第46話 集結
中央区、ストーリア本部会議室。
緊急会議は各地区の地区長、各部隊の隊長が集まるだけでなく、ストーリア総裁であるシェヘラザード様。
「第四部隊隊長、ヨハネス・セルバンテス。王立区地区長、ニック・ハンス到着しました」
第四部隊の隊長であるヨハネスが黒く長い髪を揺らしながら入ってくる。その後ろをやって来たのは機械人形のハンスさんが入ってくる。赤黒い髪に青い瞳はやはり第五部隊のヘイトリッドによく似ている。セルバンテス家もハンス家もエピソードに拘る血統だら色々複雑そうだ。
「ほーん、あれが赤髪くんの兄貴かいな。見た目はヒトやけど、あれが機械なんてなぁ」
僕の後ろに隠れているジェスターが小声で話す。僕は尻尾で彼に触れて、これ以上余計なことを喋らないように伝える。
そうして続々と会議室の中に他部隊が集結する。
「第一部隊隊長並びにブルー地区地区長、
なんの混じり気もない漆黒の髪をオールバックにし、紺色の羽織が目立つ水瀬さんが一礼をしてから席につく。腰には刀が携えられている。顔や体格は貫禄があってどこか近寄りがたい。まぁ、四十七で能力を持たないストーリアの中では最強の剣士だからだろう。
「第二部隊隊長、火山デリット。レッド地区地区長、キャロル・ハート、ルイス・ハートただいま到着しましたぁ」
ハート夫妻を連れてきた火山さんはちらりとこちらを見やり、僕の後ろにいるジェスターを睨む。まぁ、情報は行き渡ってるからそりゃそうなるよねぇ。
「第五部隊隊長、大神アルマ。中王区地区長、ピーター・マシュー到着しま─────待ってください。なぜここにジェスターがいるのですか?」
やはり臭いで気づいた狼の大神さんはグルルと喉を鳴らす。ジェスターは後ろで気味悪げに笑い、パチンと指を鳴らす。すると頭上から花びらがひらひらと舞う。
「狼さん、言うたやろ? 俺は卑怯な奴やからどっちの味方になるかはあんたら次第って。今回のホワイト地区襲撃で俺が裏切った、または拘束されたって話になってるやろうから否が応でもこっちの味方なんやけどなぁ」
いつの間にか大神さんはの目の前にいたジェスターはケタケタと笑う。大神さんは向かいにいるシェヘラザード様を見て、判断を求めるがシェヘラザード様は首を振って微笑むだけであった。
「よく回る口が自慢のようだが、舌の根を切り落した方が良さそうだな」
「あー怖い怖い。猫ちゃんと雪のお嬢さん、きっちりかっちり説明したってや」
スノーさんは説明する気は無いのか、持ってきた……いや、盗んできた本を見返している。研究日誌の事を話したくたまらないんだろう。
「第三部隊副隊長、尾真田カプリスが隊長のシルト・セルバンテスの代わりに参りました」
初めになぜ僕が来たのかという事を話し、ジェスターが契約のもとでこちらがについた事、乙峰姫花はすでに死亡しており浦島と名乗る男がこのホワイト地区襲撃の首謀者の一人であることを説明した。
大神さんはどこか不服そうな顔をしていたが、誰も口を開かなかった。 だが、その中で一人場違いな発言をする男がいた。
「あぁ、それで義弟がいないわけですね。今度食事でもと誘うと思ったのに残念です」
「……一応言っておきますが、シルトは生きていますし、食事は行かないと思いますよ。ヨハネスさんの話はいささか人道に反するものです。それにシルトは家のことに一切の興味も示していませんから」
「ヨハンでいいですよ、君はもう執事じゃないんですから。あと、シルトの前で話しているように話してくださいよ。君が初めてあったときに怖がらせないための可愛らしい語尾で話してくださいよ」
「ヨハネスさんに話すつもりはありませんよ。僕が信頼しているのはシルトだけなので」
ヨハネスは血のように赤い目を細くさせ、軽蔑するような視線で僕を貫く。まぁ、彼からしたらシルトと僕とは勝手にやってきた孤児の弟とそれの腰巾着である僕。疎ましく思うのは当たり前だ。
「セルバンテスくん、尾真田くん、口論ならまた後にしてくれるとありがたいね」
シェヘラザード様のその一言でざわついた会議室がしんと静まりかえる。スノーさんはその空気を壊すかのように盗んできた研究日誌をスクリーンに写す。一体どこからスクリーンなんて持ってきたのか……
