大事にしたいと思うなら

 高校が期末テスト1週間前になると、部活動禁止期間に入ったので、ハヤテはメグミに勉強を教える事にした。

 メグミの苦手な数学と化学を中心に、テスト範囲でわからないところを丁寧に教えた。


 期末テストが3日後に迫ったその日も、ハヤテは、夕方にメグミの家へ足を運んでテスト勉強に付き合っていた。

 しばらく集中して勉強をした後、ひと休みしようと一緒にお茶を飲んでいると、メグミはハヤテの肩に寄りかかって、その温もりを確かめるように頬をすり寄せた。


「ん……?メグミ、甘えんぼ。猫みたい」

「猫かぁ……。勉強もしなくていいし、ハヤテにずっと甘えられるなら猫でもいいかな」

「何言ってんの。猫社会も甘くないと思うよ?それにメグミが猫だったら、こういう事できないんだけど」


 ハヤテはメグミのあごに指を添えて上を向かせると、優しく唇にキスをした。


「それでもいい?」

「……やだ……」

「じゃあ頑張って勉強しないと」

「うん。でもその前に……」

「ん……?もっと?」

「うん」


 ハヤテがいつものように優しく唇を重ねると、メグミはハヤテの首の後ろに腕を回し、ついばむように唇を吸って舌を絡めた。


(え……?)


 メグミの柔らかい唇と舌。

 唇からもれる熱い吐息と湿った音。

 せつなげにこぼれるメグミの小さな声が、ハヤテの欲情を煽る。


(なっ……なんだこれ……)


 いつもとは違う、今まで経験した事のない濃厚なメグミのキスに驚いたハヤテは、慌てて唇を離し、メグミの肩を掴んで遠ざけるようにして下を向いた。


(ヤバイ……。これ以上こんなキスされたら、理性がもたない……)


「どうしたの、ハヤテ……?」

「……ダメだ」

「え?」

「これ以上すると、オレの理性が崩壊する」

「私はいいのに……」

「今はダメ」

「どうしてダメなの?」

「どうしてって……」


 メグミはハヤテにギュッと抱きついて、胸に顔をうずめた。


「私はハヤテに触れて欲しい……。心だけじゃなくて……体も全部、早くハヤテのものにして欲しい……。ハヤテが大事にしてくれてるんだって、わかってるよ。でも、私は……」


 どこか思い詰めたようなメグミの声に、何かあったのだろうかとハヤテは思う。


「でも、何?」


 ハヤテが尋ねると、メグミはうつむいて唇をかみしめ、黙り込んでしまった。


(まただ……)


「メグミは……オレといるの、不安?」

「え……」

「オレみたいな、女の子の抱き方もロクに知らないガキじゃ、安心して言いたい事も言えないの?何か悩んでても相談のひとつもできないくらい、オレって頼りない?」

「違うよ、そんなんじゃない」

「メグミがどんな大人の男と付き合って来たかは知らないよ。それに比べたら、オレなんか全然ガキで頼りないかも知れないけど……。オレはオレなりにメグミの事、真剣に考えてる。こんなオレじゃ物足りないなら、上手に抱いてくれる大人の男に頼ればいいじゃん」


 ハヤテがバッグを持って立ち上がると、メグミが寂しげに潤んだ目でハヤテを見上げた。


「ハヤテ……帰っちゃうの?」

「オレがいたら勉強の邪魔になるみたいだから帰るよ。わからないって言ってたところは大方教えたし……あとは自力で頑張りな」


 それだけ言うと、ハヤテはメグミに背を向け、部屋を出た。



 ハヤテは駅に向かって歩きながら、大きなため息をついた。


(ちょっと、きつく言い過ぎたかな……)


 メグミの寂しげな目を思い出し、ハヤテは自己嫌悪に陥る。


(不安にさせないようにって思ってたのに、過去の男につまらない嫉妬なんかしてあんな事言うなんて……オレって男として小さ過ぎる……。だからメグミが安心して頼れないんだよ……)


 近頃、メグミの様子が何かと気になる。

 何か言いたげなのに、なんともないふりをしているのか、何かに焦っているようにも、怯えているようにも見える。


(言いたい事があるなら言ってくれればいいのに、どうしてオレには何も言ってくれないんだろう……)


