最終話
次の日僕は大学がいつもより遅くなり家に帰るのが7時頃になってしまった。家に帰ると家は電気が付いてなく、月あかりで薄暗く照らされていた。ミツキはいなくなったのかと思ったが変な物音がしたので何かやっているらしい。中に入ると彼女は羽毛ぶとんめがけてナイフを投げていた。部屋は布団から出た羽毛が散らばっていた。
「なにしてるの?」僕は言った。
「毛布にナイフを投げてるのよ。毛布もナイフも買ってきたものよ」
「でも羽毛が散らばる」僕は部屋に散らばっている羽毛たちを見て言った。
「掃除すれば良いじゃない。私も手伝うわ」
「確かにそうだ」
「ねえ、一緒にやらない?私こういうのずっとやりたかったの」
「いいよ、やろう」僕らは布団に向かってナイフを投げた。後先を考えないで何かをやるのは久しぶりな気がした。
僕がナイフを投げ、彼女が羽毛を撒き散らす。月あかりに照らされた羽毛はとても幻想的だった。黒猫がとても楽しそうに飛び回っていた。この部屋は今だけどこか遠くの別の世界と繋がっているような気がした。よく見ると彼女の手のひらは真っ赤だった。
「手から血がてでるよ」
「大丈夫。ちっとも痛くないの」彼女がそう言うんだったらそうなんだろう。
「そろそろやめましょ。落し物を返す時がきたわ」ミツキはそう言うと月あかりを背に服を脱ぎ始めた。僕はその姿に見とれていた。
「あなたも脱いで。夜に沈むの2人で。クジラのようにゆっくりと」
「クジラのように?」
「そう、静かにゆっくりと。さぁ、早く脱いで、夜に沈むには邪魔になるだけよ」
僕は服を脱ぎ、彼女に促されるままベットに仰向けになった。僕はゴムはと聞こうと思ったがやめた。きっと夜に沈むには邪魔になるだけだと言われると思ったからだ。先のことはその時考えればいい。彼女は僕にまたがった。そして彼女は血の付いた手で薄い膜でも取るように自分の身体をなぞった。白い肌と赤い血が青白い月あかりに照らされる。膜の取れた彼女は別人のように美しかった。僕らは交わり、僕は彼女の中で射精した。そして僕は夜の底で、じっと動かない深海魚のように眠った。
翌朝、僕が起きると彼女はいなかった。部屋にはいつものように朝日が差し込み、散らばってた羽毛と黒猫だけがあった。この日の夜は満月だった。
ナイフのような月を見る にこ @2niko5
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