第6話 我が神、どうか怠惰な僕をお許しください
「おお、天にまします我がヒュリ神様。今日も授かりし力より
幼い少女を死の危険より、幾ばくか遠ざける事が出来たものと存じまするぅ。今後ともこの力を世の為人の為、行使して参りまするぅ……」
若干教会っぽさを意識して構築した空間で淡い光に照らし出された、美麗と言うよりどちらかと言うと可憐な石像に僕は報告を済ませた。
敬語はテキトーだ。なんかそれっぽい感じを心掛けている。
神様はきっと人間がコネコネして作った敬語なんてあんまり気にしてないだろうし大目に見てくれると思う。許してちょんまげ。
瞳を閉じて穏やかに微笑み掛ける少女の姿を
ヤベー奴と思われてもアレなので、何がどうあろうとこの部屋は他人に公開しない予定だ。ヤベー奴だけど。
多分ボブカットという奴の毛先外側カールバージョン。長過ぎるヘアスタイルの名前は、僕が髪型の種類を全く知らないからだ。知るワケがない。
少し胸元がはだけて谷間をチラ見せし、ふわりと足元で広がるワンピース。まぁ石だけど。
オリジナルの方だとホントは谷間どころか肩も露出させて胸の上半分の輪郭すらガッツリ見える。ぽやーっとした性格なのに服装がアレな感じの、ギャップアリアリなエロスティックガールだった。
流石に神聖さを醸し出すに当たってエロス具合をオリジナル同然にするのはマズい……と、血の涙を流しながら修正した。嘘だ。僕はホラー映画のキャラクターじゃない。
ヒューリという名前の彼女。該当ソシャゲのインフレが激しい事を理由にアンスコして暫く後で、ゲームのサービス終了。
そして終了した事を知ってから、彼女の事が大変気に入っていた事に気付く。
いや、終了する前も気に入ってたけど……声を聞く事も動きも見る機会も失ってしまった事に気付いて、愕然とした。
何を今更……と呆れた様子の彼女が頭に暫く浮かんでは消えた。僕もそう思う。
ネットで画像漁って保存しまくった。
マイナーだったからあんまり残ってなくてorzだった。何の話をしてるんだ僕は。
聖堂(仮)を後にして、リビングルームに戻る。ソファに座って僕の好物である安物のミルクティーを飲みながら、今日の事を活躍を自画自賛した。
(いや、もう滅茶苦茶人助けしたわ。間接的でなく直接的な人助けしたわ。超頑張った)
僕が一般的な冒険者的活動に利用している「レク」という端末では今まで、僕が処理可能な中では比較的弱めな魔物を間引いて危険を取り除き素材を納めてギルドの収益に貢献……という、「人助け」と言うにはそこそこ間接的な活躍しか報告出来ていなかった。何だか今日は達成感がある。
そもそも人付き合いがそんなに得意ではないので、所謂お手伝いクエストの様な対人系依頼は受注して来なかったし。
これは機会を与えてくれたリンスさんに感謝だろうか。悪くない。
(装備も買ってあげたし、不慮の事故で眠ってる間に強化メッチャさせたし、実戦経験積ませたし……うん、完璧だ)
魔物を倒した時に得られる力––––現在取り敢えず「活力」と呼んでいる––––というのは、少しのタイムラグを経て距離に応じて分配される。
フードちゃんを眠らせてから、これ幸いとドンコスをサクッと離れて向かったのは……この地方では比較的強力な魔物の出現するダンジョン。
ダンジョンの魔物をトレイン––––敵を纏めて引っ張って来る事だ––––してから風魔法で散り散りに切り裂いて、フードちゃんを床に置いて高速で去る。
その結果、彼女に多量の活力が流入。
ダンジョンはボスを倒して内部にいる来訪者全員が外に出るとリセットされる素敵仕様なので、来訪者が僕一人だった事をこれ幸いと3周。
探索推奨冒険者ランクちょい高めのダンジョンで、彼女の強化の為に!魔物を虐殺したのだ。
彼女の暴言により発生したストレス発散する目的なんて、たった4割くらいしか無い。
彼女は魔法使いだった。魔法使いというのは才能(初期魔力量)が結構優秀だった面倒臭がり屋と相場が決まっている。
何かしらの障害を体に抱えた者だったり周囲による必然性の強要等の例外もあるけど、大体性根が腐ってる。
僕も当然腐ってる。才能は無かったけど。
自分の身体を操作したり、必要な物を用意する事で実現可能な作業。
その面倒な手間を省いて何とかして魔法というステキな力で再現したい……!