 すぐそばにいるのに頼ってもらえない自分が情けなくて、ハヤテは唇をかみしめる。


(あんな顔させたかったわけじゃないのに……。またメグミをがっかりさせちゃったかな……)


「あっ……」


 ハヤテは次に会う約束もしないで、ひどい事を言うだけ言って部屋を出た事を思い出し立ち止まった。


(上手に抱いてくれる大人の男に頼れなんて言っちゃったよ……。メグミ……泣いてるかも……)


 目の前にあったコンビニに飛び込み、ハヤテは小さなギフト用のキャンディーを買って、今来たばかりの道を走って戻った。


(ホントは誰にも渡したくない……。オレはどうしようもないくらいメグミが好きなんだ……)



 メグミの家の前に戻ったハヤテは、息を切らしてインターホンのボタンを押した。

 程なくして、顔中涙の跡でいっぱいのメグミが玄関のドアを開けると、ハヤテは思いきりメグミを抱きしめた。

 ハヤテの背後で静かにドアが閉まった。

 ハヤテは息を切らしたまま、メグミを強く抱きしめて素直な想いを伝える。


「泣かせてごめん……男のくせに、過去の男に嫉妬なんかして……言い過ぎた……」

「ハヤテ……」

「オレはメグミが好きだ。つまらない嫉妬なんかしてみっともないけど……ホントは誰にもメグミを渡したくない。どうしようもないくらい好きなんだ……。わかってくれる……?」

「うん……。私もハヤテが好き……。だから、他の男の人のところに行けなんて言わないで……。私もう、ハヤテに嫌われたのかもって……」


 メグミはハヤテの胸にしがみついて、ポロポロ涙をこぼしながら声を絞り出す。


「ごめん、大人げない事言って……。前も同じような事言ってメグミを悲しませたのに、オレって学習能力ないのかな……。ホントごめん……」

「ハヤテの代わりなんていないよ。誰でもいいわけじゃないの。ハヤテと一緒にいたいの。大好きだから……」


 しばらく黙って抱きしめあった後、ハヤテはキャンディーの包みを差し出して、メグミの手に握らせた。


「これ……なあに?」

「うーん……プレゼント?って言うか……お詫びの品……?仲直りのしるし……?なんだろう?メグミにあげる」

「ふふ……嬉しい。ありがと……」


 不器用なハヤテの仲直りにメグミが涙目のまま微笑むと、ハヤテも少しホッとして笑った。

 涙で濡れたメグミの頬を両手で包んで、ハヤテはそっとキスをした。


「テストが終わったらどこか遊びに行こう。クリスマスもさ……一緒に過ごそうよ、二人で」

「うん……私、ハヤテと一緒にいたい……」

「それはオレも同じだよ。オレだってホントは……」


 言い掛けた言葉を飲み込むハヤテに、メグミが首をかしげる。


「ホントは……何?」

「いや……。やっぱりいいや。また今度、ちゃんと言うから」

「気になるな……」

「今のは忘れて。とにかく……テストが終わったら、ゆっくり会おう。待ってるから」

「ありがと……ハヤテと会えないの寂しいけど……それ楽しみに頑張る」

「うん」


 ハヤテはもう一度メグミに優しく口付けて、愛しそうに頭を撫でた。


「前も言ったけど……オレは一緒にいない時も、メグミの事考えてるよ。好きだから」

「うん……ありがと……。大好き……」



 無事に仲直りをして、メグミの家を出たハヤテは、自宅に向かって歩きながらぼんやりと考える。


(オレ、あんな恥ずかしい事、口に出して言えるんだな……。メグミと付き合う前の自分からは考えられない……)


 ずっと素直になれなかったのが嘘のように、今ではメグミを想う気持ちを言葉にして素直に伝えている自分が照れくさい。


(とりあえず、仲直りと言うか……メグミが笑ってくれて良かった……)


 テストが終わったらどこかに遊びに行こうとは言ったものの、メグミが喜びそうなデートスポットなど知らない。

 クリスマスを一緒に過ごそうとも言ったが、今までカップルで過ごすクリスマスなど無縁だったハヤテは、何をどうして過ごせばいいのか、さっぱり見当が付かない。


(ここはやっぱり、場数を踏んできた経験者に相談するべきか?)


