§ そにょ11 ☆鍋を囲めば話も弾むよ☆

「あけましておめでとうございますやで!」


「あけましておめでとう、ショウ!」


「アハッピーニューイヤー!」


「えっと、あけましておめでとうございます……?」


「な、なんかここに居るのが場違いな気もするけど……あけましておめでとうございます」



 炬燵こたつの上に置いた鍋を囲んで、お互いに新年の挨拶をし合う。

 去年は別作品からのゲストだったが、今回のゲストは続編組からだから気兼きがねは不要だろう。

 洋児くん与志丘さんの新入社員歓迎会も兼ねてだから、ある程度は節度を持たないといけないが。


 ……なんだか、こうして俺が俺自身の言葉で読者に語り掛けるのも久し振りだな。



「お金が無いなか、少し無理してご主人様が去年よりも大きい炬燵を購入されたのが上手くいきましたね」


「紅乙女それは内緒だろ、シーッ!」



 こちらの内情をバラしていく紅乙女に、立てた人差し指を口に当てて口止めした。

 横目で洋児くんと与志丘さんの様子をうかがう。

 残念ながら、しっかりと聞かれていたようだ。



「えっと……。なんかマロニーさんに気を使わせてすみません、笛藤さん」


「帰宅した後でも苦労されてるんですね、笛藤さん」



 新入社員(正確には現在バイト)の二人が揃ってフェットに気をつかって、そう述べる。

 いや実際フェットには凄い助けてもらってるんだけど、俺だって君たちの事を思って広い炬燵を調達したんだよ!?

