうなったら」

 男が不気味な笑顔を浮かべ魔法を連打する。

「雷精よ・集い・打倒せ」

【スパーク】

「火の子・持ちし精霊よ・煙火で包み込め」

【ショックファイヤー】

 だが、水晶はそれを否定し黒く光続ける。

 痺れを切らした男が『はは』と苦笑し、

「こうなったら仕方ない。これを使うしかないか。サリアクションで俺様の力を分からせてやるよ。クソ水晶! 」

 男が放った言葉はやばい事だがそれに気づける学生はほぼ居ない。

「皆逃げろ!早く早くするんだ!」

 ラムエアは叫ぶが皆困惑し動けない。

 その間に男が詠唱を始める。

 サリアクションー神話の時代約1000年前聖杯戦争で、神すら葬ったと言われる神話クラスの魔法。狙った方向の直線上にあるもの全てを破壊する威力を今もなお継承されていると噂になっている。

「ほんとに時間が無い。転移魔法使えるものは使ってどこかに逃げろ」

 転移魔法は中程度の魔法ではあるがその制度と距離を操るにはかなりの魔法センスが必要となってくる。

 この入学したてのホヤホヤの学生に使えるものはそう多くない。

「(どうする……。)」

「主神よ・どうかかのもの達に・聖なる護りを」

神魔【ゲアシールド】

 ラムエアが悩んでいると【ゲアシールド】が皆に付与される。

「【ゲアシールド】だと!?」

 ゲアシールドー約1000年前。守りの神が愛用し人類を守り抜いたと言われる神魔。約1000年人間のみが受け継いできたので、その威力は本家の100分の1程だが、その効果は絶大。

 使うには勿論大量の魔力は必要だがそれより問題なのはこんな大魔法を使える人が前線に行かずここに居るのが疑問が浮かぶが今は気にしてる暇はない。

「みんなに防御魔法を付与したわ。これなら走って逃げれる?」

 どうやら魔法を使ったのはクインらしい。

「あぁ全力で走れば誰も怪我しないで済むはずだ。急ぐぞ」


 一斉に大きな扉を潜り抜け、広い廊下を全力で走る。

 その刹那走り抜けた扉の奥から閃光が走り、猛烈な爆発音が轟き吹き飛ばされる。


 振り返ると、部屋からは黒煙が上がり、扉にはヒビが入っている。

 サリアクションーアレをまともに食らって生きてられるの人間はほぼ居ない。

 先程のクインの神魔が無ければ、俺たちの腕が飛んでいてもおかしくない。

 この学園は魔力ラインに直結しているらしく魔法を吸収し形は保っているが損傷は激しい。


 黒煙が消え、部屋に戻ると壊れていない水晶が現れた。

 色は白く輝いている。だが、男の喜ぶ声は聞こえない。辺りを見渡すと、損傷の激しく意識のない状態で倒れている人のような物体が転がっていた。


 このあとの対応に困っていると、教師陣から魔法で音声が流れ始めた。

「それでは検査を続けてください」

 その言葉だけ言い続きは流れない。

 生徒は仕方なく、検査を再開しだす。

男を放置して。


「誰も行かないなら私が行かせてもらうわ。雷精よ・集い・打倒せ」

初級魔法【スパーク】

 水晶は白く光る。

 まぁさっきのゲアシールドを使えるほどの人間が白く光らない訳が無い。

「ラムエアも早く終わらせて次に行こう」

「(俺は魔法を打ったことは無い。知識しかない人間だけど、それを言ったらクイン愛想ってされてしまいそうだし……ここは真似して)」


「雷精よ・集い・打倒せ」


「で、出来た!」

 初級魔法では、あるがすぐに使える対応力は勉強を怠らなかったその対価であろう。

 色は白。

「嘘……!?しろ?」

 平均ランクの中でTOPであることに喜びガッツポーズを取る。

「やるじゃない。初期魔法で白なんて。神話に伝えられる1000年後の神の孫はラムエアだったのかもね」

「流石にそれはないよ」

「そうね。あれは神話の世界だもの」

 そうクインはいい苦笑する。

「それじゃ次の試験行きましょうか」


 ……………………………………………………

「それじゃあ始めるぞ」

「狙いはクイン・アルディーヌ」

次の場所に動き始める2人に対してこちらも2人の男が影を動かし始めていた、

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

虚偽戦争 師走 葉月 @Neru13

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