第35話 チェック!

 振り降ろされたプラズマの刃。それを同じくプラズマの刃で受け止めるゾルタン。再び青白い光の刃が激突する。プラズマを刃として形成する力場同士の接触は、ゾルタンの想像以上に強力な反発力を生み、否応なしに弾き飛ばされ体勢を崩す。頭の中に響く警告音に顔をしかめながらプラズマ剣を収納する。


「へェ、思ってた以上に吹き飛ばせンじゃあねェか。こりゃあいいぜ」


 まさかプラズマ剣で戦うことになるとは予想外だった。ゾルダート同士で戦ったことがない訳ではないが、大抵の場合プラズマ剣で剣戟できるほど肉薄する頃には決着がついていた。


「休んでンなよ、もっと楽しもうぜ!」


 今度はプラズマ剣の切っ先を向けて突撃してくるトゥルース。パルジファル型のプラズマ剣は細く長い剣身を形成する。リーチに差があり真正面からだと間合いが読みづらい。避けるのは困難と判断したゾルタンは、三度みたびプラズマ剣を展開しトゥルースの攻撃を受け止める。ほんのわずか剣身が触れた瞬間、やはり力場同士が反発しあい弾き飛ばされた。


 剣身を形成する力場同士の反発力、発生器への負荷は聞いていた以上のものだ。もし体勢を崩した時に追い打ちをかけられたら対応しきれないかもしれない。

 そこで気になるのはトゥルースが右手に持つ専用拳銃だ。左腕を喪失したために再装填に手間取るだろうと考えていたが、それが偽装で腕は健在だったとなると話は変わってくる。

 体勢を立て直しつつ、トゥルースの専用拳銃を注視する。


 果たして今本当にあの専用拳銃に弾は込められていないのか。


 口に銃弾をくわえていたのは、プラズマ剣でわざわざ斬りかかってきたのは、専用拳銃の再装填そうてんが間に合わなかったから。そう思わせておいて、こちらの意識が専用拳銃から完全にれる瞬間を虎視眈々こしたんたんと狙っているのではないか。


 それなら逆にこちらが専用拳銃で撃てば、とそこまで考えてゾルタンはその案を放棄する。もし専用拳銃で撃ったとして、それはプラズマ剣で防がれてしまう。剣身の持つ熱量は専用拳銃の13㎜だろうと容易く弾く。


 だがこのままプラズマ剣で戦い続けるのは、ゾルタンはどうしても避けたかった。それは先ほどから頭に響く警告音が理由だ。警告に従いプラズマ剣を収納すると、トゥルースが目ざとく指摘してきた。


「よォ兄弟、さっきからプラズマ剣出したりしまったりせわしねェなァ。どうしたよ、水素電池パワーセルのエネルギー残量が心許ねェか」

「……」


 まるで心を読んだかのように、痛いところを突いてくる。知らず知らずのうちに腹部の傷に触れていた。

 あの廃墟でトゥルースに撃たれたのは右腕と腹部。右腕はプラズマ発生器が使用不能になり、そして腹部は水素電池パワーセルの格納ボックスに損傷を受けていた。二つあった水素電池パワーセルのうち一つは使用不可能となり、もう一つも損傷からかエネルギー残量がみるみるうちに落ちている。元より残量の少なかったエネルギーはもうあとわずかだ。


 パルジファルとの十字砲火で仕留められなかったことを悔やむ。あの射撃で相当量のエネルギーを消費してしまっている。もう一度プラズマ砲を撃てるほどのエネルギーは残されてはいない。剣身の形成はそれよりも消費は少ないとはいえ、このままプラズマ剣で戦い続ければいずれエネルギー切れを起こす。


 ――うん? エネルギー切れ……?


