第164話 翌日、俺たち8人は新幹線に乗って

 翌日、俺たち8人は新幹線に乗って大阪に向かった。当然それなりの準備をしている。神水弾が打てる銃、それに京都で信者で取り囲まれた時どうそこから脱出するか。そういうことも考えて色々なものを用意した。そして新大阪で乗り換え大阪駅に着く。そこから阪神電車に乗り換えで甲子園に行く。

 それにしても、同じ駅なのに、なんで阪神電車では梅田駅っていうんだろう?


 電車の窓から見えた甲子園に俺は感動していた。蔦が絡まり幾戦もの死闘を繰り広げて来た甲子園。その伝統を醸し出す雰囲気に圧倒される。そして電車を降りて、甲子園の前に立つとその感慨もひとしおだ。

 この聖地を目指し幼い頃から野球に明け暮れた人生……。一度はマウンドに立って投げたかった……。

 それが今日叶うかもしれない。そう考えそうになって気を引き締める。

 ここで投げることが目的じゃない。ここで勝つことが目的なんだ。……飲まれるな……、甲子園には魔物がいる。そこでふと気が付いた。これから戦う相手はまさに魔物だったって……。

 閉鎖された切符売り場の所でどうすればいいのか困っていると、声を掛けて来た警備員がいた。

「岡島大学心霊スポット研究会の方ですか?」

「はい、そうなんですけど……」

「でしたら私の後に付いてきてください。案内を仰せつかった者ですので」

 そう云うと、俺たちの前を歩きだした。慌てて着いていくと、警備員は通用口のようなところから中に入って行く。俺たちもそれに続くと、いくつかの角を曲がり、やがて少し広い場所に出た。

 ここはインタビュールームだ。壁を背にお立ち台に立って監督や選手がインタビューを受ける場所。さらにそこからグランドに出る通路は通称「花道」と呼ばれ、試合を終えた選手たちの顔がアップで写しだされるあの場所である。

「ロッカーはそこにあるので自由に使ってください。準備が出来たらグランドの方にお願いします」

 そう指差す先には、選手用ロッカーと書かれた札がかかっているドアがある。

 こんな場所が用意されていとは思っていなかったので、みんなジャージを着こんできていたが、プロも使うロッカールームだ。ぜひとも入ってみたいという欲望もあって、俺はその扉を開けてみた。

 ああっ、テレビで見た通りだ。その一つのロッカーの椅子の上にユニホームが置かれているのが目に入った。胸のロゴは大沢高校となっている。更に手に取ってみると背番号1が縫い付けられている。

 後から入って来た鈴木部長が目ざとく見ていて「沢村君、着てみたらどうだ」と声を掛けて来た。鈴木部長の声に促され、ユニホームを着てみた。高校時代に来ていたユニホームと寸分たがわず俺のサイズにぴったりだ。

 十七夜教団……。甲子園を貸し切り、こんな演出をしてなんの意味があるんだ? だが、ここに在るということは着ろという意味なんだろう。

 俺はベルトを締めスパイクを持って、みんなの待っている廊下にでた。戦闘準備オッケーだ。そして、通路を通ってグランドに出た。


 そして、グランドで待ったいたものは、超満員の観客の怒声と、キャッチャーボックスの上に置かれたパネル状の機器だ。

 俺たちの登場で、観客席は興奮の坩堝だ。「刺し殺せ!!」「焼き殺せ!!」「殺っちまえ

!!」だの不遜な怒声が飛び交い球場全体に響き渡っている。俺以外のみんなは顔面蒼白でベンチで立ち尽くしているが、俺は心静かにスパイクの紐を締め、自分の感情を冷静に分析している。

 大丈夫。こんなヤジ、自分への声援と思えばいい。やられたらやり返すのはグランドの中だけだ。完全アウェーにも関わらず俺の心は落ち着いていた。

 それにしても、あのパネルはストラックアウト? あのパネルを抜くのが勝負なのか?


 球場全体が騒然となる中、バッターボックスに立っていたフードの男が俺たちの方を振り向いた。

「やあ、来たね。このパネルを見ての通り勝負はストラックアウトだ。ただ、違うところは君がパネルを抜くのを僕がバットで阻止する。そして僕に打たれれば、打たれたコースのハッカイは彼女によって開放されるところだ」

俺は二コリを笑ってフードの男に問いかける。

「なるほど、そのコースのパネルの裏にはハッカイがあって、俺がパネルを打ち抜けば、同時に神水を含んだボールがハッカイに命中して神水をかぶり、その機能を失う。そして、機能を失ったハッカイは、麗さんの妙見八封久呪により崩壊し破壊されるということですね?」

「その通り、麗、悪いが持ってきた色欲のハッカイを二番のパネルの裏にセットしてくれ」

 麗さんは色欲のハッカイを持って、バッターボックスの方に歩いて行こうとしたが、俺は麗さんの手を取って動きを制した。

「ちょっと待って、ミスキャンの時にあんな方法で美優たちを拉致した奴らを信用することなんてできません。俺も一緒に行きます」

 俺はそう言って、バットケースに忍ばせていた虎杖丸を出していつでも抜けるように手に掲げた。そして、全身に怒りのオーラをみなぎらせる。

「ひどいな。信用されてないんだ……」

 そう云うと男はフードを取った。そこには岡島商業のユニホームを着た青年が立っていた。

「お兄ちゃん?!」{沢登幽(さわのぼりゆう)選手?!}

 麗さんと鈴木部長が驚いたような声を上げる。

「えええっ!!」

 俺はそれを聞いてすっとんきょんな声を上げてしまったようだ。それに、俺にはもっと驚いたことが起こっていた。

「れーーん!!」

 反対のベンチから美優が飛び出してきて俺の方に走ってくると、そのまま大ダイブして俺に飛びついたのだ。


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