同級生の女子、神田ベリーのことが気になる男子生徒のお話。
ジャンルはSFとありますが、ごりっごりのハードSF的なものではなく、どちらかというとある種の不条理コメディのような柔らかな口当たりの掌編です。むしろ学校生活とか思春期とかの要素の方が強いような印象。
前編後編の二部構成になっているのですが、いざ読んでみればなるほど納得。内容が全然違うというか、なんかもうものすごい落差で吹き飛ばされたような感覚です。前半の掛け合い劇、男子生徒二名のコントにも似たゆるいやりとりから、後半は一転して怒涛の急展開へ。そのまま一気に駆け抜ける強烈なドライブ感に、なんだか酩酊したような気分にさせられました。
最後まで読んで呆然として、あまりの風速に「結局何だったんだ今の大嵐は」みたいな感覚に陥るのですけど、しかしとどのつまりというかこの物語は結局のところ、主人公が最序盤に放ったひとことに要約されるのだと思います。「その可能性はある」。読後に振り返った時のこのひとことの、最初はあまり気づかなかった(でも実はしっかり効いていた=学校生活のイメージが強いのは絶対これのせい)この厚み。あの子が気になる、という小さな感情が、実は物語世界の土台そのものを規定しまえるほどに強いという事実。
絵的なイメージの明瞭さというか、文章から想起される光景がくっきりしているところが好きです。気になる女の子に、その秘密。そして世界の命運を左右するレベルの冒険。ちょろっと出るだけの友人なんかも含めて(竹田くん好きです)、絵面がまさに『思春期の男の子の夢そのもの』なところがもう最高に気持ちのいい作品でした。