§ そにょ9 ☆クリスマスというよりただの忘年会だけど気にすんな☆

「はいそういう訳で、本日は特別ゲストに来ていただきましたー! 拍手!」



 パチパチパチ。


 クラムの奴がそう音頭を取ると、部屋の人間が手を叩いた。

 いまクラムが言ったように、今年は二人ばかり参加者が多い。



「せっかく来てもろたのに、こんな狭い店でゴメンなショウタくん、アスティさん」



 俺はテーブルの端に並んで座っている新参のメンバーに声をかけた。

 黒髪の若い日本人が慌てたように首を振った。

 たぶん彼、高校生くらいかな?



「いえいえそんな。実家の和菓子屋もこんな感じの間取りでしたし気にしませんよ」


「ふむ、ショウタの店の二階とはだいぶおもむきが違うが、落ち着く居心地の良い空間だと思う……ます」



 ショウタくんの隣に座っていた赤毛で長身の女性がそう答えて、口調に俺は苦笑い。

 テーブルの上のカセットコンロにミトンで掴んだ鍋を置くと、二人をリラックスさせるように言う。



「初めての場所に、初めて会う人間とエルフや。緊張は分かるけど普通に話たらええで」


「はぁ……。いやしかし本当に関西弁なんですね。男性のエルフでしかも関西弁って、慣れるまでもう少しかかりそうです」



 ほほう、さすがは和菓子屋の息子。

 礼儀作法は叩き込まれているらしい。

 向こうの世界でリッシュさん達やこちらの世界で“騎士団”のみんなに礼儀作法を教えてもらった日々が懐かしいぜ。



「日本だとエルフは女性的なイメージらしいな。しかも菜食主義。どこでそんな偏見がついたんやろ。」



 そう言いつつ、手製ののタネをスプーンで丸めて鍋に放り込む。

 鶏のミンチに、微塵切りしたキクラゲとネギ、そしてたっぷり過ぎるぐらいのすり下ろした生姜、ごま油とコショウを混ぜたダネ。

 すぐに鍋から鶏肉と生姜が混ざった香りが立ち上った。



「いい匂いだ。ショウタが作ってくれたお菓子に生姜を使ったものも多かったが、こんな使い方があるとは」


「むしろ料理に使う方がメジャーですよ、アスティさん」



 赤毛の迫力のある女性の、そんな感想に返すブラン。

 このアスティって人、魔王をやってるらしいな。

 胸も大きいし、顔立ちも人間基準では美人と呼ばれるタイプだ。



「この匂い……。菓子作りには自信あるけど普通の料理は負けたかもしれない」



 ショウタくんがそう漏らした。

 あのとんでもなく美味い菓子を作る彼にそう言われたら、ちょっと自信がつくな。

 俺は鍋にフタをすると皆に声をかけた。



「料理の腕前の上下はともかく、つくねが煮えるまでの間に自己紹介していこか」


「私たちの登場は一年ぶりぐらいやしね」


「そういうメタなネタはもう少し我慢しよか、フェット」


「はーい」



 コップを片手に、少し頬を赤くしながら返すフェット。

 手元にはすでにフタの空いた日本酒のビンが。



「ちなみにフェット、それ何杯目?」


「まだ三杯目やで~」



 ……まあ彼女の酒の強さを考えたら準備体操ぐらいの範囲内か。

 気を取り直してショウタくんを指差す。



「……はい、それではまず新規さんからお願いしましょう!」


「えー、乃樫のかし 翔太しょうたと言います。得意な菓子は和菓子全般とプリン」


「はい! 魔王をやっていたアスティだ! 私はショウタのプリンが大好きだ!! もちろんショウタも大好きだぞ!!」



 ショウタくんの自己紹介に食い気味に話し始めたアスティさん。

 あれ? なんか彼女の手にもコップが。

 そしてなぜか彼女も頬が赤く。



「あら~、なかなか良い調子やね~。もっと飲んだら、自分の気持ちをもっと正直に言えるかもしれへんね~」


「フェットチーネさん、鍋がまだ出来てないのに飛ばし過ぎです」


「はーい」



 ふう、まあしかし話が彼女に振られたからな。

 流れ的にもフェットの番か。



「んじゃフェット、ついでに自分も自己紹介いっとく?」


「はーい。こちらの旦那と同じ世界から日本に飛ばされてきた、フェットチーネ・ペンネリガーテといいまーす。よろしくねー」


「あれ、奥さんも異世界の人だったんだ!?」


「そやでー」


「そこの、音頭を取ったクラムも同じ世界の出身やな」


「へえ~」



