第12話 二度目のラブコール
死者を蘇らせるエピソーダー。その人は一部では神だと、一部では死神だと騒がれた。それに対し、その人はこう答えた。
『光栄だよ。どちらに転んでも神様なんだから』
その人はエピソードをほとんど使うことは無く、自身が開発した機械で怨毒と戦った。そして、十六年前に起こったエピソーダー惨殺事件に巻き込まれ怨毒となった犯人に殺された。
「だぁーっ!! なんでそいつに関する情報が無いんだよ!」
「ヘイトリッドうるさいです。名前も残されていないとこを見ると何かいけないことに突っ込んだみたいですね。あの頃はまだ前総裁が仕切っていましたから勘付いた前総裁が消した可能性は大いにあります。今、彼は中央区の地区長ですが……」
「自由奔放でここ数年は見かけてないって噂だよねぇ」
テュランは第三部隊から送られてきた報告書をかぼちゃで運び、私の手元にそれを置く。まだ少年だというのに彼はとんでもない働き者で物覚えも早い。天才と言ってもいいレベルなのだが……どうにも気分屋である日は事務仕事、ある日は肉体労働。何事もそつなくできる分、飽き性なのだろう。
「あの黒フードについてですか、ありがとうございますテュラン」
礼を言い、ファイルを一枚、二枚とめくる。しかしめくってもめくっても大した情報は得られない。捨て駒だったのだろうか。
「ふむ、あの黒フードは下半身が機械化したサイボーグ女でした。どんなに調べても名前も住所も分からなかったみたいです。まぁ、裏組織が住民登録なんかしてるわけないですもんね。もちろん、エピソーダーではありませんでした。ですが……」
「なんだ? なんか特別な種族だったのか?」
「いえ、彼女は最近出た『ウラシマ』という危険薬物を服用していました。ウラシマは幻覚、幻聴を引き起こすだけでなく、怨毒に近い超人的な運動能力が得られるそうですよ」
元は医療用としても使われる薬草だが、その葉を乾燥させると依存性の高い薬物となる。ウラシマの摂取方法は煙を吸うこと。煙管、タバコ、少し前に幼稚園の前で大量のウラシマの煙を起こした事件もあった。ウラシマを使ったドーピングもあったな。
「ねぇねぇ、これ狼さんのスマホだよね? やけに可愛らしいんだね」
ニヤニヤと笑うテュランから手渡されたのは間違いなく私のスマホだった。奪うようにしてスマホを受取り、電源ボタンを押す。するとロック画面にはシルトからの着信の嵐で埋め尽くされていた。獣人族は骨伝導イヤホンを使わないと聞き取りにくい為、電話ではきらいなんだ。しかし、シルトからなんて珍しい。
骨伝導イヤホンを耳につけ、通話ボタンを押す。
「もしも─────」
「あ、やっと出たわね! もう、私が呼んでるんだからさっさと出なさいよ! もう少しで撮影が終わるわ。第三部署にすぐ来なさい。ヘイトリッド……は品がないし、テュランちゃんは子供だから無理ね。あなた一人で来てちょうだい。わかったわね? じゃ」
一方的に喋られた挙句、ブツンと間髪無く切られてしまった。台風のような人だな……ヘイトリッドは察した顔をし、ひきつったような笑みを浮かべる。なにもわからなかったテュランは首を傾げ、不思議そうな顔をする。私はというとため息が止まらなかった。
「今度はシルトからのラブコールです……すみませんが今から第三部署に行ってきます」
「あぁ、お疲れ様。俺の車を貸すよ、どうせあっちこっち引っ張り回されるだろうからな。それと、多少の化粧はしとけよ。ホワイト区はお嬢様地区だからな」
「わかっていますよヘイトリッド。二人とも、後はよろしくお願いします」
────────………
第三部署は白く、豪勢な部署だった。まるで城だな。部署の中には白い軍服を着た第三部隊の者が多くおり、私に対し執事のような対応をする。黒い軍服の私が入ることによって白に統一された空間が壊れていく気さえした。
しばらく客間で待っていると、白い軍服にいくつもの勲章が目立つシルトがやってきた。モデルの仕事もしながら第三部隊の隊長までこなす仕事人間。尊敬するよ。
シルトは紺色の髪を耳にかけ、桃色の目で私の顔をじっと見つめる。立ち上がることすら許されないのか、肩を両腕でグッと掴まれる。あと、顔が近い。
「な、なんですか?」
「あんた……メイクしたらちゃんと女になるのね」
「あの、失礼では?」
シルトはようやく私から離れ、今度は腕を掴んで立ち上がらせる。そして頭頂部から足先まで舐め回すように見つめ、大きく頷いた。嫌な予感しかしない。そして予想通り、訳の分からない事を彼は言い始めた。
「うん、ねぇアルマ。潜入捜査があるんだけど私のボディーガードになってくれない?」
「……は?」
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