雨、後悔、さようなら

 雨が降る。

 雨が止む。

 雨上がりの空には青空が雲の隙間から姿を現し、その雲の隙間からは太陽の光が差し込んできてライトロードを創り出している。

 先程まで大量の雨を降らせていた雲はところどころに散っていき、遠く遠くへとその小さな柔らかい破片を散り散りにしていく。

 かすかな雨の後特有のコンクリートとも土とも言える独特の匂いを漂わせた外の空気は、不快な感覚を少しだけ解消してくれた。

 雨の下にいてずぶ濡れで、もとに戻らない関係に後悔を残し、涙を流していながら、雨によって本当に自分が涙を流していたのかもわからない。

 でも、それでいいのかもしれない。後悔を引きずって過去を悔いて生き続けるより、未来に希望を抱いて生きていたほうがマシだ。それができないにせよ、前を向いて生きていけるならそれが何よりだ。

 流した涙の数だけ強くなれるというのなら、私はどれだけ強く慣れているのだろうか。とてつもなく強く慣れているはずなのに、以前強さとは真逆の弱さばかりが水たまりに映る自身の顔が物語る。


「私、あの子に何ができたんだろう」


 偽善者で構わない。そんな理想ばかりの考えでいい。どうせ誰も救えなければ何も変えられないのだから。救わなければなんの理想もただのゴミに成り果てる。自身のしょうもないプライドのために偽善者にならず、いい人でいようとなんてしたって、どこかでかならずボロを出してしまう。結局利害関係のはてにたどり着いてクソみたいな有様に成り果てる。だから、私がこんなことを考えること自体がクソなのだが。


「私、どうして笑ってるんだろう」


 水たまりに映る自身の顔は弱さを映しながら、不気味なほどにニヤリと口をにやけさせている。なのに、目には以前はあったはずの希望に満ちた光がなくなっていた。真っ黒に染まったその目は、すべてを吸い込んでしまいそうなほどに底がなく、絶望という言葉ほど似合う言葉ないほどに希望がなくなっていた。


「あなたは、幸せですか?」


 雨上がりの空を見ながら、自身に二人称で問いかけてみる。でも、その答えは決まりきっていた。


「幸せなわけ無いでしょう」


 ただ無機質に、なんの感情もこもらない声で自問に対して答えを用意する。幸せだというのなら、光はこもるし希望に満ちていなきゃおかしいだろう。


「幸せを求めているわけじゃない」


 何回も何回も言葉を返す。一人で一人に一人を殺すために。自分を許すために。自分を殺すために。自分を許容するために。自分を殺しきってしまうために。


「お前なんかに何ができるんだ?」


 自分一人が自分ひとりに対して問を投げる。ただただシュールで気持ち悪いその光景を見るものは誰もいない。この世には私以外のすべての人が笑って過ごしているのだろうか。私に希望はあるのだろうか。気持ちの悪いエゴを他人に押し付けながら生きてきた私への報いは今まさに帰ってきているところなのだろうか。

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気の赴くままに書いたらこうなる アリエのムラサキ @Murasaki2020

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