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「結花」の身体はひんやりして、嘘みたいにすべすべで柔らかかった。媚びたいやらしさの無い身体つきが、とても魅惑的だ。美しい、まるで本当に神様がつくった芸術品のようだ、柔らかく、あたたかく、色白な皮膚は爪で突いたら破けそうなほどぴちりと瑞々しいのに、肉ぜんたいは掴むとふにゃふにゃしている。何も、何も、何も、何も、知らない身体だ。何も知らない、蔑む視線も、下に見る態度も、セックスアピールの露骨な汚い服装も、人を舐め腐ったヒエラルキーも、何も知らない。腕の柔らかさを手で強く掴んで確かめながら、腿の間へ顔を埋める。この、この、この、手で掴んでいる小さい肉体はまだ何も教えられていないのだ、清らかな表情だ、穢れがない、下卑た汚水の匂いがしない、片手で畳めてしまえそうに儚い身体、口答えもしない、しない、喋らない、塞いでしまったから、腰、細くまるいお腹は熱い、あ、あ、天上のものだ。これは、頭頂はるか高くを突き抜ける、天の、至高の、肉の恵みだ。素晴らしい肉体だ。余計な反応や感情など、いらない、いらない、いらないな。あたまは、あたまは、いらない、肉体、肉体だ。これは「結花」の肉体だ。その他の名前も、記号も、これには無い。この、この、この肉の奥に自分の肉体をうずめてみたい、な、あ、あ、あ、ああ、あああああああああああ






インターホンの音がする。来訪する人の心当たりは何も無い。

モニターに近付き過ぎているのか、ピンクの服の布地しか見えない。宗教勧誘あたりだろう、居留守でやり過ごそうとモニターに背を向けた。その瞬間、モニターから声が割って入る。

「あたまをおもちしにうかがいましたあ」

何故知っているのだろう、ビクンと肩が跳ねた。

「あたまですう」

唾を飲み込んでモニターを睨め付ける。不気味さへの怯えと恐れ、ピンクの布地が揺れるだけの画面が、たまらなく怖い。

「あたま」


ずっと見ていると、まるで布地が喋っているような錯覚に陥りそうだった。モニターに擦り付けているのか、布地がぐりぐりと渦を巻く。渦に見入っていると全身の感覚が遠くなりそうだった。慌ててモニターの電源を落とす。

「あたま」

扉越しにこもった声が追い掛けてくる。扉を叩く音、乱暴に不規則な音からリズミカルへ変わり、しだいに焦れたのか扉破壊しかねない勢いで何かがぶつかってくる。

「しってるんだから」「あたま、あたま」「あたま」「あたま」「わかってるのよ」「もってるでしょおおおおおおおなんでかくすのよおおおおお」「あたまああああああああああああああああああああ」ぐわんぐわん、という音が本当に脳内でしそうなほど、不愉快な声だった。割れているのに、しなる鞭のように頭に刺さる声だ。顔も見えない、正体もわからない、声も知らないこの人物に、ひどく焦りを感じていた。ひどく恐れを感じていた。一連の行為そのものではない、格好の異様さではない、何故知っているのだ。何故、何故、何故。私は冷や汗がつたうのを感じながら、リビングへ引き返した。








近隣の人間にどうか聞こえないでいてくれと思いながら、長い時間を耐えた。それはずっとそこにいた。今がいつか、初めはいつだったのかは覚えていなかった。とにかく、ずうっとそこにいるのだ。ぞっとするほど大きな女だった。見上げると首が痛いのはもちろん、男でも長身では済まされない背の高さだった。あまりにも高過ぎて、天井に背中を擦り付けながら、首と上半身を折り曲げてこちらを見ていた。常人の、いや人間の体躯ではない、まるで奇形の化け物のような──

チェーンと扉の間から、濁った灰色の虹彩がぎょろりとこちらを向いた。

飛び出すほど剥かれた眼球に射られた時、捕まった、その強い感覚があった。

「言ったな?」

口には出していないのに、全て聞かれている。

「ばけものぉおおおおおおおおおお」

これも全て読まれている、

「わかるんだよぜんぶぜんぶわかる言った言った言った言った言ったききききききけいなんかじゃないおまえがもってるあたま、あたまを、あたまをはめればうまくいくんだから、ほしいほしいほしいいいちがうちがうからほしいばけものじゃないほんとはあたま、ほしいの、ちょうだいよ、あたま、かんたんでしょ、みんなもってるでしょ、ねえ、つぎがほしいの、したら、じゆうになれる、つぎ、つぎがほしいいいいいいいい」

意を決して、そっと箱に入った仔羊の頭を見せるように差し出した。

お願いだから帰ってくれないか、そこに置いておくから、受け取って帰ってくれ、頼む、頭ならここにあるから

チェーンの上から、頭ほどある大きな手が差し込まれる。

「もっとあるでしょ」







インターホンの音で目が覚めた。今出ようと思い立ち上がろうとしたが、うまく立ち上がれない。疲れている、のだろうか、何だか、ふわふわとして宙にいるようだ。夢をみていたのかな、モニターを確認、し、に行かなくては、でも、いくら、うごかしても、モニターは全然、目に入っては、くれない。どうしたのだろう、ひどく、首が痛い。手足を動かしてみます、ばたばたばた。あるいてみましょう、あれぇ?のびきって、うごきません。大きくうでを回して、のびをしましょう。てんじょうも、ゆかも、てーぷでぜんぶふさいだまども、きたないあしもとのてーぶるも、よぉくみえますね。あぁ、だって、なんでこんなにへやぜんたいがみまわせるかって、くびがいたくて、ちからがはいらなくて、めだまもとびでてししまいそうです、からだじゅうのびきってぐにゅにあしから、おしっこもうんちもぜんぶたれながしできたないです、きたないです、きたないですでででででででもぼくはだってだってなんでかってなぜなぜなぜなぜもうずっとずずとずうまえまままあああああああたまをあたまをあたまをあたまをくくくくくくくってぼくは、ああ、いる、いる、ゆかがいる、いつもよこに、おおきくなって、てんじょうにちかいかお、ちかくなったね、ぼくたち、ああ、あ、いたい、いたい、ちかいのに、いたい、ゆか、そんなにひっぱったら、ぼくのあたまがとれ







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あたま あたまゆるふわ系オムライス脳漿 @ishkopp

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