第172話 エピローグ

 さて、俺たちは行きと違って帰りは、美優を伴い新幹線に乗り岡島駅まで戻って来た。

 その足で大学付属病院までいくと、留萌さんたちミスキャンに出場していた人たちは、会場で倒れた後、救急車でここに運ばれ、入院したまま一週間、一度も目を覚ましていないというのだ。

 さらに驚いたことに、岡島大学病院でドーマム・オムニス教授に出迎えられた。

「な、なんでここにオムニス教授がいるんですか?!」

「ここは病院なのよ。大きな声を出さないで」

「だって、あなたはベネトナッシュさんが天に導いたんじゃ……?」

「私はパンドラの分身(アバター)、寿命もあれば肉体も衰えるのよ。今まで起きた出来事をなかったことにするのは大変だったんだから。これは私が持つ魅了のおかげよ」

 お茶目に片目を瞑って、俺たちにサムズアップするオムニス教授。

「錬、よくある設定だ。神が自分のアバターをこの世に置き、この世の出来事を監視するのは……。受け入れろ……、すべて受け入れろ!」

 そう言いながら、中々受け入れられないのは鈴木部長の方みたいなんだが。

 この世界は神のゲーム盤みたいなものなのだろう。だったら自分の駒があった方が面白い。いまさら、驚くほどのことでもない。

 そんなことより……。

「そうなんですか。だったら話が早いです」

パンドラから預かってきたアンプルをオムニス教授に渡す。

「ありがとう。これで彼女たちを目覚めさせられるわ」

 そう言って、オムニス教授は俺の手を取った。

「れーん」

 隣の美優が少し怒ったように俺の服の裾を引っ張った。大丈夫だよ。俺の中ではミスキャンパスは美優なんだから。

 だが、それを見ていたオムニス教授はからかう様に俺たちに言った。

「この後、反省会と称して飲みに行くんでしょ。沢口さんから聞いているのよ。私も参加していいかしら。都市伝説に良いネタの話が在るのよ」

「待って、それは僕のセリフだ!!」

 オムニス教授と部長の掛け合いはすでに次の心霊スポットの話になっている。

 そんな掛け合いよりやるべきことがあるだろう! 俺は二人に向かって怒りをあらわにした。

「そんなことはいいから、早く、留萌さんたちを目覚めさせてくれ!!」

 そう言っても部長の話は終わらない。

「沢村君、聞いてくれよ~。あっ、鮫島事件とか」

 鮫島事件? どっかで聞いた話だ。


「あっ、部長、それだけは絶対にやばいっス」

「それを知ろうとすると、公安が黙ってないです」

「今更ほじくり返して、遺族の気持ちを考えてください」

 おい、そのセリフ、掲示板に書かれた内容そんまんまじゃないか?

 

「「「部長、いい加減にしてください!!」」」

 部長の話に心霊スポット研究会のみんなは全否定した。

 こりゃあ、今日の飲み会も鈴木部長節がさく裂しそうだ。


「語るなのタブーか……。見るなのタブーと近親相姦のタブーならたくさんあるんだけど、それは神話の定番にはほとんど無いのよね。何かあったかしら?」


 俺のジト目をしり目に、ホムニス教授は病棟の廊下をスキップしながら進んでいく。

 その後ろ姿を見ながら、なにがいいネタだ。神話の時代から更に現在まで生きて来た生き字引だ。どれほどの物語を見て来たのだろう?

あの人も心霊スポット研究会に絡んでくるのかとげっそりしてしまう。


 やれやれと頭を掻きながら苦笑いをすると、隣で美優が微笑んでいる。

「錬、今日の反省会――、楽しみだね」

 美優までその気になっている。美優のすべてを見通す瞳には一体なにが見えているのやら……。

 訊ねるのも怖くて、俺は弱々しく首を縦に振ったのだった。




 完

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