第14話 *****BY葵サイド***** 

 *****BY葵サイド*****


 一方、用事があると車で帰った葵は、運転手に、行先に橘紫恋の家を告げていた。

 そう、単独で橘紫恋への接触を試みるのだった。どうやら葵の頭の中にもテストステロンというビキニアーマーのアマゾネスがワラワラと湧き出ているようであった。

そして、車の中で思考すること数分。橘紫恋の家に着いたのだった。

 そして、運転手に呼び鈴を押させ、橘家の者と話をさせる。初等部の頃、何回か遊びに来たこともある橘の家だ。簡単に通して貰えると思っていたところで、運転手はインターホン越しに苦戦している。

 葵はイライラして車を飛び出し、インターホンに向かってどなってしまった。

「私が篁コーポレーションの篁葵よ。モニターに映っているんでしょ。紫恋ちゃんを出してよ。だめなら紫恋ちゃんのお母様でもいいよ」

 インターホン越しに向こうで何か話声が聞こえる。そうして、紫恋の母親が出るのであった。

「本当に、葵ちゃん? すごく女の子らしくなって」

「あっ、おばさん。でも言葉遣いは全然変わってないの」

「そうね。元気な時の葵ちゃんのままね。ちょっと待ってよ。今開けるから」

 そうして待っている間、葵は運転手に告げるのだ。

「用事は三〇分ほどで済むわ。用事が終わったら電話するから、ここに迎えに来て」

 運転手にそれだけ言うと、開けられた門から、葵は玄関に向かって歩いていく。


「こんにちは。おばさん」

「葵さん。久しぶりね」

「ええ、聖心女学園の初等部以来ね。紫恋が聖心女学園をやめて、城央高校に来ているなんて驚いたわ」

「葵さん、なんでそのことを?」

「だって、私も城央高校に通っているもの」

「うそ、紫恋そんなこと一言も……」

「そうでしょうね。まだ高校では一度もあったことないわ。だって紫恋、学校に来ないんだもの。だから今日は紫恋に会いに来たの」

「そうなの、紫恋、今体調を壊していて……」

「おばさん、大丈夫よ。私、紫恋が拒食症だって知っているから。今日は元気づけに来たんだから」

「ありがとう。葵さん。ちょっと待ってて、紫恋に葵さんが来たって、部屋に入れてもいいって聞いてくるから」

「紫恋。部屋にいるんでしょ。どの部屋か知ってるから、私行くよ」

 そう言って、強引に家に上がり込む葵の脳内では、すでに、アマゾネスが剣を抜いている。

 そうして、紫恋の部屋のドアをノックする。

「紫恋、居るんでしょ。私、葵よ。入るわよ」

 強引に紫恋に部屋に入りこんだ葵は、ガリガリに痩せ、鎖骨が浮き出ており、髪の艶もなく、ほほ骨が飛び出し、力の無い落ち込んだ瞳を持つ紫恋を見るのだった。

 はっと、息を飲む葵。

「紫恋、あんた、どうしたのよ。そんなに痩せちゃって」

「やだ見ないで、私痩せてなんかいない。凄く醜くて」

 そう言うと、布団を被ろうとするが、やせ細った腕に刺さった点滴の針が邪魔をしている。

それで、葵からの視線を外すことができずに、両手で顔を覆っている。

「醜くなんかないわよ。私とあなたで、聖心女学園の初等部で美男美女のベストカップルって言われていたのに」

「もう、私はだめなの。酷く醜くなっちゃって……」

「なに言っているのよ。少し太れば、また前の美少女に戻れるわよ」

「これ以上太れって言うの? これ以上醜くなれって言うの? ひどいよ! 葵」

「あなた、今、太ってるっていうの?」

「ええ、そうでしょ。もっと痩せないと。でも、周りが無理やり私を太らせようと……」

 おいおい泣く紫恋の腕には、痛々しい点滴の針が刺さっている。きっと栄養失調で、点滴で生命を維持しているのだ。

 これ以上、紫恋を刺激しては不味い。腕に刺さっている点滴の針さえ引き抜きかねない。

 葵はそう判断する。

「ごめん。紫恋、あなたは今でも、十分奇麗だわ。だからお願い。気持ちを落ち着かせて」

(こんな時、光輝が居れば、体調の良くなる薬だとかなんだとか言って、セロトニンを服用させて落ち着かせるのに。一緒に来ればよかったかな。そうだ、とにかく話さないと。光輝は言っていた。女はしゃべることでストレスが発散されて気持ちが落ち着くはずだ。そのためにも、絶対に反論や結論を言わないこと。うん、そうだ)

「ところで、わたし、紫恋と同じ高校に行ってるんだよ。知ってた?」

「いえ、知らなかったわ」

「そうなんだ。もう大丈夫よ。学校に来ても。いじめる奴がいたら、私がぶっ飛ばしてやる」

「いじめなんて。私を保健室に連れて行ってくれた雅さんと言う人も優しかったよ」

「でしょう」

 まあ私も雅さんも、光輝のボーナスポイント目当てなんだけどね。でもこのことは紫恋には言えないな。

「でも、私のことをじっーと視る男の人がいて、きっと私が醜いから、敵意を持ったんだよね」

 そりゃあ、光輝だ。あいつ、やっぱり使えね。そう考えてあいつが此処に居なくてよかったと安堵するのであった。

「紫恋、あなたを見ていたのって、私の下僕だから怖がることないわよ。とにかく、城央高校にあんたをいじめる奴なんて居ないから」

「本当に?」

 そう言って、弱く微笑む紫恋。なんてかわいらしいでしょ。こんなになっても、女子らしいなんて。きっと、紫恋の脳内では、エストロゲンと言う清楚な制服美少女が、制服をボロボロにして、ふらふらしながらも、けなげに動きまわっているのね。

 せめて、私が抱きしめてあげるわ。

「紫恋、大丈夫。また来るから、あなたも学校に出てくるのよ」

 そう言うと、葵は、小さく細い紫恋の手を取り、優しく抱きしめるのだった。

 きっと二人の頭の中では、オキシトシンという幼児体型の美幼女がハイタッチをしているに違いない。



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