第5話 季節外れのハロウィン
まだストーリアが結成される70年以上前。ここ中央区には多くのエピソーダーが政府非公認の状態で怨毒と戦ってきた。だがしかし、寄る年波には抗えず、次々に自らその道を辞めるものや最期まで市民を守る為に尽くした者もいた。
それだと言うのに……
「なぜ、中央区を任された第五部隊が二人しかいないのでしょうか。 猫の手……いえ、あの忌々しい猿の手でも借りたいほどですよ……!!」
「狼といえどやっぱり犬猿って存在するんだな。てか、猿にどんな因縁があるんだよ」
「あいつらは目の前で育てた林檎をむしり取り、ニタニタと笑い、汁を溢しながら食い散らかすのです。田舎といえど家があるので銃で撃つことができない。なんどこの剣で全身の毛を刈り取ってやろうと思ったか……」
ヘイトリッドはゲラゲラと人の苦労を笑い続け、机の上に出来た書類の山が目に写った瞬間。再び無言でペンを走らせている。地味な作業が嫌いな彼にとって拷問に等しいのだろうな。
一日で退院できたのは良かったが、書類が溜まるわ、シェヘラザードからの心配故の説教を聞かされ、シルトからの異常なほどの肌のチェック。そして、この大量の事務仕事。気づけば数日が経っていた。
中央区での怨毒の発生は少なく、黒ローブの情報も何一つとして入って来ない。
「ヘイトリッド、一夜限りの国王はどうでした?」
「あ? あー……とりあえず酒飲んで、世間話をして、地区長からのありがたいお言葉と共に王冠のレプリカを被せられる。そして最後は剣を玉座に刺して、王冠を捨てる。あとは適当にいい感じに締めて終了だ。昔はもっと厳しく、面倒だったらしいが、今ではただの酒飲み場だな」
「相変わらずおかしな風習ですね。私の故郷であるレッド地区はお茶会を開きますね。前までは祭りや誕生といったお祝い事がある日を除いてお茶会をしていましたが……色々と変わりましたね。時代の多様化でしょうか」
なにやら年寄りのような会話をしていることに気づいたのはほんの数秒後だった。お互いによほど疲れているのがよくわかる。徹夜はしていないものの、体と精神に異常が出そうだ。ペンを持つことに飽きが来ている時点でもう相当やばいのだろう。
埃が舞っていそうなボロボロの第五部署。隊員の机は対面となった机なのに、隊長だけが仲間外れにされているような机の配置。しかも備品の入った棚の窓ガラスには埃がびっしりと……全てがボロボロであるというのに、何なのだろうか。この新品同様の純白な書類は……何故か腹立たしい。
ため息の二重奏となった瞬間、タイミングよく固定電話が鳴る。ヘイトリッドは受話器を取り、普段とは違う営業用の声を出す。
「はい、こちら第五部署……え? かぼちゃが?」
ヘイトリッドはかぼちゃと言い、困惑した表情で返事をする。なんの要請なのだろうか。
受話器を置き、こちらを見てくるがやはりその顔は困惑している。
「なんか、かぼちゃが暴れているらしい」
「……すみません、もう一度理解できるように話してください」
「いや、だから、かぼちゃが自我をもって暴れてる」
説明している本人も理解できていないのか、お互いに首を傾げる。中央区は人が多い分、何かと困った要請もあるが、ここまで訳が分からないのは初めてだ。かぼちゃがねぇ……ハロウィンまで三ヶ月以上あるぞ? ドッキリ企画によるものなら少し気が早いよな。
「まぁ、とりあえず。ここは私が行きましょう」
「いや、俺が行く。アルマは病み上がりだからな」
私もヘイトリッドも互いに微笑み合っているが、背後に黒いオーラを出している。どうしても事務仕事から逃れたいようだが、私にも息抜きというものが必要だ。立ち上がって微笑み合う……のではなく、睨み合いながら私達は無言で拳を硬く握る。こういうお互いに譲りたくないものができれば、やる事は決まっている。
