第11話 そして部屋に通されると

 そして部屋に通されると、部屋の中を見回した。それにしても、相変わらず、贅沢な造りで、俺の部屋の倍の広さはありそうだ。

 それに、良く一緒に遊んでいた小学生のころから比べれば、丸くて小さくてかわいらしいものが増えている。よしオキシトシンがしっかり出るようになっている。

 俺は、この部屋に女の子らしいところを感じ取って満足していると、葵が怒ったように言った。

「部屋の中をジロジロ見ないの。ほら、そこの椅子に座ってよ」

 指し示されたのは勉強机の椅子。俺はそこに座ると、本棚の所をごそごそしていた葵は、アルバムを持って、俺の横に立って机の上に広げたのだ。

 このアルバムは、聖心女学園の中等部のアルバムか?

 広げられたアルバムの指差す先には、クラス写真があって、居た! よくある写真撮影の当日休んだ場合、欠席者の乗る右上の○の中だ。名前を見ると、橘紫恋(はちばなあこ)となっている。なんていい名前なんだ。「名は人生を表す」俺の思惑にピッタリだ。

「私のいた学校に拒食症の子が居たのを思い出したのよ。ビンゴだったみたいね」

「ああっ、それでこの子、学校でいじめに遭っていたとかが在ったのか?」

「うーん。どうかな。別のクラスだったしな~」

「橘紫恋さんの小学校の時の写真はある?」

「初等部のアルバムか。ちょっと待ってね」

 初等部のアルバムを本棚から引っ張り出し俺に見せる。俺は、一組から順々に名前を見ていくが、そこに橘紫恋さんは見当たらない。そして葵が居た五組のクラス写真を見ていく。

 葵は、この当時は男みたいで凄くやんちゃそうな感じで写っている。居た! その葵の隣だ。確かに橘紫恋さんは居た。

 この時は、まだ、ふっくらしていて、女の子らしい丸みを帯びたからだのラインで、髪の艶や、膚の張りも申し分ない美少女だ。

「葵、お前の隣にいるぞ」

「えー、どこどこ。あっ、ホントだ。あの子、初等部の時はこんなのだったんだ。そうだよ。思い出したよ。とても女の子らしくってさ、可愛かったんだよね。将来、僕のお嫁さんにしようと思ったから、写真は大抵隣で写っていたな。なつかしい!」

お前、将来嫁にしようと思っていた子を忘れていたのか? しかし、男は人に対する記憶ってそんなもんだし、あれから、葵も色々とホルモンバランスも変わったからな。それにしても、

「葵、言葉使い!」

「あれ、幼いころの写真をみてると、あのころが蘇って男言葉になっちゃうな」

「それでこの子、この時点では、普通だよな? 当時、いじめとかに遭ってなかったか?」

「うーん。僕が気を引きたくてちょっかい出していたくらいかな。僕の思い人に手を出せるやつなんかいる訳ないよ」

 お前がちょっかい出していたのかよ。コミュニケーションが苦手な男の子が、興味のある女の子に色々意地悪することはあるが、度を過ぎるといじめになるぞ。

「葵、お前、橘さんに、どんなちょっかい出していたんだ?」

「別にたいしたことはしてないと思うよ。鞄の中にカエルを入れたり、机の中にセミの抜け殻を入れたりしたぐらいかな」

「ストレスの原因は、お前なのか?!」

「いや、ちゃんとカエルとか、セミの抜け殻とか、毛虫とか、全部僕が取ってやったんだぞ。あの当時、そういう物が触れる女子って、女の子の尊敬を集めたんだよね」

お前、それ、好感度を上げるための自作自演じゃないか。でも近くに守ってくれる存在が居れば、それほどのストレスにはならないか。女の子が一番恐れるのは、孤独になることのはずだ。俺がそこまで考えた時、葵の部屋の扉がノックされた。

「どうぞ」

 葵が返事をするが、扉は開かない。そしてしばらくすると、扉から遠ざかっていく足音が聞こえる。

 これが先触れか? そんなことを考えていると、葵がいきなり悶えだす。

「あの親(バカ)、本当に先触れを出しやがった。なに、この状況、こんな事されたら、返って恥ずかしいでしょうが!」

 そらそうだ。こんなことをするという事は、部屋の中で、何かいけないことをしていることを想定してやっているのだ。相変わらず葵をからかうことが好きなお母さんだ。

 お互い気恥ずかしくなって、黙り込んでいると、ノックからきっかり五分後、再び扉がノックされた。

「早く、入って来て」もうすでに葵は懇願状態だ。

 そうして、扉を開けたお手伝いさんは、一礼すると、

「お嬢様、お茶の準備が出来ました。こちらで召されますか? それとも、客間で?」

 入って来たお手伝いさんの後ろには、ワゴンに乗せられたティーセットと、数人のお手伝いさんがテーブルとイスを持って控えていた。

 この葵の部屋で、ティーパーティでも開くつもりなのか? さすが、金持ちは考えることが違うと考えていると、葵が怒ったようにお手伝いさんに言った。

「客間で頂くわよ。もうやることは済んだんだから」

 それを聞いたお手伝いさんは、葵の顔を見てニヤリと笑う。

「御用時が手短に済んでよろしゅうございました。早飯、早糞、早セッ○スは芸の内って申しますから」

「ちがうわよ! 二人でアルバムを見ていただけなんだから。それにそれを言うなら、早飯、早糞、早算用でしょう」

 いや、今の発言は、葵の言い方がまずいだろう。それで揚げ足を取られただけだろう。

それにしても、葵の奴、家庭内では結構デスられているな。まあ子どものころはやんちゃで、かなり母親やお手伝いさんを困らせていたからな。このお手伝いさんたちの下品さは、きっと子供の頃の葵に影響を受けたからだろう。





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