是が非でも体なんて動かしたくない……!
という様な強烈な願望と熱意と、加えて想像力と実現に必要な魔力量を併せ持つ怠惰な人間の至る境地だ。
地球なら唯のダメ人間だけど、コチラの実世界では魔法使い足り得る。逆に活動的な人間は魔法使い足り得ない。
水を飲みたいと思ったら飲む為に仕方無く自分で体を動かそうと思う者が普通であって、
「1ミリも体を動かさないで魔法で水を発生させるんだ……!!!!」
という間違った方向への激しい熱意と根気を持つ怠惰な存在というのは僕を含めてそんなに居ないだろう。
怠惰なんだか熱血なんだか……という話だけど、体を動かす事を極端に嫌がり魔法で為す必要性というのをヒシヒシと感じる必要がある。
少なくとも「初めての魔法」使用時に心も体も健康的な魔法使いなんてのは、この世界には存在しない。後天的になら健康的になったりするけど。
怠惰でも魔法に対する熱意まで怠惰ではダメだったりするので、魔法を使えるというのはホントに珍しい事だ。
平民だと3〜5%程度じゃなかっただろうか。貴族王族だと結構事情が変わるけど。フードちゃんはかなりのレアケースだろう。
彼女は僕のイメージし易さ重視の激ダサネーミング魔法がお気に召さないみたいだったので、一般的な魔法名に希望する効果を添えて唱える様に伝えた。
余裕があり必要な魔力量があるなら、詠唱も長い方が良い。
一瞬のイメージよりも一言毎に発動待機状態の魔力に刻まれる魔法イメージの量が増えるので……心の中で慌ただしく効果を想像してから、
「ファイア!」
よりも、
「
って方が大分強い。
慣れたら前者でも後者レベルの火力を出せるけど。いずれにしろ必要な魔力がなければただ叫んでるだけのヤベー奴になってしまうので注意が必要だ。
そんな訳で僕は割り切ってネーミングはセンスを切り捨てた。元々無いとかそういう都合の悪い事は気にしないで行きたい。
という事でその辺りを実戦しながら説明して、元々は詠唱無しの脳内イメージオンリーで
あれ程の魔法の威力があれば、ドンコス周辺の魔物なんてどうという事はない。
「まだ足りないって言われてズルズル伸びる様なら……完了してから連休取ろう。そういや明日バカンス出来ないのか……マジかあああ"あ"あ"あ"休みあ"あ"あ"あ"」
数年前、僕こと「
出現する魔物が世界最弱級の「トサハ」にある小さな森に放り出されて……丸っこくてポヨンポヨン動く体当たりしか出来ないスライムとの死闘の末に、
「ミルクティー飲みてぇ……」
と呟いて、ドバドバとほのかに香り立つソレを顔にぶっ掛けられた僕の心境というのは……それはもう大分アレだった。
情報規制的なのもあって「何でも」出来る訳では無かったけど……例えばこの力––––「願いの力」と呼んでいる––––をくれた相手や目的を知る事は出来なかったし。
親切なんだか親切じゃないのか分かんないなコレ、と思ったけど口にはしない。
でもこの世界の知識は大体「願いの力」によって把握した。
魔物を倒す事で得られる活力という力の存在も、魔法とスキルの獲得で必要な苦行やコツも。
大分ズルしたけど、それでもゴブリンに散々ボコボコにされながら色々と習得するのは正直大変だった。
多分一番嫌いな魔物はゴブリンだろうな。ゴブリン死ね。
そもそも最初は出来る事もそんなに多くは無かったけど、何か魔物を倒すにつれてどんどんと願いの許容範囲が広くなっていく事を確認。
何だろうな……ポイント制の特典利用的な感じだろうか。
途中から「願いの力」の利用可能量や使用予定量を可視化出来る様にしたんだけど、魔物や盗賊等糞人類を処理するとポイントが溜まって「願いの力」を使おうとするとそのポイントが消費される……といった解釈で大体合ってるっぽい。
まぁポイントって表現は僕が勝手にしてるだけで、与えてくれた神様か何かからすれば「そんな俗っぽい表現しないでくれます!?」みたいな事思われてるかもしれないけど。言われた事は無い。