 そんな事を考えていると、ハヤテのスマホが着信を知らせた。

 スマホの画面を見て電話の相手を確認すると、ハヤテは驚いて目を丸くした。


(ショウちゃん、タイミング良過ぎ……)



 ショウタに『家に来い』と呼び出されたハヤテは、またショウタの部屋でコーヒーを飲みながら話し込んでいた。


「学校の帰りか?」

「いや……。彼女の部屋で勉強教えてたんだけど……ちょっと、些細な事でケンカって言うか……オレが一方的にカッとなったと言うか……」

「そうなのか?それで?」

「帰りかけたんだけど……やっぱりオレが悪かったと思って、戻って謝ったから仲直りはした」

「仲直りしたのかー、良かったな。で、どうだった?」


 ショウタは興味津々の様子で身を乗り出して、ハヤテの返事を待っている。


「で、どうだった?って……何?」

「ケンカの後はいつもより燃えるだろ?」

「は?何が?」


 ショウタの言葉の意味がまったくわからず、ハヤテは首をかしげた。


「何が?って……仲直りのエッチはしなかったのか?」

「え……えぇっ?!なんだよ、それ!しないよ!!」


 真っ赤な顔をして否定するハヤテを見て、ショウタは不思議そうにしている。


「なんだ、ハヤテはしないのか……」

「いや……仲直りの、って言うか……ケンカしても仲良くても、しないよ?」

「は?何を?」

「だから……。まだ、キスしかしてない」

「え……?!マジで?」

「マジで」


 大真面目な顔でうなずくハヤテを見て、ショウタは大きく目を見開いた。


「嘘だろ……?何か月も付き合ってて有り得ねぇよ、それは」

「そうかな……」

「なんで?!なんでしないんだ?」

「だってホラ……彼女、まだ高校生だし」

「それが何か問題でも?あ、あれか。彼女初めてなのか?」

「いや、そういうわけじゃない。むしろ逆」

「逆って……なんだ?」

「彼女はいろいろ経験あるみたいだけど……オレが……まだ、誰ともした事ない」

「マジかっ!!」


 大袈裟に驚くショウタの顔を見て、ハヤテはバツが悪そうにしている。


「……悪いか」

「いや……悪くはないけど……。そうか……。ハヤテが……。この歳で珍しいよな」

「人を天然記念物みたいに言うな」

「だってさ……今時、中学生だって、付き合ったらすぐするだろ?高校生だって、学校では教師の目盗んで、家では親の目盗んで、やりたい放題やってるよ」

「そんなの、ほんの一部だろ?この間彼女に読まされた漫画がそんな感じだった。付き合いだした途端に後先考えもしないで、ところ構わずがっつくとか……。オレ、そんなに見境なくないよ。人は人、自分は自分。なんかあった時に責任も取れないのに、いい加減な事できないじゃん」

「オマエ……何時代の人間だ?!」

「……わかってもらえないならもういいよ。好きだから大事にしたいって思うのがそんなにおかしいか?」

「いや、でもな……。好きだからしたいとは思わないか?」

「そりゃもちろん思うけど……。せめて彼女の受験が終わるまでは待とうかなって……」

「気が長いんだな、ハヤテは……。オレだったら耐えられん。そんなんで彼女は何も言わないのか?」

「……言うけど……」

「やっぱ言うんだ」

「付き合ってるのに触ろうともしない男って、一緒にいて不安になるのかな……」

「もしかして……ケンカの原因、それか?」

「まぁ……それが全部じゃないけど、きっかけはそんな感じ」

「彼女が望んでるなら、すればいいじゃん。ハヤテだってホントはめっちゃ我慢してるよな?お互いに好きで付き合ってるんだから問題ないと思うぞ?」

「そうなんだけど……。オレがどう変わるのか見当も付かないし……。なんか、そのままズルズルのなぁなぁになりそうで……。それで彼女が受験に失敗したらどうする?」

「どうする?って言われてもなぁ……。だけどケンカになるのもどうかと思うぞ?」

「そうだよな……」

「深く考え過ぎるんだよ、ハヤテは。いや、立派だとは思うよ?今時そんな男、なかなかいないって。彼女と二人きりになったら、みんな性欲には勝てねぇんだよ」

「考え過ぎなのかな……」

「そんな事言ってる間に、彼女が他の男に走ったらどうする?」

「……絶対嫌だ」


(さっきは思わず、他の男のところに行けみたいな事言っちゃったけど……)


