⑳
結局今日も雨だった。
予報では明日も雨だ。
「なあ。いつまで雨なんだろうな」
憂鬱になっている俺は前を歩く赤い傘をさしている黒島に聞く。
「知らない」
「素っ気ないな」
そんな雨でも俺と黒島たちの5人で学校の帰りいつも通りボクシングジムへ向かう。
「ねえ。そういえば、同じクラスの男の子だけど、昨日あのヤンキーに襲われたんだってよ」
と情報を教えてくれたのは黄色い傘をさす森だった。
まだ何も問題は解決していない。また黒島たちが襲われる可能性がある。
「え? ホントに?」
でも、カズ。俺、お前と一緒でこんな雨でも一生懸命生きるよ。この4人とずっと一緒にいたい。そのためには何でもする。
「今度、ヤンキーが襲ってきたら、誰か一人でもいいから気絶させたいんだけど」
浜辺が何故か楽しそうに言ったのに対して、他の3人も頷いたり、そうだよと同調する。
どうしていつもこの4人はこうなのだろうか。
「なあ。みんなヤンキーに襲われるの怖くないの?嫌じゃないの?」
「そりゃあ。。。でも、いざとなったらメガネ君、助けてくれるでしょ?」
森がウィンクをしてくる。俺は顔をわざと合わせないようにしてまあな。と答える。それに対してキャッキャと彼女は水たまりの上をじたばたしてはしゃぐ。
「止めてよ。水がかかるでしょ」
浜辺が少し迷惑そうに森を見つめる。俺だって死ぬ気で守る。でも実際は、4人を守り切れるかどうかわからない。それなのにどうしてそんなに4人が明るくいられるのか理解に苦しむ。
と、黒島が道の隅で足を止める。
「どうしたんだ?」
近づくと彼女はアジサイを見つめていた。
「綺麗だよね」
「何が?」
「何がって、アジサイの葉っぱだよ。メガネ君さ、雨の日って好き? 嫌い?」
「え? 嫌いだけど」
「そう。私、雨の日って好きなんだよね」
「雨の日が?」
「日本には約1200種以上の雨に関する言葉があるんだって。昔の人もきっと、雨の日に思うことってたくさんあったんだと思うんだ」
珍しくインテリじゃん。と後ろにいた土屋が茶化す。
「翠雨って知ってる? 翠雨っていうのはこういう葉っぱに雨が落ちる美しい水滴のことなんだって」
そう言われて俺は改めて葉を見る。
雨が落ちでできた水滴が緑の葉を濡らし、それが先端で水滴になり下に落ちる。その水滴一つ一つはどれも形が違う。言われてみなければこの美しさには気づかなかった。
「これが見れるのは雨の日だけだよね。。だから、私、雨の日も好きなの」
妙に説得力のある言葉だった。黒島は続ける。
「私ね、リンチは嫌だよ。でもそれがなかったらボクシングをすることもなかったし、メガネ君とも会うこともなかったと思うの」
「俺も黒島とは仲良くなれなかったよ」
「そう考えたら、リンチも何か悪くなかったって言ったらおかしいけど、なんて言うんだろ。。。」
言いたいことはわかる。ただ、それを言葉で表現してしまうと軽はずみな言い方になってしまう気がする。
「だから、、、、私たちにまたボクシング教えてよ!!」
そんなのいくらでも教えてやる。でもその前に、やらせてもらいたいことがある。
傘を離してグッと黒島を抱きしめていた。
「あ! 黒島だけズルい!!」
抱きしめる黒島と俺の周りに他の3人が集まる。
雨は降り続いていた。
止む気配もない。
でも雨の日も悪くない。
翠雨 AKIRA @11821182ki
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