第38話 ****それぞれの思い*****

****それぞれの思い*****


光希、葵、紫恋、藤萌の四人の距離が縮まれば縮まるほど親しさは増すのに、葵、紫恋、藤萌の気持ちは、落ち着きが無くなり、掻き乱れて行くのであった。


葵の場合


 私はどうして、ホルモンブレンドを服用してきたんだろう。最近私の他にも、藤萌や紫恋が服用しているけど。あれは光輝に振り向いて貰いたいために、美しくなりたいみたいだし。

 それに比べて私は別に何も考えてなかった。只、光希に言われるままに服用していただけ。光輝に言われて、女の子として欠陥品だった私が綺麗に女の子らしくなったら、少しは得なことが在るかも知れないとは思ったけど……。

 まあ、男を引き寄せる容姿になったのは認めるけど、それがどうしたって言うのよ。私はケダモノじゃないって言うのよ。だって、男を引き寄せたって、私の愛する人が振り向きゃなきゃどうにもならないでしょ。それに誰を本当に好きなのかも分からない。

 光希と合宿最後の夜にキスをしそうになったけど、あれは雰囲気に流されただけ、光輝を好きだと確信を持っていたわけじゃない。

 わからないのに、藤萌や紫恋から光輝を取ったらダメでしょ。

 ああっ、そうか。自分の気持ちだけじゃあない。わからないのは他人の気持ちも同じなんだ。それに輪を掛けてわからないのは、未来の気持ちなんだ。過去も現在もある程度、態度や言動からわかるところもあるけど、でも未来の気持ちだけは絶対にわからない。

 光輝の奴、無責任にもほどがあるよね。何が若紫計画だっていうのよ。光輝の過去、現在の理想なら私が一歩リードしているのは感覚でわかるのよ。でも今が幸せでも、将来不幸せになるのは絶対いや!

 ああ、もう気持ちがまとまらない。考えることはやめた! 今のままがずーっと続けばいいのに……。


紫恋の場合


 私は、光輝君に恋をしているみたい。ただの感謝の気持ちが恋心に変わっちゃのかな?

 でも、感謝の気持ちなら葵に対する気持ちの方が強いのよね。今の私があるのは葵のおかげなのはわかっている。だから光輝君と葵が付き合うことは別にかまわない。それに二人はお似合いだという事も認めてあげる。

 ああっ、葵には絶対にかなわない。私が、葵より先に光輝君に出会っていれば……。

 そんなこと考えても仕方ないのよね。

 だって、葵ともずっと仲良くしていたい。そのためには、私は葵を応援するしかないじゃない。

 私の気持ちは封印だな。でもこの気持ちの傷はホルモンブレンドでも直せないよね。光輝君ってちょっと考えが浅はかなのかな?

 女の子って、誰かのために美しくなりたいものなのに……。

 葵って、その辺の気持ちが希薄で……。

 ああっ、そうか! 光輝君のホルモンブレンドって、その気持ちを大事にしていないんだ。

 光輝君、好きだから綺麗になってほしいじゃなくて、綺麗にしたから好きになるって、手段と目的が逆転しちゃっているよ!


藤萌の場合


 光輝くんってイケメンだから、付き合ったら私のステータスが上がると思って、近づいたのになんか違うのよね。女の子にすごく気を使っているようだけど、悪く言えば八方美人? 

それにもし、今、光輝くんと付き合ったとしても、自分の好みの女の子が現れたら、その子をホルモンブレンドでさらに美しくしちゃってさ、自分の理想に近づいたら、今度はその子に恋をするってこと? それって、私のことは放りっぱなしになるってことじゃない。

 すごく、腹が立つんですけど!

 光輝くんが、ホルモンブレンドを自分のために使っているうちはダメ。

 ホルモンブレンドを使われるすべての女の子が不幸になっちゃうよ。

 それだけは、阻止しなきゃ!


 どうやら、三人の気持ちが、ぐちゃぐちゃになっているのは、誰もが美しくなれる可能性を、光輝に押し付けられ、、それなのに、美しくなっても欲しいものが手に入れることができないのは、光希次第で誰もが、美しくなれる可能性があるからと、思考がループし始めたからみたいなのだ。

「「「光輝、お前は誰を思って、そのホルモンブレンドを作ろうと考えたのよ!!」」」

 葵、紫恋、藤萌の三人の心の叫びが響きわたる。

 そうして、ぐちゃぐちゃな気持ちのまま、文化祭の舞台に上がることになるのだった。


 ****************************


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る