 不意にメグミの悲しそうな顔を思い出し、ハヤテの胸はしめつけられるように痛んだ。


「だろ?大事にしたいって思うなら、彼女の気持ちも考えてやれよ。女にだって性欲はあるんだぞ。好きなら尚更だろ?」

「うーん……」


(メグミにも言われたけど……)


「逆にそれが原因で、勉強手につかなくて受験に失敗したらどうすんだよ」

「それは困るけど……」


 大事にしたいと言う想いが裏目に出たらどうしようと、ハヤテは考え込んだ。


「要は、ハヤテがちゃんとしてれば問題ないわけだ。いつそんな状況になってもいいように、準備だけはちゃんとしとけよ。それが『好きだから大事にする』って事だろ?」

「そうかな……」

「おぅ、男になれよ、ハヤテ」

「男になれって……。煽るなよ……」


 ハヤテは恥ずかしそうに目をそらして呟いた。

 この話はもうここで切り上げようと、ハヤテはコーヒーを飲んでショウタに話を振る。


「って言うか……オレのこんな話をするために呼んだわけじゃないだろ?」

「おぅ、そうだったな。で、なんの話しようとしてたんだっけ?」

「……帰っていい?」



 それからしばらくバンドの曲の事について話した後、ハヤテはショウタに相談しようと思っていた事を思い出した。


「なぁショウちゃん、女の子が好きそうなデートスポット知ってる?」

「おっ、デートか」


 ショウタは嬉しそうに笑って身を乗り出した。


「テスト終わったらどこかに遊びに行こうって言ったものの、オレはずっと女の子と無縁だったし、そういうのには疎いからさ。ショウちゃんなら、いろいろ知ってそうかなと思って」

「そうだなぁ……。どこでもいいんじゃね?」

「どこでもって……」

「ドライブとかどうよ?運転できんだろ?」

「できるけど……。楽しいか?」

「どこ行って何したって、楽しいかどうかは自分たち次第だな」

「そうかも知れないけど……それじゃ参考にならないよ。クリスマスのオススメデートスポットも聞きたかったのに……」

「それこそ彼女と相談するのが一番だろ?」

「まぁ……たしかに」

「街遊びの雑誌あるじゃん。あんなの見ながら二人で相談する時間も楽しいもんだぞ。今の時期だったら、クリスマス特集号とか出てるんじゃね?」

「なるほどな。夕方暇だし……明日本屋にでも行ってみようかな」

「コンビニにも売ってるぞ」

「うん」

「コンビニで雑誌買うついでに、肝心のアレも準備しとけよ。いつ彼女といい感じになってもいいように」


 ショウタに笑って肩を叩かれながら、ハヤテはなんの事かと首をかしげた。


(……肝心のアレ……って、何?)



 ショウタの家を出たハヤテは、早速コンビニへと足を運んだ。

 コンビニの雑誌コーナーでショウタの言っていた雑誌を見つけて手に取り、パラパラとページをめくる。


(いろんなデートスポットがあるんだな。これだけ載ってたら逆に迷いそうだけど……メグミと一緒に見てるだけでも楽しそうだ)


 その雑誌を手にレジに向かいかけたハヤテは、さっきのショウタの言葉を思い出して、また少し首をかしげた。


(『肝心のアレ』って、結局なんだ?)


 雑誌を買うついでに、と言う事はコンビニで売っているものなのだろう。


(だから、『肝心のアレ』の、肝心な部分がわからないんだって)


 店内をうろうろしながら考えていると、シャーペンの芯が残り少なかった事を思い出したハヤテは、文具のコーナーに向かった。


(あっ、いつもと同じのがあった)


 シャーペンの芯を手に取って、ハヤテはまたその場に立ち止まって考えた。


(で?ショウちゃんなんて言ってたっけ?)


 ハヤテは首をかしげながら、ショウタの言葉を思い出す。


『コンビニで雑誌買うついでに、肝心のアレも準備しとけよ。いつ彼女といい感じになってもいいように』


 考えながら雑誌コーナーに戻りかけた時、青年誌コーナーの反対側の、衛生用品の並ぶ陳列棚になんとなく目をやったハヤテは、思わず赤面して立ち止まった。


(彼女といい感じに……って……『肝心のアレ』って、アレの事かっ!!)



