第23話 さくせんかいぎ!

「ゾルタンおかえ……ゾルタンが二人いる! なんで!?」


 パルジファルからなんとか逃げ切ったゾルタン達は、四輪バイクブリュンヒルデのシグナルを辿りシーカの元へと辿り着いた。そして、ゾルタンとトゥルースを見たシーカの第一声がこれだった。


 今までの旅でゾルダートに一度も会わなかったわけではないが、同じTA型とは今回が初めてだ。同じ頭部形状をしたゾルダートが二体、シーカにとってはゾルタンが二人いるという認識になるのだろう。


 対するトゥルースは、口を半開きにしたままシーカを見ていた。しばらく茫然ぼうぜんとした様子だったが、目の前までシーカが走り寄ってくるのを見て、その姿を指差しながらゾルタンに問いかけた。


「あァ、なんだこりゃあ。これがおめェの連れかよ」

「ああ。シーカだ。二人でここまで旅をしてきた」

「へェ、そりゃあまた、酔狂なこって……」


 呆れたという風なトゥルースに、返事はせず無言で通す。今ここで話すようなことでもない。

 シーカはゾルタンとトゥルースの前に立つと、二人を何度も見比べ、やがてゾルタンへと飛びついた。


「こっちが本物のゾルタン!」

「ああ、俺がゾルタンだ」

「そっちは偽物のゾルタン?」

「偽って呼ぶんじゃねェ。オレのことはトゥルースって呼べ」


 少しいらだった様子のトゥルースが怖かったのか、シーカはゾルタンにしがみついたまま、トゥルースから距離をとる。


「トルース、こわい……」

「トゥルースだ、シーカ。口は悪いが、俺の同胞どうほうだ」

「どうほう? トリスタンと同じ?」

「ああ。だから怖がらなくていい」


 そうシーカをなだめて背中をさすってやりながら、もう片方の手でトゥルースに落ち着くよう手振りで伝える。パルジファルと相対した時もそうだが、トゥルースは些細ささいなことでいらだちやすい性格なのかもしれない。


「作戦会議を始めよう。BtHへの道を阻む障害を取り除くために」

「さくせんかいぎ? しょうがい? また暴走ロボットアンチェインが出たの?」


 トゥルースの紹介のときにゾルダートは同胞だと伝えた手前、また別種のゾルダートを破壊することはシーカに言いにくい。それを知ったとき、シーカがどう感じ何と言うのか。できればそれは避けたかった。シーカには同胞同士が戦う姿を見せたくはない。


「ああ。さっき大きな爆発音がしただろう。その爆発を起こした原因をどうやって倒すかを相談する。……なんともなかったか、シーカ」

「すごい爆発が起きてたね! ぴかって光ってた! 少しまぶしくてくらくらしたけど、大丈夫だよ!」


 核爆発とはいえかなり小型のものだったし、距離も離れていたからだろう。シーカに影響がないことを知って安堵する。


「トゥルース、お前がパルジファルと遭遇したときの状況を教えてくれ。そもそもなんでお前はBtHのそばにいた?」


 出会った時からの疑問だった。何故トゥルースがあの場にいたのか。


「オレがあいつに遭ったのは、あと少しでBtHに入れるってところでだ。周辺にある残骸や放射線量からイヤァな予感はしてたンだがよォ。そンでセンサーに探知されにくくなる布被って物陰に隠れて近づいていったら、唐突に声が聞こえたわけよ。これ以上は近づくな、ってなァ」

「そうか。俺の時は警告すらなく、唐突にミサイルを撃たれたが――」


 いや待て。道の途中で見つけたドローン。あれはもしやパルジファルのものだったのではないか。接近しつつあることをすでに察知されていて、トゥルースの仲間と思われて警告を省かれた可能性がある。


「そいつは災難だったなァ。まァそのあとは命からがら逃げだして、そこで兄弟とばったり出くわしたってとこだよ。それでオレがあそこにいた理由については、んなもん決まってらァ」


 トゥルースは遠くに見えるBtHを指差し、その指をゆっくり上へ、灰色の雲のさらに上を指差した。


「あの先に、人類の生き残りがいるからだよ。オレはそいつらに会いに行く」

「……」


 やはりか。その答えは、ゾルタンが予想していた通りのものだった。

 BtHを含む国際軌道エレベーターは、全てある施設に繋がっている。


 オービタルリング。地球の静止軌道上に建造された超巨大建造物だ。


 赤道上の約三万五千キロ上空に存在し、地球をぐるりと一周している円型のその建造物は、それ自体が増大した人類の新たな居住空間にして、宇宙開発の為の研究施設、そしていずれは宇宙の港となるはずの施設だった。


「生き残り? わたしのほかに、生き残りがいるの!? ゾルタン、そんな話しなかったじゃん!」

「話さなかったのは、確証かくしょうがなかったからだ。人類全てが死に絶えたわけではないはずだという予想はあった。そして生き残っていたとしたら、この過酷かこくな環境の地球にしがみついて生きていく必要はないとも」

「それじゃ、その人たちはBtHの先にあるおーびたるりんぐってところにいるの?」

「ああ。オービタルリングで核の冬が過ぎ去るまで待てばいい。そのために――」

「まず間違いなく、BtHを通ったはずだなァ」


 あのパルジファルの外見や性能を思い返せば、その仮説も真実味をびてくる。ゾルタンたち量産型とは比べ物にならないほどの高品質・高性能な、本来の仕様で完成された完全なるマシーネンゾルダート。あれを作り出したのは生き残った人類なのではないか。そしてその性能を100%維持できているのは、常に整備を受けているからではないか。


 BtHの向こうには、生き残った人類の英知が結集しているはずだ。


「それじゃオレも聞くがよ、おめェはなんでBtHに向かってンだ? おめェの腰にしがみついてんのと何か関係あンのか?」

「……。何故そう思う」

「はァ? そりゃおめェ、後生大事に守ってンの見たら誰だって感付くぜ。で、どうなんだよ」

「それは……」


 トゥルースの問いかけに口ごもり、自分にしがみついたままのシーカを見るゾルタン。シーカは生き残りがいるという話を聞いてからずっとBtHを見ている。


「この子を、人がいる場所へと送り届けるためだ。今の地球では、シーカは生きられない」

「はァ、なんだそりゃあ。だってそれは――」

「その話は今はいい。パルジファルの対抗策について話すべきだ」

「……あいよォ。そんで、どうすんだよ兄弟。あのクソ厄介な奴をどうにかしねェとBtHにゃ入れねェぞ。何か案でもあンのかよ」


 トゥルースがそれ以上何かを言う前に、ゾルタンは話を切り替えた。ウソは言っていない。だが全てではない。トゥルースもゾルタンの態度から察したのか、それ以上は聞いてこなかった。


「トゥルース、お前の武装はどんな状態だ。見たところ手持ちの武装はないようだが。さっき専用拳銃を取り出していたな、あれ以外には持ってないのか」

「あァ? ねェよ他には。ミサイルも銃弾も残弾ゼロ、腕のプラズマ発生器もぶっ壊れちまったンで別の腕に付け替えてそもそも使えねェ。まァ、オレにはこいつで十分なのさ」


 そう言って右太腿みぎふとももを開いたかと思えば、いつの間にかトゥルースの右手には専用拳銃が握られていた。取り出しから構えるまで、流れるような鮮やかな手並みだった。ボロ布を首に巻き付けまとう姿とあいまって、まるでガンマンのようだ。


「あとは……まァ一応だがイゾルデがある。資源ポッドがすっからかんだから、部品の3Dプリントはできねェがよ。ホバー機能は生きてっから、乗り物くらいにはなンぜ。ちょうどこの近くに隠してある」

「イゾルデを? TRトリスタン型の専用装備を何故お前が」

「拾った。ンなこと言ったら、おめェだってSIジークフリート型の専用バイク乗り回してんじゃねェか」


 少し気になる点ではあった。イゾルデについてもだが、トゥルースの付け替えたという右腕。増加装甲が邪魔で判別は難しいが、それはTR型のもののように見える。


 ――イゾルデに、TR型の腕、それにあの専用拳銃。まさかな……。


 旅の途中で出会った、自分と同じTA型に半壊させられた同胞の姿を思い出す。そんな訳はない、自分に言い聞かせるようにその考えを振り払う。なんにせよ、パルジファルをなんとかするためにはトゥルースの力が必要だ。

 そうして作戦会議は夜遅くまで続いた。


 二人の旅は続く。

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