 うう、父親の孤独ってこんな感じなんだろうか。



「二人とも有り難う。でも自分で決めた道やから平気よ、大丈夫」


「「笛藤さんカッケー!!」」



 落ち着け、ショウユラーメンオオモリ・カエダマ・ニクマシマシ。

 細君が主人を立てるように、主人も妻を、家族を立てるのは当然なんだ。

 人という字を手の平に書いて飲み込んで、気持ちをなだめろショウユラーメンオオモリ・カエダマ・ニクマシマシ。

 深呼吸もしとくか、ヒッヒッフーヒッヒッフー。


 そんな俺の様子を目ざとく見つけたブランがツッコんできた。



「あれ? 急にラマーズ法の呼吸始めて、どしたんやショウ。ついにフェットチーネさんと子供作る決意でもしたん?」


「「ショウ?」」



 与志丘さんと洋児くんが反応。

 うん、やっぱりそうなるよな〜。



「あ、こらブラン。まだ「請負人」の本篇では二人に本名教えてないんやから、俺の名前ばらしたらアカンやろ」


「「本名!?」」


「あ、そうやったんや。どっちか言うたら、男のショウが妊婦の呼吸しとるのにツッコミ入れて欲しかったけど」


「余計なお世話や。んで二人とも今の情報は、この新年会が終わったら忘れる事。ええな?」


「「あ、は、はい」」



 あくまでも番外編だからな。

 洋児くんは今のやり取りに一人でうなずきながら呟いていた。



「……そういえば“マロニー”は、仕事する時の偽名とか言ってましたね」


「私もマロニーさんの家に初めて来ましたけど、何から感想を言えばいいのか……。とりあえずそこの可愛らしいお手伝いさんはどなたなのかと」



 と、与志丘さんも疑問を呈する。

 ありゃ、彼女にもこの姿の紅乙女は見せてなかったか。



「彼女は紅乙女やな。与志丘さんにも人間の姿をしたのは見せてへんかったか」


「えええ!?」


「この姿では初めまして、与志丘様。ご主人様の忠実なる日本刀にして下僕、紅乙女です」



 いつもの幼女姿でちょこんと頭を下げる紅乙女。

 それを見た与志丘さんが、少し頬を上気じょうきさせながら手を伸ばす。

 恐る恐る「はわわ~」と言いながら、紅乙女の頭に手をやって撫で始めた。


 うむ、彼女も紅乙女トラップにまるか。

 毎年のように誰かが(主に女性が)引っかかってる気がするが。

 ただし番外編限定。


 もう毎度の事なので紅乙女も与志丘さんの傍に正座して、されるがままになっている。

 そんな与志丘さんを横目に洋児くんが、戸惑い気味に俺に聞いてきた。

 ブランをチラチラ見ながら。



「あのところでマロニーさん、こちらの綺麗なお嬢さんは、どなたなんでしょうか……?」


「ああ、彼女が時々名前だけは出ていたブランだ。「請負人」本篇では未登場やから、コレも終わったら一旦忘れときや」


「あ、第2話で笛藤さんが授業料がどうとか言ってた……」



 そのブランは、ちょうど鍋のふたを開けて中の具材が煮えてるかチェックしていた。

 そのせいか特に反応もなく鍋から立ち昇る香りをかいでいる。

 蓋を閉めながら「もう少しやな」と呟いて、こちらに向き直った。



「ウチは、ショウとフェットチーネさんにお世話になってるブランていうモンや。よろしくな」


「フェットチーネさんって……?」


「あれ? それもまだ本編で聞いてへんのかいな。表向きは笛藤ふえとう智恵ちえって名乗ってはるけど。ちゃんとみんなに教えときや、ショウ」


「へ、へー笛藤さんの……」



 ブランと洋児くんのそのやり取りに反応して、フェットが「呼んだ?」と反応する。

 話が混線する予感がしたので俺が「何でもないよ」と、彼女のコップに焼酎をつぐ。

 フェットは「ふーん」とだけ返事をして、ぐいっとそれを飲み干してくれた。


 彼女の察しの良さは日本に来てから更に磨きがかかっている。

 状況によっては、察した上で敢えて空気を読まずに色々と言ってくる事もあるから油断は禁物だけど。



「あ、なんか今ちょっと失礼なこと考えてるやろ、ショウ」



 フェットがニヤケ顔で俺に迫って来た。

 か……彼女の察しの良さは日本に来てから更に磨きが──。

 そんなフェットが俺の肩に頬を乗せながら、俺のコップに酒を注いでくれる。


 これは「お酌」って言うんだっけ。

 日本語はまだまだ勉強不足を痛感するな。


 少し奮発した上等な日本酒が彼女の手で注がれて、何とも言えない甘味を感じる香りが広がる。

 獺◯45、さすがに720mlのサイズを買うのが限界だった。

 いつかは◯祭の一升瓶を買えるように頑張ろう。


 洋児くんが、酒も飲んで無いのに顔を少し赤くして、俺たち二人を見ていた。

 いや、未成年の彼にアルコール飲ませるつもりは無いけど。



「なんか二人ともすごい親密な感じですけど、もしかしてプライベートでは付き合ったりしてるんですか?」


「付き合う? いや結婚しとるで二人は」



 おや、そういえばフェットとの関係もまだ彼には言ってなかったか。

 説明しようとしたらブランが先に解説を始めたので、仕方がないからフェットが注いでくれた酒を飲み干した。

 大変美味しゅうございました。



「はー……。まぁマロニーさんも付けてる眼帯が目に行きますけど、エルフだけあって顔は美形ですからね。美男美女のお似合いカップルとは思いますけど」


「ちなみにショウは──マロニーの女性の好みはデブ専やで」


「デブと言うな。ふくよかな体型と言え」


「えええ……」



 洋児くんが改めてフェットを眺める。

 彼女は俺のモンだ、やらねーぞ。

 アルコールが回ってきたのか、顔が少し赤くなったフェットがニコーっと笑って洋児くんにブイサイン。

 目の前の新入社員(正確にはバイトの高校生)は頭を抱えた。



「それがなんで笛藤さんみたいな超絶美人を奥さんにしてるんだよ……」


「ショウは見た目よりも性格派やから……」


「洋児くん。男はな、惚れた女が1番可愛いんだ」


「くそおおぉぉ! 凄い正論なのに全然納得できねえええええ!!」



 失礼だな。

 しかし去年も同じような事を言われた気がする。

 与志丘さんが洋児くんの肩に手を置いた。



「分かるわ洋児くん。私も最初聞いた時、同じような事を叫んだもの」



 与志丘さんが遠い目で語る。

 なんでそんな顔でそんな声音で言われなきゃならんのだ。



「そんなことでよりもショウ。もうそろそろ鍋いけるで」


「お、そうか。じゃあそろそろ乾杯して鍋つつこうか」



 ブランの鼻が鍋の完成を知らせたようだ。

 それに応じた俺の態度に、洋児くんと与志丘さんが「マロニーさん、タフだ」と小声で言い合っている。

 こんな程度で凹んでたら社会人できないんだぞ。



「それじゃみんなで乾杯しましょーかんぱーい」



 自分のグラスを持ち上げて、ニッコニコでフェットが話す。

 ちょっと呂律ろれつが怪しくなりつつあるなぁ。

 それを見て与志丘さんは心配顔だ。



「だ、大丈夫なんですか笛藤さんは?」


「心配あらへん。フェットチーネさんはこの場の誰よりも酒が強いから」



 ブランがそうフォローする。

 そうなんだよ、酒が回るのが早くなる事はあっても、全然潰れないんだよ彼女。

 最初の様子に騙されて、彼女に敗北していった人間は数知れず。


 とか考えてる間にブランが洋児くんと与志丘さんにジュースを注ぎ終わった。

 俺も改めてフェットと自分のグラスにスパークリングワインを注いだ。

 ブランはすでに自分で入れていた。



「では本年の『異世界救済請負人マロニー』の成功を祈って乾杯だ!」



 自分のグラスを高く掲げて、そう宣言。

 皆も自前のを持ち上げる。

 揃って「乾杯」と唱和した。



「じゃあ学生組は育ち盛りだから遠慮なく食ってくれ」



 俺がそう言うが早いか、ブランを含めた学生3人が凄い勢いで鍋に箸を入れ始めた。

 またたく間に減っていく具材に、思わず顔が引きる。



「めちゃくちゃ美味しいですマロニーさん! 料理の味付け上手ですね!!」


「あ、ああ。ありがとう与志丘さん……」



 若い子の食欲を甘く見ていた自分。

 回っていた酔いが覚めていくのが感じられた。

 明日からの食費、辛いなぁ、どうしよう……。



「仕事頑張りましょ、また明日から」



 フェットが俺の肩に手を置いて、耳元でそう呟いてくれた。

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ダーティーホワイトエルブズ 〜後日談&番外編〜 きさまる @kisamaru03

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