信じると、信じたいでは

だいぶ意味が違ってくる。

そう思いながら、公園の噴水を見ていた。

女が一人近づいてくる。

「そいつは、スウィート・デヴィルだ」

達樹はそう言った。

「彼女は来ないの」

「ごめんなさい、代理で来た」

女の笑顔より、女の発する甘い匂いに

心が支配される。

香水か。

彼女は香水をつけていなかったけれど、

たまにシャンプーのいい匂いがした。

彼女は、僕と会う少し前に、シャワーを浴びたんだ。

「お金は持ってきたの」

僕は女の髪の匂いを嗅いでみる。

少し汗の匂いがした。

シャワーは浴びていない。

「持ってないよ。実は僕も借金をできないんだ」

「信用がなくてね」

「詐欺師なんていないんだよ」

「いるとすれば、それは彼女だ」

達樹が空虚に笑う。

「君を見たことがある」

「僕の前を、無言で通り過ぎた」

「覚えてないわ」

「覚えてないさ。君は僕を見てなかった」

「彼女はどうしたの」

「いいじゃない、どうでも」

「そうだね。どうでもいい」

「好きじゃなかったんでしょう」

「お互いにね」

僕は女から離れていく。

「待ちなさいよ」

「彼女はどうなってもいいの」

「どうにもならないよ。詐欺師はみんな幻想だ」

僕は彼女の汗の匂いを覚えている。

「せっかくのチャンスだったのに」

達樹がタバコの煙を吐き出した。

「残念だったね」

「そうだな。踊ればよかったのに」

「あれじゃ踊れないよ」

「そうか」

「お前、金ならいくらでもあるだろう」

「俺なら、そうするね」

達樹はタバコを灰皿に押し込んだ。

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スウィート・デヴィル 阿紋 @amon-1968

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