第6話 エピローグ
(すげー、きれいな人だな…。)
リョウタはすぐ横にいる勝ち気な彼女に悟られないよう注意深く菓子コーナーでチョコレートを選んでいるモデルのようにスタイルのいい女を盗み見た。
週末のスーパーはとてもにぎわっていてリョウタは何度きてもなかなか慣れず落ち着かない。それでも同棲を始めたばかりのリカのご機嫌を損ねるのは恐ろしく買い出しの同行を快く引き受けた。それにお互い看護師として不規則な勤務ですれ違いも多いことから一緒に過ごせる時間はとても貴重であるのは確かだ。
(いるんだなー。あんな良い女が。)
男のちっちゃな嫉妬心から、どんな男があんな良い女を連れているのかと気になり、リョウタはさりげなく、そのひときわ背の高い二人連れに近づく。幸いなことにリカは「カップラ見てくる~。」とカゴをぶら下げて離れていった。
リョウタは菓子を選ぶフリをして男に視線を向ける。
(まぁ。いい男っちゃいい男だな。)
優しい誠実そうな目で女に笑いかけている姿勢の良い長身の男を観察する。
(誰かに似てんな。)
ふと思ったが深くは考えなかった。リョウタは人の顔を覚えるのが苦手で仕事でもなかなか日々変わる患者の顔を認識することが出来ず苦労するときがある。
「えー。そんなに買うの?そんなに食べる?」
女が甘い声で隣の男を見上げている。
「んー。しょっちゅう甘いもの食べたいって言うからねー。疲れると甘いものを食べたくなるよね。」
それに。
「チョコレート食べて、よし!頑張ろう!って思えるかもしれないしね。」
と、女に話しかける。
「そうねー。確かにねー。」
女の方が折れ大袋のチョコレートをカゴに入れる。
「タカシくんはリョウくんに甘いから~。」
菓子を選ぶフリをしているリョウタはドキッとして反射的に隣の女を見た。普段リカからはリョウタと呼ばれているが、機嫌の良いときや何かお願いごとがある時、稀にリョウくんと呼ばれる。
(びっくりしたー。)
女はリョウタの視線には気づかず隣の男を見上げニコニコと楽しそうにしている。
すると男がふふっと優しい目で笑い、
「忘れ形見だから。」
と、さっきソノコが選んだものとは別の緑色の袋で個包装された「こなこなしてうまい。懐かしい味がする。」とよくリョウが食べているチョコレートの袋を大切そうにカゴに入れた。
女もふふっと優しく笑っている。
リョウタは「お待たせ~。」と戻ってきたリカからカゴを受け取り「わすれがたみってなんだろ。」と考えながらチョコレートコーナーから離れていく。
クジラは許してくれるだろうか。 今草 近々 @imakusa
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