 ふと、ある可能性が脳裏に浮かんだ。何故奴はを使わないのかと。それを使えば、この戦闘に決着などあっという間につくというのに。


「隠すなよ兄弟。もしかして偶然だと思ってんのか、おめェの腹ぶち抜いたこと。ありゃ水素電池の収納ボックス狙ったンだよ。あの人形ぶち抜いたせいで狙いが逸れちまったみたい――」

「そういうお前こそ、何故プラズマ砲を使わない」

「――――」


 挑発を無視して、トゥルースへ今気づいたことを指摘する。


 何故トゥルースはプラズマ砲を使わないのか。

 

 パルジファルのプラズマ発生器が砲として使えることは先の十字砲火で確認している。それなら同じ腕を移植しているトゥルースも同様に使えるはず。砲で放つプラズマの奔流ほんりゅうには力場はなく、撃たれれば剣同士のように力場が干渉し反発することもない。斬ることはできるかもしれないが、防いだり弾いたりすることができず、青白い閃光はそのまま全てを撃ち貫くだろう。


 トゥルースからすれば、このオービタルリングの損傷など知ったことではないはずだ。それなのにプラズマ砲を使おうとしないのは、使わないのではなく使えないのではないか。つまりは――。


「お前のエネルギーも、それほど残っていないんじゃないか」

「――ははァ、どうだかなァ? それがどうしたよ兄弟!」


 そう言って斬りかかってくるトゥルース。まるで意にも介していない様子だが、それははったりだろうとタカをくくり、ゾルタンも応じるように刃を振るった。プラズマ砲が使えないと分かれば、あとは専用拳銃にさえ気をつければいい。


 トゥルースの剣捌きは決して上手くはない。今まで扱ったことがないのか、それとも使う機会がまるでなかったのか。暗殺を主とした任務についていたというのなら、こんな派手な武器は装備していなかっただろう。ゾルタン自身も鍔迫つばぜり合いなどしたことはないが、これまで幾度いくどとなく振るい敵機を葬ってきた。


 ――性能に差があるとしても、経験なら俺にがある……!


 何度目かの激突。力場に弾かれるも踏み止まり、ゾルタンはプラズマ剣を上段から振り降ろした。すかさずトゥルースは横薙ぎに剣を振るいそれを迎え撃つ。今度は弾き飛ばされなかった。二人ともしっかりと地面を踏みしめ、今にも腕を弾き飛ばしそうな力場の反発力を抑え込んでいた。


 この瞬間を待っていた。


 互いに弾き飛ばされず、剣の力場を干渉させ合ったままの状態。これを待っていた。ゾルタンはプラズマ剣を形成する左腕に拳銃ごと右手を添え、そのまま押し切らんと力を込める。トゥルースはそれを阻むために同じように力を込めねばならず、力場の干渉は今まで以上に苛烈なものとなる。


『警告。プラズマ発生器に致命的な負荷。警告。プラズマ発生器に致命的な負荷。警告――』


 警告が頭の中に響く。それはトゥルースも同じだろう。だが今発生器を切ればどうなるかは明白。みるみるうちに発生器に負荷がかかっていき、プラズマの剣身が揺らめく。


「おめェ……!」


 トゥルースが驚きの声を上げる。事ここに至ってゾルタンの意図に気付いたようだが、もう遅い。


「吹き飛べ」


 二人のプラズマ発生器が過負荷で機能停止したのは同時だった。力場で形を留められていたプラズマが解放され、莫大な熱量を放ち霧散する。表面装甲を焼かれながらもゾルタンは一歩踏み出し、専用拳銃を突き付けた。狙うはトゥルースの頭部。距離はほぼゼロ距離。


 至近距離では専用拳銃の貫通力は激減する。ゾルダートの装甲は貫けず、せいぜいが装甲表面を凹ませる程度だ。

 だがその頭部に収まる人間の脳はどうか。いくら装甲が厚くとも、13㎜が与える衝撃は脳に確実にダメージを与える。死にはしなくとも、その意識を刈り取るくらいはできるはずだ。


「チェックだ」


 ゾルタンが引き金を引かんとした瞬間。

 二人の足元で突如として爆発が起こった。


 二人の旅は続く。

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