第7話 隠れヒーローになる為に
「視界良好、そう防弾ガラス的な超強度の「トウメイウォール」」
魔法で構築された不可視の分厚い壁が、振り下ろされた巨大な爪を辛うじて防いだ。
続け様に放たれた灼熱の息吹も、これまた難なく塞ぐ。
苛立った様に再び腕を振るい爪を立てられたものの、逆に痛みが走るのか巨大な竜は腕を引いた。
と思いきや、しならせた竜尾を……まるで横倒しのマンションがそのまま飛んで来るみたいな具合に叩き付けて来る。
そのタマヒュンな光景たるや……背中に流れる冷や汗を感じさせた。しかしそれすらも、僕が魔法で打ち立てた壁は問題無く耐え抜く。
「ふ、ふふふ……ようやっと安定してきたわ……。もうお前さんなぞ怖くないぞ、こんのクソトカゲェ……」
いや魔法とかまどろっこしい事しなくとも「願いの力」で「防げ、死ね」で済ませる事は多分可能だけど。
亜空間でそれするのはまだしも実世界で、その能力を目に見える形では使うつもりは無いのだ。ポイント消費したく無いし。
なので今は戦闘を魔法で完遂する為に、鋭意努力中。
実世界で動くのは端末という人の形をした器であって、僕本体は亜空間でグテッとしてるだけだから……最悪油断して端末が死んでもどうという事は無い。
異質な力でなく、なるべく実世界に準拠した力のみで過ごす。
願いの力で何でも解決しようとすると何か上位の存在––––神とか賢者とかそんな感じ?––––に目を付けられて「なんだこの異物はー」となってしまうかも知れないという僕の懸念。
杞憂かなとは思う。試す自信は無い。
実世界における魔法は大気中に漂う魔素や生物に内包された魔力を利用しているけど、願いの力による影響というのはどうも……まるで違うエネルギーを消費してるらしいと判明している。
亜空間はそもそも「ここに呼んだ神か何か」以外に知覚不可能であります様に……。
等と願って切り離したつもりになってるので、割り切って遠慮無くシミュレーターだの日本の衣食住だのを実現した。でも実世界で無遠慮に過ごすつもりは無い。
「そろそろ行けるんじゃないかな……カッコ良くありとあらゆる攻撃を防ぐ透明な障壁を実現して颯爽とピンチな誰かを守り助ける謎の少年ヒーロー計画が……」
メッチャ早口で言ってみた。
実世界には魔界と呼ばれる、魔素が充実し強力な魔物が跳梁跋扈する地獄の様な大陸がある。
そこに湧く三つ首の犬やらデカい黒蛇やら馬に乗った骸骨の群れやら倒して、延々と活力を稼いでいるのは……願いポイント稼ぎとは別に、そんな浅はかな計画を立てている為だったりする。
休日でも一日の終わりには魔力を使い果たして死んだように眠り、魔力の底上げを怠ってはいない。
出力はイメージによって変動するから、今までこの魔法が不安定だったのは単純に僕の想像力が微妙だったからだろう。
魔法に込める魔力を増やして辛うじて安定させるに至った。消費はそこそこデカいけど、まぁ仕方ないね。
「走れ水蛇肺まで埋めろ「オボレルウォーター」」
飛行して以前未熟な頃の僕を何度か焼殺した灼熱の息吹を再び用意している様なので、指向性を持たせた大量の水を竜の鼻と口に突っ込む。
爆発するかなと思ったけどちょっと早過ぎたのか、そんな事は無かった。
アワアワして咽せそうになるも、水が全然排出されない的な状態らしい。そりゃ僕だって生半可な力でやってる訳じゃないからね……。
早々に飛ぶ余裕も失せ、ビタァン!と地に叩き付けられてもがき苦しむ。
さよならドラゴン。
––––
長きに渡る戦闘経験において行使しまくったお陰で座標、規模、効果の固定値が頭に定着し、イメージを補強する詠唱を不要とした魔法の1つ。
竜を発生源とした荒ぶる巨大な氷柱が四方八方に伸び渡る……氷で出来た手抜きのウニみたいのが完成してしまった。
ちなみに昔は大体「ノビルアイス」というポップでオシャンティーな名前だった。たまに忘れて「ギンギンアイス」とか「アラブルアイス」とかになったりしてた。
詠唱破棄だと内容が固定されてしまい自由度が無くなるので、簡単過ぎて脳内イメージだけでどうとでもなるか大規模過ぎて自由度とか要らなくね?みたいな魔法でないと使わない。
そもそも何度も何度も座標・規模・効果が固定値に近い魔法を連続して撃たないと中々頭でイメージとして定着しないので、「全部詠唱破棄するぜ」みたいな気力は皆無だ。僕は天才じゃないから大変なのです。
内外を氷で圧迫された竜は、内部の熱を瞬時に奪われ抵抗する気力も失う。少ししてキラキラと輝く粒子へと形を変えて、この空間から消失した。
7、8階位のマンション程もある巨大な火竜。
あのクソトカゲは初対面でシミュレーターが問題無く動作するかをテストする為に、僕がヘッポコ丸の状態のまま、
「お初目にかかります。わたくし、しがない旅人志望の佐藤n」
まで口にした辺りでブレス攻撃かましてきやがって、結果的に火達磨にされた悲しい過去がある。
まぁシミュレーターは実体戦わせる訳じゃないし、痛覚も無ければ戦闘不能に至るダメージで強制終了するので……火傷ヤベェとかそういう事は無かったけどさぁ……。礼儀もヘッタクレも無いぜ。
以降クソトカゲと呼んでいる。フレイムドラゴンとかいうオシャレな名前は、ノーサンキューだ。
「あとはトウメイウォールさんも詠唱破棄出来るバージョンを用意するべきなんだろうな。小型ドーム版も出来る様にしないと……緊急救助はスピード感が大切さ」
シミュレーションルームから帰還した僕は、再びミルクティーを飲んで頭を悩ませた。
詠唱する魔法ならイメージ重視で名前も分かり易さ重視になるけど、詠唱破棄の類は撃ち慣れている事が前提なので僕的キザなネーミングで問題無い。出来るだけお洒落な名前にしている。
「……「
ふふ、ステキな名前じゃないか……そうと決まれば練習しかない!」
ビバ☆シミュレーター。大量にポイント使っただけあって、何でも試せるぜ。
僕は翌朝から「レク」としてドンコスの冒険者ギルドに入るまで、クソトカゲの攻撃を延々防いだ記憶によってフードちゃんの存在を忘失した。
入って早々椅子から立ち上がって、歩み寄るフードを深く被った怪しい人物が、
「……結構待ったわ」
とか言い出したので、(何だコイツ……)と少しビビった。
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色々と足りないモノがあるよなぁと思ったので、完結としました。今後活動するときは、もっと頑張りたいと思います。
ありがとうございました
異世界で自堕落に過ごす事を許して神様––––チート持ってるけどバレたくない所存–––– ユルく夜 @tstyz960
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