 自宅に帰ったハヤテは、コンビニの袋をなんとなく隠すようにしながら自分の部屋に入った。


(買っちゃったよ……。生まれて初めて……)


 いろいろ悩んだ末、結局ショウタの言う事も一理あると考えたハヤテは、思いきって『肝心のアレ』を手にレジに向かった。

 若い女性店員と店長のオジサンがレジにいたので、ハヤテはさりげなく店長が立っている方のレジに並んだ。

 悪い事をしているわけでもないのに、妙な罪悪感のようなものと恥ずかしさでドキドキして、変な汗が出そうになった。


(すっげぇ恥ずかしかった……。みんなコレ買うたびに、こんな思いしてるのか?最初だけ?それともオレだけ……?)


 今まで彼女のいなかった自分にとって、実物をじっくり見るのも手に取るのも初めてで、具体的に、近いうちにコレを使う日が来るのかと思うと、信じられない思いだった。


(まぁ……備えあれば憂いなしって言うし……)


 せめて受験が終わるまでは……と思っていたハヤテだが、メグミにあんな思い詰めた様子で悲しそうな顔をされたら、『大事にしたい』と言う自分の気持ちは間違っていたのかと思ったりする。

 気持ちが間違っていたと言うよりは、大事に仕方が違ったのかとも思う。


『私はハヤテに触れて欲しい……。心だけじゃなくて……体も全部、早くハヤテのものにして欲しい……。ハヤテが大事にしてくれてるんだって、わかってるよ。でも、私は……』


 メグミの言葉を思い出し、ハヤテはため息をついた。


(そりゃオレだってホントは……メグミに触りたいとか……キスだけじゃなくて全部欲しいって……思ってるよ……。やっぱ好きだし……)


 経験のない事を初めてするには勇気がいる。

 親も学校も教えてはくれないのに、当たり前のように誰もが経験している。

 当たり前のようにしている事なのに、良い事なのか悪い事なのか、その状況によって変わってしまう。


(なんか、よくわからなくなってきた……)


 とにかく今の自分に言えるのは、『メグミが好きだから大事にしたい』と言う事だけだ。


(何回も拒んでメグミを不安にさせるくらいなら、この辺で思いきった方がいいのか?好きだから余計にいい加減にできなかったんだって、オレの気持ちもわかって欲しいし……)


 ハヤテがぐるぐると思いを巡らせていると、スマホの受信音が鳴った。


(あ……メグミからだ。ん?画像付き?)


 ハヤテはメグミからの画像付きメールを開いて愛しそうに笑みを浮かべた。


【ハヤテがくれたキャンディー美味しいよ。

 これ舐めながらテスト勉強頑張るね。

 ちゃんと一生懸命頑張るから、

 その分、テストが終わったら

 思いっきりハヤテに甘えたいな。


 どこにいても、どこにも行かなくても

 ハヤテと一緒にいられたら私は幸せだよ】


 添付画像には、カラフルなセロハンに包まれたキャンディーを手にして、キャンディーで膨らんだ頬を見せるメグミの笑顔。


(うまく撮れてるな。女子の得意な自撮りってやつか。めちゃくちゃかわいい……)


 ハヤテはメグミからのメールを、幸せな気持ちで読み返した。


(難しく考え過ぎかな……。オレはメグミが好きだから大事にしたいし、笑ってくれると嬉しい……。メグミと一緒にいられたら、オレもすごく幸せなんだ……)


【喜んでくれてよかった。

 テストが終わったら、目一杯甘えていいよ。

 プリン食べながらクリスマスの相談しよう。

 オレもメグミと一緒にいられたら幸せ。

 メグミが笑ってくれたら、もっと幸せだよ。

 かわいいから、この画像は待ち受けにする。


 風邪引かないように気を付けて】



 ハヤテはメグミに返信して、さっきの画像を待ち受けに設定した。

 待ち受けにした無邪気なメグミの笑顔を見て、ハヤテは優しい気持ちになった。


(かわいいな。こうして笑ってると年相応って感じか……。オレが一番好きなメグミだ)


 メグミを想うたびに愛しさが込み上げる。


(この笑顔をずっと隣で見てたいし、オレの手で守りたいんだ……)




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