第40話 舞台は、また場面がかわり今度は宮中だ
舞台は、また場面がかわり今度は宮中だ。
そして、お見合いのシーンが始まる。
健二に連れられて、葵が入ってくる。
「光源氏、お前はわしの子の中では、中々優秀なんだが、如何せん母親の身分が低い。当然、わしの後を継ぐわけにいかん。そして、わしが死んだら今の地位も危なかろう。そういう訳で、お前のために位の高い家の女御をお前の嫁にすることにするぞ」
「はあ、この女を嫁にですか?」
「そうだ、お前のいとこにあたる葵の上じゃ」
「でも、この女、表情無くて冷血そうですよ」
「あんたも、次から次へと女の尻を追いかけているらしいですね」
睨み合う俺と葵。そこに、ナレーションが入る。
お互い、第一印象は最悪です。これは天皇と貴族がお互い政権を維持しようとする政略結婚でありました。これで光源氏は葵の上という正室を得たのです。
だから子を得るため、やることはしっかりやらないといけないのです。お互い義務感だけで、セッ、ゴホン、ゴホン、まるで初夜から倦怠期を迎えた夫婦の様です。
そこで、舞台が暗くなる。なんだこのナレーションは。ここまで言うと作品の冒涜になるのではないか? その方面からの抗議の方が怖いわ。
さらに、ナレーションは続く。
しかし、光源氏は、自分が愛する母親が卑しい身分のため、これ以上出世できないことに対し、母親に対して怒りも持っているのです。まさにマザコン、この誰にもぶつけることができない複雑な感情が光源氏を女に走らせ女を踏み台にして成り上がろうと、宮中でブイブイ言わせているのです。
舞台の上では、俺は、次から次に片っ端から、宮中の女の子に声を掛けている。しかも、セリフは、ナンパHOW TO本に載っていて使えそうなセリフを池田さんがパックってきたものだ。池田さん、しっかり研究してきている。しかも俺に感情をこめて、観客さえ口説くように言えと命令するのだ。
はあ、確かに、ブイブイ言わせているわ。舞台を見ている女の子も、前のめりになっている。そんなに齧(かぶ)り付かれても困るんだが。しかし、もちろんおひねりを投げ込むのはOKだ。
そして、ある日、ナンパ中の光源氏の前に、偶然、藤壺、若紫、葵の上が鉢合わせたのだ!
ナレーションが、これからクライマックスだというように盛り上げる。
しかし、三人が舞台に上がってくる時に、プロレスばりの入場曲をかけるのはやめてほしい。いかにも修羅場が始まることを予感させるじゃないか。
ここからはアドリブだ。三人が俺をなじった後、誰が本当に好きなのか、選択を迫るはずだ。それを今ここで、俺に言わせようとするなんて、あの池田さんの野郎!
光源氏、いや俺は誰を選ぶのだ? ここにきて未だに決めることなんてできないのだ。
性格は男ぽいが、完ぺきなボディを持つ気心も知れている葵か。それとも天然ホルモン美少女 俺に気があるらしい藤萌さんか。いや、初心貫徹、伸びしろ満点の紫恋さんか?
いや、俺の回答は頭でなく心が決めている。
なんだこの感覚は、ホルモンが支配する感情とは別のものなのか?
葵が俺の正面に回り、スッ右腕上げ俺を指差す。俺に罵声を浴びせるのか?
「光輝!」
葵、本名を呼び捨てにするな。
「お前に、紫恋は渡さない。紫恋は僕の嫁だ!」
「はあ~?」
「葵。その通りよ。こんな女の子らしい女の子、私たちが男から守ってあげないとダメ!」
「あの、葵、藤萌さん?」
「「こんな、女の私からみても憧れる紫恋を、光希の毒牙から守らないといけないの!」」
俺からは二人の後ろに紫恋さんを庇う様に隠くしている。
「葵、藤萌さん、わたしもお二人のことが大好きです!」
紫恋さんは後ろから、二人に抱き付いている。葵も藤萌さんも体の向きを変え、三人で抱き合い始めてしまった。
「いつまでも仲良くしてね」
「「もちろんよ」」
「おい、葵、藤萌さん。それに紫恋さん? 」
「光輝、あんたは、私たち女の子が、色鮮やかに花を咲かせることが出来るように、ホルモンという光を注いでいればいいのよ。これからは自分の欲望を捨てて、私たち女性の美しさのためにのみ精進しなさい」
俺は、葵の言葉が胸に詰まった。俺のやっていることって、光源氏と同じで、女性にとってはただの暴力だったんじゃないか。源氏物語に出てくる女性はみんな魅力的なのに、誰一人幸せになったとは言い難い。愛情を大事にして、女の子らしく生きようとしていることに付け込んでいるだけなんだ。
「葵、藤萌さん、紫恋さん。ごめん。わかったよ。俺、わがままだったみたいだ……」
俺の声に、池田さんのナレーションがかぶさってくる。
光源氏は、輝くような容姿を持ちながらも、その心には深い闇を持っていました。それは母親を含むすべての女性への復讐心です。けれども、藤壺、葵の上、若紫ら愛する人が、自分の欲望の犠牲になり、不幸になるさまを見て、自らの過ちに気付き心の闇を光へと変えていったのです……。
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