第143話 そして鳥居を潜ると
そして鳥居を潜ると、はっきりと周りの空気が変わったのが分かった。
結界か? およそ神社には似つかわしくない邪悪な雰囲気だ。俺は気合を入れ直す。
みんなも、辺りを警戒しながら俺の後についてくる。参道の両側は、鬱蒼とした木々に囲まれ、京都市内の夜景も見えない、俺が先頭で。左右を警戒しながら2列で歩き、しんがりを麗さんだ。
時々、枝の揺れる音や鳥のや動物の鳴き声にビクっとしながら、俺たちは参道を上っていく。
そして、一時間ぐらい歩いただろうか。俺は濃厚な邪悪な気配を察知した。
「前方一〇〇メートル、何かいる。その数およそ一〇〇!!」
「後ろからも何か来た!!」
俺と麗さんが同時に叫んだ。
「挟み撃ちか?!」
俺は一気に霊力を高め、虎杖丸を素早く抜くと赤い霊力を刀身に纏わせる。俺の霊力と虎杖丸の霊力が混じり合い、俺の全身を駆け巡る。
「獅子神、顕現!!」
麗さんも懐からお札を取り出すと、四体の式神、狛犬を呼び寄せた。
「上からもだ!!」
黒い大型の鳥が、俺たちに向かって急降下して来る。俺はその気配に向かって斬撃を飛ばす。
「飛翔斬!!」
「ギャーーッ!!」
悍ましい断末魔が辺りに響いた。それを合図に前方の邪悪が一斉に動く。そのまま、参道を駆けるもの、左右の林の中を木々を飛び移りながら立体的に襲ってくるもの、何か地面をうねるように近づいてくるもの。木々が揺れ、大地が踏み鳴らされ、威嚇の唸り声と鳴き声が俺たちを襲い、恐怖に落としいれる。
「「きゃーっ!!」」「「うおーーーーっ」」
全員パニック状態だ。そこに、鈴木部長の鋭い声が上がる。
「落ち着け!! 死ぬことはないんだ!! 俺たちには神水がある」
「そうだ。即死でない限り、傷は癒せる」
さすが鈴木部長の一言だ。みんな冷静さを取り戻して、サブマシンガンを構え直す。俺はこのフォーメーションの意味を思い出した。車の中でさんざん打合せをしたじゃないか。
「虎爪牙斬(こそんがざん)!!」
俺は正面に向かって斬撃を連撃する。そして、左右から迫る異形の影。
「まだだ、まだ。――――撃て!!」
ライトが一瞬捕えてた瞬間に鈴木部長が号令をかけた。
一斉掃射のサブマシンガン。秒速一〇発の水弾がプシュという空気音を共に飛び出し、左右に水弾の弾幕が張られる。
斬撃を飛ばしながら、横目で確認すると、鋭い眼光に異様に長い牙と爪を持った大型のサルみたいな妖魔の額とか、胸とか、腹とかを、水弾が確実に打ち抜いている。
さすが打合せ通り。射線が被ることなく効率的に妖魔を倒している。
そして、そのサブマシンガンを撃ちまくっているみんなの頭や肩を飛び回りながら、獅子神が上空から飛来してくる異様に発達した嘴とカギ爪を持つ大型のキジのようなものが爪や牙で引き千切っている。
俺が対応しているのが、狼のような牙を持つ犬どもだ。
犬、猿、雉とは、ふざけた妖魔たちだ。しかし、そのポテンシャルは桃太郎の鬼退治で、その鉾となり盾となり、鬼たちを駆逐した折り紙付きだ。
部長たちが、カラになったペットボトルを投げ捨て、バックパックのサイドポケットからペットボトルをサブマシンガンに装着する。
辺りを窺えば、最初に感じた気配は消えている。
「全部やったか?」
俺は独り言を呟いたが、それに対して麗さんは鋭く叫んだ。
「油断しないで、地の底から嫌な霊力を湧いてきている!!」
麗さんに言われ、前方を凝視する俺の目に、まるで地面の割れ目から闇よりも黒い靄が立ち上がるのが見えた。その靄は次第に凝縮して妖魔の形を整えつつある。
「ちっ、きりがない……」
「これは、この山にある負の情念を、ハッカイが具現化した妖魔。錬君、本体を叩かない限り無くならない」
本体?! ハッカイのことか……。でも、俺の探知能力じゃあ正確な位置が分からない。くそ、どうすれば? そこで俺はいいことを思い付いた。
「美優、愛しているぞ!!」
「ちょ、ちょっと、こんなところで……」
「俺の気持ちを伝えておかないと!!」
「な、なに言ってるのよ。死んじゃうみたいな言い方……」
俺は直ぐ後ろにいた美優を抱きしめた。
「まだ死ぬわけにはいかない。まだまだ、一緒にしたいことがたくさんあるから」
美優の耳元で囁く。美優は俺とのあの行為で頭がいっぱいのはずだ。
「な、な、なに言って……」
さらに耳元にくちびるを近づけ囁く。
「美優、頼む、二人のためにもハッカイの場所が分からないか?」
「……うん……。二人の世界のためにもね」
照れながら微笑んだ美優が頷いた瞬間、美優の瞳が金色に変わる。
「錬、この参道を真っすぐにいった五〇〇メートル先、奥の院の更にその奥、大きな御影石の中にある」
「そうか。ありがとう。すぐに終わらせて来る」
俺はそう云うと、美優を抱きしめキスをした。
「錬、み、みんなが見てるのに……」
だって金色の瞳の美優があまりに魅力的だったから……。それは言葉にしない。
俺は、すぐに正面に立ち、ありったけの霊力を虎杖丸に流し込む。すると、虎杖丸から、霊力が俺の体に流れこみ、二つの霊力が混じり合う。
俺は、さらに霊力が膨れ上がった虎杖丸を横薙ぎに払った。
「虎爪牙斬!!」
ひと際大きい斬撃が、参道に一杯に駆け上がって行く。形と成りつつあった妖魔を両断し、さらに、木々をなぎ倒しながら、うねうねと曲がる参道を外れ一直線に神社までの道ができる。
「あっちゃ、国宝級の聖地を……」
「人命優先です」
部長のつぶやきに軽く返し、俺はその道に向かって駆け出した。今の強化された俺なら一分も掛からずそこまで行ける。直ぐにハッカイを破壊してここに戻ってくる。それまで、なんとかもってくれ。俺は心の中で祈っていた。
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