第2話

「これ、サークル合宿のお土産」

「……ありがとう」

 少し日に焼けた小宮の手が、テーブルの上に小さな包みを置いた。思わず見上げて礼を言えば、笑った歯の白さが際立って目のやり場に困った。

「軽井沢だったか?」

「そう。先輩の別荘があって、貸してもらったんだ」

 確かにオフシーズンではあるが、サークルの後輩に別荘を自由に使わせる人間の価値観は理解の及ばないところにある。

「それは、名産品かは分からないけど目に付いたから買っちゃった」

 彼の気が向くままのチョイスは些か可愛らしすぎるきらいがある。金平糖は掌の上で、乾いた音を立てて転がった。

「美味しい」

それなら良かった、と僕より嬉しそうな小宮を見ると、まさに日常が帰ってきたという実感が沸き上がる。

「君としばらく会わないうちに考えたのだけれど」

 僕は少し固い調子で切り出す。

「僕が君とこうして会話しているとき、僕達の間の関係は対等ではないと思ったのだ」

「どういうこと?」

 訝しむように眉を寄せた男は、それでも話を遮ることはしなかった。

「僕は他人と話すのは上手くないが、君となら話ができる。なぜなら君が歩み寄ってくれているからだ。上手な相手と踊れば、初心者でもそこまで酷くないダンスになるのと同じさ」

「節。ごめん、言いたいことが伝わってない気がするよ」

 分かっているくせに、聡い男は嘘吐きだ。嘘が真実の上に被さった膜であるのなら、頻繁に嘘を吐く人間というのはとびきり繊細にできているのかもしれない。

 慌てたように向かいの席に腰を下ろした小宮は、固唾を飲んで次の言葉を待っている。

「君が僕に拘っているのは傍目から見ても不思議だということだ」

「何か言われた?」

 こちらを覗き込む瞳が苦手だ。嫌いではないが苦手だ。

「合宿中いろいろあったからな……」

「前にも言ったことあると思うのだが、君は人気者だという自覚を持って行動してくれ」

「そうだね、節に迷惑をかけたくはない……」

 彼は意外なほどあっさりと同意を示した。この場を退散しようと腰を浮かせかけるが、彼が僕の名前を呼んで引き留めた。

「ねぇ、節。俺と付き合ってよ。それなら『対等』だろ?」

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恋と呼ぶにはきっと嘘 六重窓 @muemado0

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