第6話 ねえ、光輝、あなたの理想の若紫の君って
「ねえ、光輝、ところであなたの理想の若紫の君って、この高校に居そうなの?」
「いや、だってまだ一日だけなんだから、そんなのわからないよ」
「えーっ、女なら教室に入った瞬間に、中に居る人の人間関係や精神状態なんかすぐにわかるのに。私が声を掛ける前に、光希に話しかけていたかわいい女の子たち、光輝に気があるわよ」
「そうなんだ? 男はそういうところに疎いからな。あれくらいの情報交換だと、この子、俺に気があるのかな、でも俺の勘違いだったらめちゃ恥ずかしいからな、行くべきか行かざるべきかって、ハムレット状態になるだけだな」
「知ってるわよ。あなたにさんざん教えられたからね。男のセンサーは物に反応して、女のセンサーは、人に反応するんでしょ」
「その通り、男は教室に入った途端、無意識に安全な場所や危険な個所を探しているんだよ」
「そっか、でもあの子たち、光輝が理想の君を見つけた時は、けっこうライバル? いやちょっと違うかな。障害になると思うよ。イケメンは苦労するわね。男は来るもの拒まずで、やりまくればいいのに」
「葵、お前、なんてこと言うんだ。女の子がやりまくるなんて」
「あら、女にも性欲があるって教えてくれたのは光輝でしょ。もっとも男の一〇分の一しかないらしいけど」
「それだけじゃないぞ。その感情も女性ホルモンの分泌量の変わる生理の周期が影響するって。そうか、お前、排卵前で、エストロゲンの分泌量が最大になっているうえに、テストステロンやアンドロゲン(男性ホルモン・性欲ホルモン)の分泌量も多く出ている時期じゃないか。それに伴って、アドレナリンが大量に出ていたりして。
お前、気を付けろよ。そういう時は男の誘いに乗りやすい。そういう脳内現象を知らないで、「この人は、私の運命の人とか」、言い出すなよ」」
まあ、ギフトが視覚化して見せてくれたら、葵の頭の中は、聖女とビッチが仲良く手を繋いで、男の品定めをしているはずなのだ。さらに、触られるの大好きロリ少女まで手ぐすね引いて待っているに違いない。
「心配いらないよ。あの宮田って言う人に、何も感じなかったもの」
「そうか? まあ、打算的だからな、葵は」
「そうやって心配してくれる光輝って、優しいわよね」
そう言って、俺の腕に腕を絡めてくる葵。まったく、この時期の女はオキシトニンがでているから、やたら人に触れたがるな。こういう行為が、男をハムレット状態にしているのが解っているのか?
一方葵も不遜なことを考えていた。
(光輝って、今日は、良くしゃべってくれるわよね。いつもは、ほとんど、だんまりなのに。最も、話すことはいつもホルモンの事ばっかし、でも、おかげで色々冷静になれるから助かるんだけど……。
だけど、恋愛感情を化学式に当てはめて解説されると、あっという間に恋心も覚めちゃうのよね。そっか、恋愛ホルモンって言われているPEA(フェニルチルアルミン)もその分泌期間は短かったのよね。たしか、一人の相手に対しては、三か月から長くても三年だったっけ。
私と光輝との付き合いって、三年以上続いているわけだから、私の光輝に対する気持ちって、恋愛ホルモンが造りあげる幻想じゃなくて、本物ってことなのかな?)
もうすぐ、葵の家に着く。それにしても、さっきから、葵が急に喋らなくなったな。女が喋らなくなるのは、ストレスが解消されたか、俺と共感することが無くなったかだから、俺との肌の触れ合いで、ストレスが解消されたかな。
まあ、どうでもいいや。葵を家に無事に送り届ける。これで、ミッション完了だ。
男性ホルモン(テストステロン)は、今のように社会が複雑化して、多様な使い道があっても、結局は、
・子孫を後世に残す。
・狩りをして、獲物を仕留める。
・女、子どもを守る。
だからな。きっと、俺の頭の中はその目的を達成して、興奮したため、アドレナリンが大量に出ているだけだ。葵とまだずっと居たいとか、このまま腕を組んでいたいと思うのは単なる幻想だ。
「光希、それじゃあ、また明日ね」
「ああ、また明日」
そう言って、門の中に入っていく葵を見送って。そうか、同じ高校に行っているんだから明日も会えるよなって、俺はなんで明日を楽しみにしているんだ。まだ興奮状態が続いているようだ。
俺は、屋敷の中に入った葵を見届けると、大きく深呼吸をする。アドレナリンを押さえるセロトニンを分泌させるには、深呼吸するのが一番だ。
俺は、頭の中に温泉の湯上り浴衣美人を思い浮かべた。
すると、また明日から、あの慣れない教室に通わなければならないことを思い出して、気が重くなっていく。
(光輝様、今日は何かあの葵を意識しているようですね。心の感情を視覚化させましょうか?)
(ギフト、それだけはやめてくれ! 今そんなものを見せられると、もだえ苦しむに決まっている)
自分の気持ちが分からない方が、分かっているよりずっと人間らしいと思う。自分の気持ちが分からず悩みを抱えているのが人間なんだと思う。
(わかりました。気を取り直してください! 教室には、新しい観測対象である雅さんが居るではないですか?)
(確かにその通りだ。ギフト、明日からもよろしく)
(ええっ、光輝様の幸せのために……)
ギフトが珍しく俺の目の前に飛んできて、俺の瞳を覗いてそう言った。葵だと俺は幸せになれない、ホルモンで定められた未来だと言いたげに……。
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