第7話 翌朝、学校に向かう途中で

翌朝、学校に向かう途中で健二と落ち合い、だらだらと通学路を行くのだが、城央高校の制服を着ている女の子がやたらこちらをチラチラ見て、こそこそ話をしている。

 たぶん、今、俺と目が合ったとかなんとか、くだらない話をしているに違いない。

 俺は、君たちと話したことも無いんだから、話し合うことで親密さを増していく言語能力に長(た)けている君たちとって、全く話をしたことが無い俺は本来は恋愛の対象になるはずがない。

「おい、お前のことをチラチラ見ている女の子がいるぞ。やっぱ、高身長イケメンは得だな」

「健二、言っておくけど、女は恋愛するのにあんまり顔や見た目は関係ないぞ。女は付き合う相手にイケメンを求めていないな。イケメンがモテるというのは、男性社会が女性に求める悪しき幻想だな」

「そうなのか?」

「ああ、男は目で見て、感情を高ぶらせるから、男性から見た場合は「見た目が九割」は正しい。でも、女性は違う。女は目を瞑り、耳で感情を高ぶらせる。きっとアイドルや俳優が、色々、女にとって気持ちのいい音域で気持ちのいいセリフを吐くから、それに心陶している所に、目を開けて、テレビ画面を見てみると、そこに、イケメンがいる。「ああ、私の好みの顔は、この顔なんだ」って具合に刷り込まれてさ。あとは、条件反射のように快楽物資が出るから、イケメン=興奮するになっているのさ」

「ふーん。だったら、いい声で女をその気にさせる歌詞をブサメンが歌っていたとしたら、俺みたいなやつでも、モテモテになるかな?」

「さーあ、試したことないからわからないけど、案外その可能性はあるような気がする.でもな、女の敵は女っていうからな」

「それはどんな意味があるんだ?」

「女は連れて歩く男がステータスなんだよ。それが自分が他人より優れているってアピールになるんだ」

「うーん。そんな女同士の争いやめて、何とか俺がイケメンになる時代が来ないかな……」

「……」

 俺が無言になる代わりに、肩に座っているギフトはすごく饒舌になる。ギフトにとってはこの健二は観察対象の面白いやつで昔から通っているからな。

(女は本来、第六感で自分が持っていない遺伝子を持っている男を、一目で見抜くことができるのです。光輝様の遺伝子はホルモンを制御(コントロール)するという優秀な遺伝子を持っています。社会現象以前に光輝様がモテまくるのは必然と言えます)

(はいはい、分かっていますよ。ギフトは本当に俺の味方なんだから)

 俺の目の前を、後ろ手に組んで飛んでいるギフトはとても愛らしい。健二には申し訳ないが俺がモテるのはホルモン以前の遺伝子に刻み込まれた優位性らしい。だからギフトが見えるわけだし。


 健二とこそこそと話をしながら、女生徒の注目の中、校門をくぐり教室に向かう。

 そして教室に入った瞬間、中にいた雅さんがちょっと怒って、俺たちに話しかけてきた。

「五条くん。昨日、言っていたMMバーガーのディアーセットは、別々で買うより、五〇円安かったよ」

 面倒くさい娘(こ)だ。雅さんも少し男ぽいところがあるよな。負けず嫌いの所とか。でも、きっと女の子らしくこんなことをしているはずだ。

「そうなんだ。知らなかったよ。でもどうしてわかったんだい?」

 俺は答えが解っているんだが、ワザと雅さんに答えさせるようとする。別に雅さんは、俺を責めている訳でも、咎(とが)めている訳でもない。ただ話を聞いてほしいだけなのだ。

 そういうことを理解していないと、仲のいいカップルが、些細なことで別れる原因になるのだ。俺にとっては、まあどうでもいいことなんだけど。

「それなのよ。私たち昨日、エムエムバーガーに行って、わざわざセットで頼んだ時とバラバラに頼んだ時に払ったお金を比べてみたの。そしたら、ねーっ、セットの方が、五〇円も安かったんだよねー。恵子」

 話を振られた恵子と言われた女の子は、少し焦っている。別に話に入りたいわけじゃなかったみたいで、そうなると、「雅さん、そんなところで、バカを晒さないでよ」と言うところか。

 やっぱり、雅さんたちは、俺が思った通りに行動してくれる。わざわざ、買わなくてもメニューを見て、書いてある値段を足していけばわかることなのに。

女の子の生態と会話の意義を知れば、相手を怒らせることも無いのだ。

「凄いね。俺の勘違いだったんだ。じゃあ今度は一緒に、その良心的なエムエムバーガーに行くよ」

「ホント! 絶対だからね」

 まあ、こうして褒めておいて、最後は社交辞令で締めくくれば、女なんて可愛いもんだ。

 もっとも、これは、こちらがイニチアブを取っている時に限るけどな。

 もし、本当に怒っているのなら素直に謝った方が、ノルアドレナリンの分泌を抑制できる。

 俺がここまで冷静に対応できるのも。ギフトの薫陶(くんとう)の賜物(たまもの)だ。


そんなことを考えていると、雅さんが、はっとしたように声を上げた。

「あれ、昨日休んでいた橘さんが今日は来ているわ。確か彼女、拒食症で体調が悪いって聞いていたのに……」

 ああ、女性がお得意の話題があちこちに飛ぶが始まったぞ。それに女性は周辺視野が広いし、人に対しては様々なセンサーが働くからな。

 俺は、雅さんに言われた方を見て、これは……、と一瞬思考が止まってしまった。


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