 クラムがショウタくんに頭を下げた。



「よろしく~。となりで整骨院やってるクラムチャウダー・シラタマゼンザイ・アーリオオーリオです」


「白玉ぜんざい?」


「そそ。古神聖エルフ語で『春の木漏れ日の光のような明るさ』って意味」


「へ、へえ~」


「私の名前でそんな反応しとったら、こっちのショウの名前とかどうすんねんな」



 突然のクラムの無茶振り。

 さすがの俺もうろたえてしまった。



「え!?」


「ほらショウ、フルネーム言うたりいな」


「えー!? い、いやそんな事よりもショウとショウタって名前そっくりやなあ」


「なんで誤魔化すのん」



 相変わらずこういうツッコミは厳しいやつだぜ。

 俺は憮然ぶぜんとした顔で呟く。



「……だってあんだけ色んな人に散々言われたら普通凹むやろ」


「いまさらやん。ほら!」


「そーよそーよ! 言っちゃえショウ!」



 クラムの強要にフェットまで相乗りしてきた。

 ボクもう泣きそう。

 二人に押し出されるような気持で俺は渋々名前を言った。



「………………ショウユラーメンオオモリ・カエダマ・ニクマシマシ」


「あ~……」



 ショウタくんが凄く反応に困ってる顔になった。

 隣ではアスティさんが理解できてない風に首をかしげる。



「ほら! やっぱりやんけ!(泣)」


「まあまあ、んじゃ最後はウチやな。ウチの名前はブラン。ショウたちとは違う世界から飛ばされたエルフや」



 俺をなだめるようにブランが自己紹介。

 そのブランの後半の言葉に反応したショウタくん。



「ああ、やっぱり異世界も色々あるんですね」


「んで、雷撃系の魔法使っとったから電気ブランって呼ばれてたんや、ウチ。ちなみにここ日本では殿木部でんきぶ らんって名乗ってるんよ」


「ショウさんの本名を聞いた後だとインパクト薄いッスね」


「なんかムカつく」





 そんなこんなで鍋が煮立ったのでフタを開け、立ち昇る香りに皆で歓声をあげる。

 そして取り皿によそって舌鼓。

 味もショウタくんとアスティさんが絶賛してくれたのが嬉しかった。



「そういやクラムちゃん、クリスマスやのに例のバイトの男の子とデートせんで良かったん?」


「したよ~。昨日のイブに。今日は好きなアニメの録画予約忘れたから言うて帰ったわ」


「なんやしょーもない男やな。カノジョ放っといて」


「私も好きなアニメやし、むしろ私がお願いしてん」


「そ、そか。ま、まあそれならええか」



 そんなブランとクラムがたわいの無い会話をしていた。

 と、思ったら突然二人がショウタくんとアスティさんに向き直る。

 ニッヒッヒ~と嫌らしい笑顔で二人に問い詰め始めた。



「ところで~、お二人は昨日はお楽しみで?」


「は? え、えと昨日はあちこち歩きまわってましたッスけど……」


「っかー! そういう事を聞いてるんじゃなーい! イブよ? クリスマスイブよ!? 男と女がキャッキャウフフと子作りプロレスする性なる夜よ!!!?」



 あー。

 このモードに入るとブランとクラムは手に負えないからなー。

 悪いけどショウタくんとアスティさんには犠牲になってもらおう。


 案の定、二人は真っ赤な顔でうつむく。

 あれはアルコールの赤さじゃない。



「……えと、ボクタチ、ま、まだ恋人じゃないノデ」


「う、うむ。だが私は、その、しょ、ショウタがどうしても、というのなら、べ、別に……」


「おっとぉ、アスティさんここで大胆発言~!」



 めっちゃ嬉しそうだな、クラムの奴。

 と、ここでショウタくんが反撃に出た。

 クラムに目を向けると、少しドヤ顔気味に聞き返す。



「そ、そういうクラムさんは昨日のデートでお楽しみにならなかったんスか?」


「エット、マダ私達ハソコマデノ関係ニナッテナイトイウカ……」



 途端に真っ赤な顔でうつむくクラム。

 おーいさっきの威勢はどこ行った。

 そこへフェットが元気よく挙手をして参戦してきた。



「はいはいはーい! 私はショウと昨日にプロレス完了してまぁす♪」


「フェット、そんなところで対抗心燃やさなくてもいいの」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る