§ そにょ10 ☆ネタに困った時の彼等という気がしないでもない☆

「おはようございます、ショウさん……ショウユラーメンカエダマさんと呼んだほうが?」


「ショウでいいよ、呼びにくいんやろ?」


「あはは、助かります」



 初日の出を見に来たところでばったりショウタくんとアスティさんの二人と出くわした。

 ショウタくんは少し小綺麗なよそ行きの洋服。

 アスティさんは豪華な振袖を着込んでいる。


 似合っているとは思うが、動きが少し窮屈そうだな。

 アスティさんと、こちらも同じく振袖を着たフェットは、一緒に周囲の視線を集めている。


 ちなみにこちらはブランと紅乙女も一緒だ。

 紅乙女は幼女姿で子供用の振袖姿になりフェットに手を引かれている。

 ブランは車を運転するからと洋服を着込むことを頑として譲らなかった。



「あー、えっと……破壊増してお転倒だったか、ショウ殿?」


「赤いマストでおめでとうですよ、アスティさん」


「あけましておめでとうだよ! 二人ともめちゃくちゃだ!!」



 俺とアスティさんの会話にショウタくんが即ツッコミ。

 やはり日本語は日本人がエキスパートだな。



「あー、俺はUSAにいた時期の方が長いからなぁ。アハッピーニューイヤーのが馴染み深いんや」


「そういう問題かよ!」


「なかなか良いツッコミやな、ショウタくん。クラムが居なくても大丈夫だな」


「え? クラムさんならここに……。あれ、思ったよりも小さかったんですね、彼女」



 そう言って紅乙女の前でしゃがむショウタくん。



「おーい、その子はクラムやないぞ。紅乙女だ。キミまでボケに回ったら誰が収拾つけるんや」


「いや、なんでサツマイモの品種がここで出てくるんですか?」


「サツマイモとは失礼やな。彼女は俺が使う退魔の刀の化身やで」



 紅乙女はショウタくんに、ちょこんと頭を下げた。

 うむ、あざとい。

 ちゃんとどういう仕草が可愛いらしく映るか、把握しているポーズだ。



「あけましておめでとうございます。お初にお目にかかります、ショウタ様。ご主人様の忠実なる退魔の刀、紅乙女と申します。お見知りおきを」


「ねー、可愛いでしょ紅乙女ちゃん。男の子にもなれるんやからもう完璧!」



 フェットもかがんで紅乙女の顔に自分の頬をスリスリする。

 アスティさんもかがむと、恐る恐る紅乙女の空いた頬に手を当てる。

 感心したように呟いた。



「なかなか凄いな。見た目に騙されると、この霊格の高さを見逃しそうだ。でも可愛い」


「でしょでしょ!? あーんもうこの可愛いさの前やったら、霊格の高さなんていくらでも見逃しちゃう騙されちゃう!」


「……む、たしかにこの愛らしさを思えば、霊格の事は二のつぎ三の次で良いかもしれないな」



 うっとりとした顔で紅乙女の頭を撫ではじめたアスティさん。

 俺はため息をついて、かたわらに立つ彼氏に声をかけた。



「行こかショウタくん。アスティさんも紅乙女トラップにはまった。しばらくは動かへんよ」


「え? は、はい」



 フェット、紅乙女、アスティさんを残して俺は歩き始める。

 それを見てショウタくんも、慌てて後を追いかけて来てくれた。

 紅乙女は困惑顔だが毎度のことなので、されるがままだ。



「紅乙女ちゃん、いつも堪忍かんにんやで」



 ブランが小さく手を振る。

 紅乙女も苦労しながら片手を突き出し、ちまちまと手を振り返した。



「ところでクラムさんは?」


「彼氏とデート」


「了解」



 初日の出ポイントに到着すると、今ウワサしていたクラムと例の彼氏がやってきた。

 縦にも横にも大きい彼氏を初めて見たショウタくんが俺にささやく。



「あれがクラムさんの彼氏? ……何というか凄いマニアックですね」


「そうか? 同性ながら嫉妬しそうなぐらい良い見た目やと思うけどな」


「はぁ!?」



 俺の返答に驚くショウタくん。

 何でだよ。

 ブランがショウタくんに同情するようにうなずいた。



「ショウの世界のエルフはみんなデブ専らしいからな、気にしたらアカン」


「ショウさんの世界の価値観に付いて行けねえ……。なのになんでフェットチーネさんみたいな美人が嫁さんなんだよ」


「ショウは見た目よりも性格派やから……」


「うわーなんか凄い正論なんだけど納得いかねぇぇぇ!!」



 ちょっと失礼な事を言われた気がする。

 スゴイシツレイダー! とニンジャカラテを披露するべきだろうか?

 出来ないけどな。


 ただ、俺は黙ってショウタくんの肩を軽く叩いた。

 振り向いたショウタくんに、とある方向を指さす。

 そこにはフェットと二人で紅乙女と手を繋いでいたアスティさんの複雑そうな表情。



「そうか、ショウタはフェットチーネ女史のような髪型が好みか。明日あたりにでも髪を切りに行こうかな」


「わわわ、アスティそういう意味じゃないよ! 大丈夫、その髪型の方が似合ってるから!!」



 駄目だぞショウタくん。

 彼女が近くにいるのに他の女の話をするのは。



*****



「あれー!? ショウタくんとアスティさんもココに来とったんや?」


「あ、はい。アスティには神社とかお寺で手を合わせる習慣がよく分からないみたいだから……」


「なるほどねー」



 やって来たクラムカップルとショウタくんが、そう挨拶がてら会話する。

 その時、俺のスマホがアラーム音を出した。

 防寒コートのポケットから俺はスマホを取り出しアラームを止めると、皆に声をかける。



「そろそろ日が昇るし、みんな準備しよか。密を避けてお互い距離とってな」





 日が見えてきた。

 ショウタくん、クラム、俺たちの三グループに分かれて、それぞれ願いを口にする。

 まずはショウタくんたち。



「作者が出した賞に『追放プリン』が選考突破しますように」


「よく分からんが、これでショウタの願いが少しでも叶うなら」



 ……メタな願いだけど叶う事を祈ってるよ、ショウタくん。

 いや、あんまり人ごとじゃないけど。



「「コ◯ナで減った整骨院の患者さんが戻りますように」」



 うおお、クラムカップルのも現実的に切実だな。

 お互い生活を安定させたいもんだ。

 最後は俺とフェット、ブランと紅乙女だな。



「「「「安定して借金が返せますように」」」」


「ショウさん達の願いが一番切実だ」



 ショウタくんの言葉にちょっと涙が出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る