終末の週末

春嵐

第1話

今週末、しぬ。


自転車に轢かれそうになった猫を助けて、そのまま自転車の前輪がクリティカルヒットして、私はしぬ。


そういうことになっている。


なんというか、そういう家系だった。ろくなしにかたをしない。だいたい、動物を守ったりうっかりミスしたりでしぬ。


そして、私の家系は、いつしぬのか事前に自分で分かる仕様になっている。


ちなみに、私のおばあちゃんは、おせんべいがのどにつまってしんだ。


「わし、これからこのおせんべいでしぬけど、おせんべいおいしいんだなぁこれが」


それが最期の言葉だった。家族で爆笑した。


しぬのが事前にわかってると、その瞬間が来ても泣いたりはしない。なんというか、他の人よりも、しが身近にある。だから、こわがったりもしない。


時期が来ると、だいたいみんなしぬわけだし。


同じクラスに、好きな人がいた。


残念なことに、告白もできず、おともだちになることもできず、週末私は自転車に轢かれることになる。


「残念だなぁ」


本当に残念だ。


「なにが?」


お父さんとお母さんが、同時に訊いてくる。


「おとこもしらずに、しんでいくのが。儚い人生だった」


お父さんとお母さん。顔を見合わせる。そして、爆笑しだす。


「なんで。今の笑うところじゃないでしょ」


「いや、ごめん。ごめんごめん」


お母さん。お茶を飲んで、また笑った。吹き出たお茶が噴霧される。


「ほらお母さんしにかけてるから」


お父さんがお母さんの背中をさすりながら布巾でテーブルを拭う。


「大丈夫私まだあと60年生きるから。おばあちゃんみたくお菓子のどにつまらせて、幸せな味を噛み締めながらしぬの」


お母さんもお父さんも長生きする。三桁いくレベル。


「お母さんがアドバイスしてあげようか」


「お茶吹いたくせに何言ってるの」


「乙女の恋路はしぬぐらいじゃ止められないのよ。今週しぬからって何よ。気にすることないわ。今から告白してきなさい」


「うわお母さんこわっ」


今から告白して振られたら私絶望したまま自転車に轢かれるんですけど。


「さすがお母さん。無理な突撃が大好きなタイプだね」


お父さんそれほめてんのかわかんないよ。


「でもお父さんも同じ気持ちだよ」


「えっ」


「行ってきなさい。しぬとしても。しぬまでの人生を悔いなく生きた方がいい」


「いやだから振られたら悔いありまくる人生になると思うけど」


「こう考えればいい。振られたとしても、週末になればリセットできるって」


「あっ」


そうか。


しぬから突撃してもいいってことになるのか。


「そう。そういうことよ」


お母さん。お茶を飲んで、また吹き出した。


「わたし、行ってくる」


「いってらっしゃい。がんばれ」


お父さん。お母さんの背中をさすりながら、ガッツポーズ。


勢いよく、外に出た。


とりあえず学校行ってみるか。


私の好きなひと。


部活。何部だっけ。


校門。


「あっ」


いた。運命的か。運命的な出会いなのか。


「すっ」


待て待て待て。周り。周りに人いないか。


いないな。いない。よし。


「好きです」


相手。よくわかんない表情。


「えっと」


「好きです」


二回言ってしまった。これは、コンプライアンス的に大丈夫なんだろうか。


「あの、すいません、あなたのことを嫌いではないんですけど」


あっ、これだめなやつだ。アニメでみたことある。


「こういうのはじめてなので、その、できればおともだちから距離を少しずつ縮めていけないかなと」


もっとだめなやつきた。


一週間ないよ。


あと数日で私しぬよ。


だめだよぉ。


じかんないよぉ。


「よっ、よろしくおねがいします」


しかたない。なみだがでてきたけど、気合いで拭った。大丈夫。わたしは大丈夫。


私も無理な突撃が大好きなタイプだ。母親譲りかもしれない。


あと数日でしぬとしても。


おともだちからのスタートだとしても。


好きなひとと一緒にいたい。


しぬそのときまで、好きなひとのことを考えて、生きていたい。


最期の一週間。がんばって生きよう。

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