第36話 今のが本気?
その爆発は、正確にはゾルタン達のいる階層の直下で起こったものだった。二人の立っていた床が生き物のように
「はははァ!」
足元が崩れ落下する。共に落ちながら中指を立てて笑うトゥルースへ向けてゾルタンは発砲した。だが弾丸はトゥルースの頭部真上を
一秒にも満たない浮遊感。高さにしておよそ20m。
周囲には火災の炎くらいしか明かりがなく、頭上の穴から差し込む上層の光だけが唯一はっきりとした光源だった。まるでスポットライトのように差し込むその光の中心にゾルタンはいた。
足元を見ると
その当のトゥルースの姿が見当たらない。次弾を
先程の爆発のせいではない。
『仕切り直しと行こうぜ兄弟。ここが次のステージだ』
どこかからドローンの音声が聞こえる。また姿を隠して様子を
「……ああ、そういうことか」
『何がだよ、兄弟』
「お前の戦い方に感じていた違和感の正体にだ」
ようやく分かった。トゥルースがしているのは戦いではなく、狩りなのだと。あくまで自分の有利な状況で戦うことに執着している。狩人が獣を狩るように、罠を張って安全な場所に潜み隙を窺っている。
――いつまでも、こんなことに付き合ってはいられない。手負いの獣を舐めるとどうなるか、教えてやる。
ゾルタンは腰に下げていたグレネードを
「お前の用意した狩場には、もう飽き飽きだ!」
爆発が起こる。爆炎から逃れるように出てきたドローンを確認すると、続けて
「これでドローンは全てか。隠れてないで出てこい、トゥルース。決着をつけるぞ」
隠れられるような場所を
響く銃声。だがそれはゾルタンのものではない。背後の死角に隠れ潜んでいたトゥルースのものだ。ゾルタンが瞬時の判断で身を屈めたことと、銃口を向けられたトゥルースが咄嗟に身構えたことで射線がずれ、銃弾は明後日の方向へと飛んでいった。
だが今の一発で終わりではない。トゥルースが今持っている専用拳銃は改良型で二発撃てる。あの専用拳銃をトゥルースが持ち出した以上、離れれば不利なのはゾルタンの方だ。至近距離でも頭部に当たれば脳へのダメージは避けられない。そして離れれば専用拳銃の貫通力は十全に発揮され、どの部位だろうと撃ち抜かれる。どのみち今の脚では満足に逃げることもできない。
――それならいっそ、近づいてしまえば……!
ゾルタンは
その隙をついて、ゾルタンは向けられた銃口を左手で打ち払った。
射線を
離れられない。離れようとすればその隙に専用拳銃で撃たれる。至近距離で組み付いて相手の銃口を払い除け、その隙に頭部を撃つしかない。銃口を逸らすのを一度でも失敗すればそれで終わり。そして弾は互いに一発。撃つのは必殺が約束された時だけ。もし撃って外したなら、その途端に勝機は失われる。
拳と拳、専用拳銃と専用拳銃がぶつかり合い、射線を確保しようとせめぎ合う。まるで踊るように組み付き金属音を響かせる。
攻防の末、隙が生じたのはゾルタンの方だった。撃ち払う手が
銃声が轟き、金属同士が激突する鈍い音が響く。
だがそれで吹き飛んだのはゾルタンでも、ましてやトゥルースでもなかった。
くの字に折れ曲がった専用拳銃が、トゥルースの手を離れ宙を舞っていた。
撃たれそうになった瞬間、ゾルタンはトゥルースにではなくトゥルースの持つ専用拳銃に向けて発砲したのだ。トゥルースも自分へ銃口を向けられることは警戒していても、銃そのものを撃たれるとは想像していなかったに違いない。
密着状態での発砲。専用拳銃はゾルダートの装甲とそう変わらない強度を持つが、それでも13㎜の弾丸を受ければ無傷では済まない。
「クソが!」
全ては狙い通りだった。トゥルースの持つ武器の中でも、改良型の専用拳銃が何より厄介な代物だった。それを無力化すること、それが至近距離で銃撃戦を挑んだ理由だった。
トゥルースの悪態を尻目にゾルタンは自分の専用拳銃を確かめる。無茶な発砲で撃った弾丸が潰れて銃口に
「どうしたトゥルース、もう武器はないのか」
「あァ? あるぜ、ここにな」
ファイティングポーズをとったかと思えば、顔面と
「よォ兄弟。格闘技って習ったことあるのか? 元から軍人のオレと、ただのガキだったおめェじゃあ、勝ち目はねェぞ!」
再び左ジャブ、ではなく右ストレートが飛んできた。フェイントを見切れず、トゥルースの右拳がゾルタンの左頬を打つ。
「――お、ゥ?」
「――――!」
驚きの声を上げたのはトゥルースの方だった。ゾルタンはわずかに仰け反っただけで、その姿勢からお返しとばかりに右拳を振りかぶった。左腕でガードされはしたが、ゾルタンの拳を受けてトゥルースの顔から笑顔が消えていた。
「育ちは悪い方なんだ。……今のが本気だったのか?」
「舐めたこと言うじゃあねェか、兄弟。これからだよ」
機械の体になる以前から、そしてなってからも
トゥルースの動きは確かに早い。フェイントも巧みだ。だが来ると分かっていればどうということはない。それに――。
「
二人の旅は続く。
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