「わかりました。ここは腕相撲で勝負しませんか?」
「ほぉー? 男の俺に腕力で挑むのか? いいぜ! 乗った!」
「レディー……ゴー!」
────────……
バイクで来ること約十五分。広場には多くの人だかりが出来ていた。大きな噴水があるから待ち合わせ、デートスポットなどの特別な場所になっていた為、普段から人が多い。だが、今回ばかりは異常だな。それにスマホでなにやら撮っているようだ。
「ヘイトリッドの情報によるとこの辺りでしたね。まぁ、この人だかりを見れば一目瞭然ですが」
腕相撲に瞬殺で勝った私はバイクから降り、人だかりをどける為に声をかけていく。
「ストーリアの第五部隊隊長の大神アルマです。すみませんがそこを通して下さい」
そう言っていくと人々は素直に道を開けてくれたおかげですんなり通ることが出来た。人だかりの先にはなんとも立派なかぼちゃが置いてあった。まぁ、確かにこの時期はかぼちゃが多く取れるのだが、食べごろになるのは九月頃だ。だが……いくらなんでもデカすぎやしないだろうか。
「巨大パンプキンですね……小学生がしゃがんだ時と同じぐらいの大きさじゃないですか? 近くに畑もありませんし、こんなものが売られているスーパーなんてありませんし」
それにしてもおかしいな。通報によれば暴れていると聞いたのだが……今の所ただのかぼちゃだ。私はかぼちゃの全体を見るため、かぼちゃの裏側に回る。
目の錯覚だろうか、かぼちゃに顔のような穴が空いているような……
三角に切り取られた二つの目、ギザギザとした波のように切り取られた口。顔に見えるだけでなく、口の端がほんの僅かに揺れているようなきがしないでもない。
「……動いてる?」
そう言うとかぼちゃは分かりやすく揺れ、冷や汗なのか分からない液体をダラダラと流し始めた。何かしらの生命体だというのだろうか。それともエピソーダーの能力か?
「皆さん、下がっていて─────」
人々の顔が驚きと恐怖に染まった顔をしているのに気づき、後ろを振り返る。巨大パンプキンが怪物パンプキンとなり、私をぺろりと平らげそうな巨大な口が目の前にあった。よだれなのか、はたまた別のものなのかも分からない透明な液体が地面につく。
「この怪物めっ!」
私は近くにいて、食べられそうになっていた数人を抱きかかえて安全な場所に降ろす。
パンプキンは動くたびに地響きを轟かせ、レンガ道を壊していく。人々は悲鳴を上げながら逃げ惑う。
「早く安全な場所に逃げて下さい!」
「は、はい!」
全く、面倒な事になった。ヘイトリッドと周辺の部隊にも連絡はしておいたから誰かしら応援にくるだろう。果たしてこんな怪物に刃は通るのかは不明だが、仕方ない。
私は深く赤ずきんを被り、背負っていた二本の剣を抜く。
「エピソード──────赤ずきん」
紋章が現れる。私は剣で何度かパンプキンに斬りつけるがなにせとてつもなく硬いのだ。衝撃で私の腕がやられそうだった。
「硬いですね……いっそ燃えてしまえば楽なんですけどねぇ」
パンプキンは大きな口を開け、何度か私を食べようとするが動きが鈍いため避けることは容易い。さて、どうしたものか。
「すごいねぇ! 狼さん狼さん、僕のジャック・オ・ランタンは強いでしょ! もとはカブなんだけど、かぼちゃの方が硬いし僕と同じ髪色だからかぼちゃにしたんだ!」
楽しげな少年の声が聞こえ、怪物パンプキンを見上げる。そこには黒いとんがり帽子を被ったオレンジ色の髪の少年がいた。黄緑色のくりっとした瞳に肩の出た黒く長い服……黒いローブにも見えるが金色の装飾が施されている。
「僕の名前はテュラン! 『けちんぼジャックとあくま』のエピソーダーだよ!」
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