第24話 BtHの向こうに!
その後作戦会議は
「ねぇゾルタン、BtHの向こうにはわたし以外の人間がいるんだよね!」
「ああ、そのはずだ。あそこを通る以外宇宙へ行く
「わたし以外の人って見たことないから、どんな人達なのか楽しみ!」
「ああ。俺もだ。……明日は早い、もう寝るといい」
「うん、おやすみゾルタン」
「おやすみ、シーカ」
眠る前の挨拶を済ませると、シーカは目を閉じすぐに規則正しい寝息が聞こえ始めた。それを確認すると、ゾルタンはその場を後にする。
今ゾルタンたちがいるのは廃墟となった豪邸だ。この周辺の建物の中では比較的損傷も少なく屋根もある。野宿するには最適だった。外へ出ると、トゥルースがプールサイドでたき火をしていた。白い
――表面のナンバーは削られたうえ、識別データにはアクセス不可能、か。
専用装備には全て本体であるゾルダートのナンバーがマーキングとデータそれぞれで記録されている。トゥルースのイゾルデはその両方が確認できない状態にされていた。どうしてそんなことをしているのか、それを尋ねることをゾルタンはためらっていた。
「……あァ? どうしたよ兄弟、そんなとこで突っ立ってよォ」
「――いや、なんでもない。シーカが眠りについた。出発は九時間後だ」
「了解了解。――そんでよ兄弟、銃に手をかけて背後立つンじゃねェよ。びっくりして撃っちまうぜ」
そう言われて初めて、自分がライフルの
ふと視線をトゥルースへ向けると、右
まるでガンマンが銃をホルスターへ戻すように。
「専用拳銃の扱いに慣れているんだな」
「そりゃあなァ。
――そういえば正式名称はそんな名前だったか。
ゾルタンはたき火の前に腰を下ろし、タバコをくわえた。もちろん火は付けずに。そんなゾルタンの様子を、トゥルースはおかしなものを見る目つきで観察していた。
「そりゃタバコか? オレらの体じゃ吸えもしねェってのに、なんでそんなもんくわえてンだ?」
「これは……単なるクセのようなものだ。こうしていると落ち着く」
「へェ、そうかい。オレは嫌いなヤツを思い出しちまって落ち着かねェよ。それにしても、おめェはつくづくおかしな奴だなァ、兄弟。そりゃ元からか? それとも戦争でおかしくなっちまったのか?」
「……そうかもしれない。俺は、あの戦争で壊れたままなんだ」
かっこうつけかよ、そう笑いながら豪邸のフローリングから引き剥がした木材をたき火へと放り込むトゥルース。この星明りさえ見えない暗い夜にはこのたき火だけが唯一の光源――。
――いや、これ以外にもあったな。
遠くに見えるBtH、その各部に明かりが見える。この暗闇の中だとまるで夜空の星のようだ。本格稼働はしていないからだろうが、確かに電源が存在し機能しているのは明白だ。
明日、あの天を貫く塔を攻略する。
「しっかし、パルジファルねェ……。聖杯を守る聖槍使いがBtHの守護神とはなァ。それじゃあいつの持ってる核弾頭発射装置が聖槍ってかァ? 冗談きついぜ」
「聖杯? 聖槍? なんだ、それは」
「あァ? 知らねェのかよ。オペラだよオペラ。オレらの名前は全部オペラからつけられてンだよ」
この長い旅路も、もうすぐ終わる。
「……そんな話を、昔ある人と話したな」
「へェ、そいつはどうしたんだよ、なんて聞く必要もねェな。生きてるわけがねェよなァ。こんな世界じゃなァ。……なァ兄弟、戦争が終わってからどうしてた? ずっとあの落ち着きのねェのと一緒だったのか?」
「いや。俺は戦争の最中にボディに深刻なダメージを負って、ポッドの中でスリープモードに入っていた。ポッドがエラーを起こして目覚めたときにはもう、戦争も世界も人類も、全てが終わっていた」
眠っていた軍事施設から出て最初に見えたのは、どこまでも灰色の汚染された空だった。自分以外何も動くものはおらず、乾いた風が吹いていた。直観的に分かった。
ああ、世界はもう終わってしまったのだと。
「それから街を目指した。待っているはずの人がいる街へ。途中で何度も暴走ロボットに遭遇した。ああ、
絶望に暮れ、
もはや生きる希望もないと思った。
だがそうではなかった。
「その時だ。シーカを見つけたのは。そこは地下の施設で、奇跡的に電源も生きていた。ポッドで眠り続けるシーカを見て、俺は救われた。希望は潰えていない、そう思えた」
シーカの顔を見た時、思わずヒザから崩れ落ちてしまった。生きていた、生きていてくれた。目覚めたシーカの精神状態、年不相応の幼児のような様子にショックを受けたりもしたが、今となっては
「おい兄弟、待ってるって人はどうなったンだよ。見つかってねェんだろ、それはどうでもいいのかよ」
「……。いずれ会える。だからBtHへ行くんだ。あそこへ行けば、会えるという確信も持てた。だから、だけど……」
それでいいのか。自分が果たそうとしていることは、本当に正しいのか。シーカの笑顔を見るたびにそう感じ、それは日を増すごとに大きくなった。シーカとの日々が、思い出が増えていくたびに、自分が果たそうとすることが恐ろしく
「だけどなんだよ兄弟、もったいつけンなよ」
「――俺ばかり話すのは不公平だ。聞かせてくれ。戦争が終わってから、お前はどうしていたんだ」
「あァ? オレか? オレは……――」
トゥルースは珍しく言葉に詰まった様子で、首に下げたアクセサリーを指でいじりながら虚空へ視線をさまよわせる。
「オレは、戦争の間からずっと世界をさまよい続けてた。もう何にもねぇ世界をたった独りで旅してた。気が遠くなるような年月を、ずっとな。戦争がいつ終わったのかも知らねェよ。つうか、本当に戦争は終わったのかね。オレには、オレにはまだ続いてるンじゃねェかって、そう思えてならねェよ。そうさ、きっとまだ、終わっちゃいねェんだ」
そうつぶやくトゥルースの目に、ぎらついた感情が見え隠れしている気がして、その顔を思わず
その沈黙を破ったのはトゥルースだった。
「なぁ兄弟、夢って見るか?」
「なんだ、
「いいからよォ、教えてくれよ兄弟」
「……ああ。ときどきだが、過去のことを夢に見る。そしてその夢に
今度夢を見たとき、果たして起きられるだろうか。その時、シーカがそばにいなければ、きっと起きることなく夢に沈み込んでいってしまう。そんな気がしてならなかった。
「お前は、見ないのか、夢を」
「あァ。オレは、いつのまにか夢を見なくなっちまったなァ。過去のことももうろくに覚えちゃいねぇ。今はむしろ、幻覚を見るようになっちまったかな。……おいおい、そんな目で見るなよ兄弟。たまにな、廃墟が元の街並みに見える時があンだよ。それで道路を走る車や、
かすれた笑いがトゥルースの口からもれる。それは装置の問題なのかもしれないが、ゾルタンにはひどく疲れた笑いのように聞こえた。
「ろくなメンテも受けずに劣悪な環境にいンだ、頭だっておかしくなっちまうわなァ。お互い、そう先は長くねェのかもしれないぜェ?」
「そうかもしれない。だがもう少しだけ、時間があればそれでいい」
「――あァ、そうかい」
それから長い、長い話をした。シーカとの旅のことを、ゾルタンはトゥルースに全て話した。トゥルースはときおり
そうして朝が来た。
決戦の朝だ。
二人の旅は続く。
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