第35話 ギフト、あれを頼む
(ギフト、あれを頼む)
(はい、光輝様)
ギフトは、赤いオーラを全身から放つと、そのオーラに触れた美少女剣士たちは、元気を取り戻し、持っていた剣は、再び輝きを取り戻し、更に炎や電撃を纏うのだ。そして踊るような剣舞で、芋虫の吐き出す糸を掻い潜り、固い鎧のような甲羅に剣を突き立て、電撃や炎で焼き尽くしていく。断末魔を上げる芋虫どもの首を切り落とし勝ち鬨を上げる剣士たち。
(ありがとう。ギフト)
(いいえ、これでこの大原先生も、正気を取り戻すでしょう)
(そうだな)
疲れた顔をしているが、少し落ち着きを取り戻した顔で、部室棟を去っていく大原先生を、目で見送る紫恋さんや池田さん。
「大原先生、三日ほど前から、なんか不安そうだったから、あなた達が何かしたのかなって思っていたのよ。ビンゴだったみたいね」
そう言いながら、みんなの方を見渡し、こんどは紫恋さんに視線を合わせる。
「橘さんをうちの舞台に上げるためには、大原先生に会わせるには今しかないと思った。どう、もう舞台に上がれるわよね?」
紫恋さんは、しばらく躊躇してから、池田さんに向かって返事をした。
「――はい!」
いつもなら、流されたように返事をする「うん」なのだが、自主性を持った力強い「はい」だ。全部とはいわないが、これでこの学校でのトラウマもかなり解消されたようだ。
それにしても、池田さんも自分の目的のためには手段を選ばないテストステロン少女だったことを思い出した。ここで、俺もみんなの話の輪に戻ってきたのだった。
「それじゃ、みんな、シークレットの配役の発表をするわよ。配役、「若紫」は橘紫恋さん。それから、配役の変更ね。「ある天皇」の役は、宮田健二君。みんないいわね?」
「「「「「はい!」」」」」
聖心女学園演劇部、城央高校演劇同好会の全員の声が揃った。
よかったな、健二。お前も舞台に上がれるぞ。俺は心の中で、生贄がもう一人増えたことに心底喜んでいた。
そしてこの後、葵から聞いた話だが、大原先生の相手の男は、大原先生に結婚詐欺師として訴えられ、篁コーポレーション顧問弁護士をはじめとする優秀な弁護士軍団に追い詰められ、大原先生に多額の慰謝料を払う判決を下される。その慰謝料は、橘ファイナンスで借りさせられ、橘ファイナンスは孫会社のサラ金にその債権を譲り渡したらしい。現在、その男は非合法のマグロ漁船に乗っているということだ。
女は怖いが、金持ちのご令嬢たちは、もっと怖いと俺は痛感するのだった。
こうして紫恋さんも、文化祭の舞台に上がるため、本格的な演劇の練習を始めたのだが、もともとおとなしい紫恋さんは、なかなか恥ずかしさを克服できない。文化祭まで後三か月足らず、聖心女学園演劇部と城央高校演劇同好会は、夏休みの合同合宿を行うことを決めたのだった。
場所は、この町から少し離れたナンパで有名な海水浴場の近くにある池田さんの別荘で行うことに決定したのだ。
そして、池田さんは演劇部の部員たちに、この海水浴場で大胆な水着を着て、ナンパされることを強要するのだ。なんで?
「いい、女優は男を引きつけるぐらいじゃないとダメなの。恥ずかしがっちゃダメよ。どんどん大胆になって。いざ危険な時は、私の家の警備員が駆けつけるから」
ちゃんと危険に対するフォローもしているみたいだ。物陰や木陰に隠れた筋骨隆々な強面の男たちが、ちゃんと目を光らせている。
それで、葵や藤萌や紫恋は、体のラインを強調した大胆なビキニを着て、男の視線を集めている。そして、俺と健二はと言うと、やっぱりナンパさせられているのだ。しかも、ちゃんとセリフの書かれた絵コンテを渡されて……。
「ねえねえ、これから、俺たちとチャーしばかへん?」
「ええとこ知ってんねん。ドライブいこうや?」
「君らかわいいな。おっちゃん、唾つけとこかな?」
なんだ、この辺の軽いやつはみんな大阪弁なのか。それに、俺たちは車どころか免許も持ってないぞ。それに、おっちゃんてなんや。俺ら高校生やんけ。さらに池田さんが、メモを取りながら俺らの後ろをついて回っている。
ことごとくナンパに失敗した俺たちの後ろで笑い転げている池田さんをジト目で見て、俺たちは文句を言った。
「池田さん。なんなんですこのセリフ。いまどき、こんなセリフで引っ掛かる女の子なんていないですよ」
「そうそう、俺ら恥かくだけですよ」
「いいの、いいの。私は女の子がどんなふうに、断るか見てみたかっただけだから」
「「なんですかそれ!」」
俺たち二人は同時に叫ぶ。
「だって、ほら、うちの部員、女子校だからこういうのに慣れてなくて。去年もうちの警備員が出て大変だったの」
聖心女学園の演劇部って毎年こんなことしているんですか? 俺は心の中で池田さんに突っ込む。
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