「会議の内容の説明なんて不要です。今回、
「ちょ、ちょっと最後のそれ聞いてな─────」
僕が口を出そうとすると、スノーさんはふっと微笑む。それはまるで蝶が舞っているような朗らかな笑みであった。なるほど、これを意図的にできるあなたはやはり悪魔だ。
「ウラシマという肉体強化を目的とした薬物には微量の血液が含まれていました。あまりにも微量である為、人物を特定することはできませんでしたが、この日誌で確信しました。ウラシマは四十年程前にいた『浦島太郎』というエピソーダーから採れた血で、そのエピソーダーの血に含まれる因子は一般人に投与すると拒絶反応を起こして怨毒化を促進させます」
それを聞いた水瀬さんは腕を組んだ状態でジェスターを睨む。ジェスターはそんな目すら気にしないのか、口角を上げたままであった。
「じゃあ、今回の怨毒の大量発生や前回の狼型怨毒もその血が原因ってことか。
「なんやおっさん。人道に反してるとか言うつもりなんか?」
「そう捉えてもらって構わない」
「残念やけどな─────」
ジェスターはすこし間を開けてから口を開く。
「正解や。俺はあんたらの血のせいで怨毒化していることも、十六年前と今起きとる傷害事件もあんたらの血を使ってウラシマと怨毒を生み出し続けた。あんたらは生きているだけでボロ儲けする金の鶏同然なんだよ」
刀を抜いた者、銃を向ける者、炎を向ける者。全ての怒りの矛先はジェスターに向けられ、いつ抜いたかわからない刀を向けた水瀬さんは低く這いよる声で話す。
「お前はたった今、俺達を侮辱するだけでなくヒトを道具として扱ったと自覚した発言が見られた。俺はお前を信用できん」
誰もがジェスターは死んだと思った。会議室が血で汚れると考え始めていたそのとき、絶対に逆らえない冷たく鋭い声が会議室に響き渡る。
「待て」
たった二文字。たった二文字で水瀬さんの動きは止まり、ジェスターの首から赤い液体が流れることはなかった。
シェヘラザード様は水瀬さんの刀に触れる。まるで湖畔の静かな水を撫でるように優しい触れ方で刀を下げる。
「"エピソード──────千夜一夜物語"」
その瞬間、シェヘラザード様の背後に踊り子のような格好をした性別の分からない人間が現れる。
「"五十四夜─────
踊り子がジェスターの顔を包むように触れ、顔を見合わせる。するとジェスターは無抵抗のまま膝から崩れ落ちてシェヘラザード様に体を預けた。
「安心して、すぐに起きるよ。少しだけ力の差を見せないと、君達に害を及ぼす可能性があったからね」
踊り子は消え、言ったとおりジェスターは直ぐに飛び起きた。ジェスターはシェヘラザード様から距離をとってはガタガタと震える手を押さえながら、着席する。その反応はまるで悪夢を見た子供のようで、異様ともいえるその反応に僕達はただ生唾を飲むしかなかった。
「な、なんやあんた……その力、エピソードやないやろ! アダムの旦那とよう似とる……規格外にも程がある」
「僕はシェヘラザード。僕のエピソードである『千夜一夜物語』は自分が考えた物語をエピソードとして出せるんだ。読み聞かせてあげようか? 千の夜まで続くこの物語を……」
シェヘラザード様がそう言うと、ジェスターは虎に狙われた兎が逃げるように壁に張り付く。自分でも何をしたのかわかってないのか、情けない「え」という言葉が漏れ出ていた。本能で脱げ出したんだ。僕も、いやこの場にいる誰もが逃げ出す準備をしていた。それは容易に分かった。
誰もが席を立っていたから。ただし、一人を除いて。
「これヘラ。あまり若い者をいじめるでないぞ。首相であるフックが伸びてしまったぞ。皆も怯えて子鹿のように震えている」
「ピーターさんは逆に堂々としてるね」
シェヘラザード様が困ったように笑い、ようやく緊張の糸が切れた気がした。久々に彼のエピソードを見たけど、やっぱり異常だ。
日頃からキャンキャンと吠えてるヨハネスも二人の王を前にしては結局何もできない。圧倒的な力の差を再確認した僕達は同タイミングで安堵のため息をもらした。
「さて、今度は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます