(切ないのが苦手なひとのための後書き)

「お母さん。いつまで娘にその教育を施すんですか?」


「今週末が終わるまで。私もおばあちゃんから同じ教育をうけましたから。これは本当に効きますよ。間違いなく娘のためになります」


「いやあの、このままだと娘が無理な突撃を繰り返しそうな気が」


「それはそれでいいのよ。血筋だから」


「すごい血筋ですね。3代揃って」


「教育の賜物よ。『自分がいつしぬのか分かってしまう教育』の」


「実際は『自分が人生で一番痛かった瞬間を事前に分かってしまう』んですよね」


「うん。あの子は猫を助けて自転車に轢かれるのが一番いたいのね。全治二週間」


「それを、おばあちゃんも巻き込んで『自分の死期』だと誤解させると」


「おばあちゃんほんと凄いわよ。ちなみにおばあちゃんも私も『人生で一番痛かった瞬間』は同じ瞬間です」


「えっ。おせんべい、そんなにいたいんですか?」


「違うわよ。結婚のプロポーズ」


「えっ」


「結婚のプロポーズよ。人生で一番痛かった瞬間」


「えっうそ。娘を出産するときとか、もっとこう、なんかなかったんですか」


「いや間違いなく結婚のプロポーズよ。間違いないし、予測通り」


「わが娘ながら、告白が心配になってきました」


「大丈夫よ。自転車に轢かれるほうが痛いらしいから。いけるって」

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終末の週末 春嵐 @aiot3110

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