この積極的に魔物を倒して行こうぜ的なシステムからすると、勇者プレイでも望まれてるのだろうか……などと考えたけど、だとしたら適性無くてゴメンと思ったりする。いや一応頑張るけども。
僕はこの、降って湧いた様な能力による恩恵は……自分だけにあってはいけないと考えている。
恩恵はね。チートを経て獲得した魔法を使ってあげる事で
直接的な影響は自分以外に利さない様に、そもそも人目に付かない様にしている。バレたら酷使される未来しか見えない。
実世界でお城を一瞬で建てますとか大量輸送出来ますとかね。しない。是が非でもしない。
最初はまぁ、適度に魔物倒しては今僕が
最初こそ簡素な寝室とシャワーと風呂が別室あって倉庫もあって魔物をハイド&キルする為に多用しまくる空間だったけど、現在は無駄に広いベッドやらフカフカのソファやら聖堂(仮)やらシミュレーターやら揃えており……休日は完全にココで休む。
初期利用可能量無くて亜空間利用出来なかったら、多分速攻で死んでんだろうな僕。スライムにボコボコにされてたし。
でも好きな様に振る舞い己の快楽のみを追求する事を、僕をこの世界に誘った「名前も知らない神か何か」が望んでいるとは思わなかった。
そう、多分人助け的なのをして欲しいのではなかろうか、と考えた。勇者プレイと言えば即ち?的な?
会った事無いし思い込みであって全然好きな様に過ごして良いのかもしれないけど、僕はやめとく。
しかし名声を得たり、その結果として力を頼りにされたり争いに巻き込まれたりになるのは……僕の精神衛生が崩壊しそうになるので遠慮したい。
成り上がるとか、僕のガラスのハートには耐えられそうも無い。死んでしまう。無理。
特殊な力得たら王になったり領主としてステキに成り上がったりスーパー冒険者になったりするのは僕の心が保たない。
僕はそんな器量ない。不特定多数に絡まれるの無理。狭い世界で「◯◯は……地味だけど堅実な働きを……」みたいな感じが精々の希望だ。日陰者ですから。
だから取り敢えず今の所はこうして魔物を定期的に処理したり冒険者として地味ィな貢献と活躍をして、程々に世の為人の為を実現。
それによって「名前も知らない神か何か」様に対して、
「だから僕が思い思いに過ごす時間も、どうかお許し下さい」
そう願うのだ。
もう少し強くなったら不本意ながら秘密のヒーロー作戦も始動するんだけど。多分貢献度高いのでは?と勝手に思ってる。
一応、「ロック」という別の端末で強力な魔物を倒して願いポイント稼いだりもしてるけど、最近は「レク」の冒険者的活動を先に
呼び方が「名前も知らない神か何か」だと……こちらの祈りモチベーションがアレなので、取り敢えず先に触れたヒューリの姿を形取った石像に「ヒュリ神様」と名付けて、報告し祈っている。
祈りの習慣は地球でヘルプデスク––––提供されたシステムやらその他関連の問合せ対応を行うクソ業務をしていた。「はい、……はい、申し訳ございません(くたばれこんのクソクレーマー用件以外の文句を7割も入れんなクソクソクソ必要情報さっさと寄越せ)」みたいな苦行を何故僕は仕事に選んでしまったのか……––––として働いてる時に毎回、
「神様、神様……今日もどうか僕に対応不可能な特殊な問合せが来ませんように。
何なら電話0件で終わりますように。
障害発生しませんように。
平穏無事で過ごせますように……お願い致します……」
という悲しい神頼みの下地があった為、自然とソレを行う方向で固まった。
ちなみに平穏無事に過ごせなかったら「今日の試練辛かったッス……」と微妙に愚痴ってた。
自分で言うのもアレだけど、僕は小心者なのに調子に乗りやすい小物である。
勝手に名付けて勝手にソシャゲのキャラの造形で偶像を作ってる時点で「名前も知らない神か何か」様に対する信仰もクソもあったもんじゃないのでは?という気もするけど。
結果的に善行を為すためのルーティンの存在が大切なのであって、色々と大目に見て欲しいなと思ってる。我ながら滅茶苦茶だ。
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