第128話 麗の回想録(メモワーズ)1
「私の力が何のために必要で、どうやって手に入れたのか?」って聞かれたけど、何から話せばいいのだろう。とりあえずは出生から話さないとだめかも……。
私の拙い語彙で、その膨大なメモワーズを他の人に理解できるように話せるのかしら?
とにかく、私、沢登麗が生まれたのはこの地方の方では割と大きな神社だった。
その神社は、まだこの世界が空と陸と海の境がなくて、善悪の概念さえない混とんとした時代、自らを頂点とした秩序を世界にもたらし、天と地の境を作り、自らは天界の頂点に立った天帝の化身と言われる北極星と同格視される妙見菩薩を祀る岡島神社だった。
私は小さい頃から変わった子どもだったみたいだ。初めて私が他の子と違うと感じたのは四才ぐらいの時だったと思う。誰もいない場所から私を呼ぶ声が聞こえて、その声に答えてお話をしているのを見られて、ひとりぶつぶついう変わった子どもだと言われたりした。
なんで、あなたたちにはこの声が聞こえないの? 誰にも相手にされず、この場所や気持ちに縛られ身動きが取れなくて「寂しい」と訴え、「話し相手になって」と言ってくる人たちの声が……。
私はそれに答えてあげているだけ。この世に残した未練みたいなことをしつこく訴えてくる人には、愚痴ったって誰も助けてくれないよって教えてあげる。だって、凄く反省している人には、ちゃんと光り輝く人がすぐそばに立っているから。
きっと、この光り輝く人が眩しくて見えてないんでしょうから、その人の存在を私に話しかけてくる人に教えてあげる。ちゃんとその光り輝く人の存在に気が付いたら、穏やかな顔になって消えていってくれるもの。
それに、私には生きている人の周りにある光の層が見えていた。後で分かったことなんだけど、それはオーラと呼ばれる生体から発生される霊的放射体だった。
私がたくさんの人を見た経験からこのオーラの層には、肉体に近い層の「健康のオーラ」次に体から迸る卵形のエネルギー帯を成している「活力のオーラ」、第三に想念や感情を反映して絶えず色を変化させる「カルマのオーラ」、第四にその人の基本的な人格を色で表わしている「性格のオーラ」最後に、相当に高度な霊的達成を経た人にしか見えないとされる「霊的本質のオーラ」があることも分かった。
どうやら、霊やオーラを見る力を霊視と云うらしい。でも、私の周りの人には見えないし聞こえてもいなかった。誰もいない空間に向かって話しかけ、会った人の未来を当てる私を周りの人は気味悪がるようになっていた。そんな私を両親はいつも暖かく見守ってくれていた。
「麗はね、他の人が見えない物を視たり感じたりすることができるんだよ。お父さんとお母さんの自慢の娘なんだ。それに比べて兄貴の方はボンクラなんだ」
そう、私にはもう死んでしまったけれども六歳年上の兄がいた。兄と比べて優秀だと言われた私は誇らしくなって、この力を会う人会う人に自慢してしまった。その結果、私の周りからはお友達がいなくなった。そのことに気が付いたのは小学校に入ってから。私がみんなの目には見えない物の話に口を塞ぐようになった時には、私はすっかりイジメられっ子になっていた。
それと同時期に、私は妖魔にも襲われるようになっていた。どうやら、私の霊感の強さは邪悪な妖怪を引き付ける甘美な香りだったみたいだ。
妖魔とは、悪意を持った動物霊と人間の魂が混ざり合った悪霊と飛ばれるキマイラのような外観をした悪魔たちだ。
そんな妖魔と闘って守ってくれたのは、私のお付きの岡島神社の従者たちだった。
そうなのだ。私は只、化け物が見えるだけ。戦う術を持っていない。そんな私は儒者に何度も助けられた。摩滅の神器、金剛杵(バジャラ)を構え、縦横無尽の体術を駆使して、魔物を屠る従者たち。私は何度も命を救われた。
その中には、私の兄の姿もあった。霊格のオーラの光は私より弱々しいのに傷だらけになりながら私を守ってくれた兄。当時は、私は自分の力の無さを嘆いてばかりだった。
私の自信は足元から崩れ去り、私の高慢な気持ちが私を庇う兄に爆発してしまった。
「お兄ちゃんに助けられなくっても、私はあんな化け物にだって勝てるんだから!」
そんな私はお父さんに神呪の教えを乞うんだけど、お父さんは「まだ早い。お前が中学になってからだ」と頑なに神呪の呪術は教えてくれなかった。
善悪の境界さえ怪しい小学生の私では、神呪の呪術は諸刃の剣、人さえも巻き込むことを畏れていたのは後で分かったことだ。確かにいじめを受けていたあの時なら、私は力を暴走させていたかも知れないし、恨みに任せてその力をクラスメートにぶつけていたかもしれない。
そんな不甲斐ない私に兄は優しかった。
ある日、小学校からの木枯らしが吹く帰り道、隠された下履きを探すのに手間取ってしまい、かなり落ち込んでとぼとぼと帰る私の影が、周りの闇にすっかり溶け込みそうになっている逢魔が時、その時、私は異様な気配にふと顔を上げた。
気が付けば、私は数頭の狼?に周りを取り囲まれていた。犬にしては体が大きく野性味に溢れ、私を獲物と捕らえるその恐ろしい目に、私は狼と一瞬考えたが……。この日本にいた狼はすでに絶滅している。それに、その狼の毛並みは毒々しいまでの紅色で、その輪郭は闇に溶け込むようにぼんやりとしてはっきりしない。直ぐに逃げようとしたが私の神社の鳥居までまだ三〇〇メートルはある。
(妖魔?!)
こいつらは、私を糧にさらに強力な霊力を手に入れようと、集まってきた妖魔なのだ。
私が一方的にこの動物?の正体を断定した瞬間、この妖魔が一斉に地面を蹴り、私に向かって跳躍した。
(喰われる?!)
思わず目を瞑った私。しかし、いつまで待っても次の衝撃は来なかった。恐る恐る目を開けた私の目に映ったのは、私と妖魔との間に割って入った影だった。
「麗、大丈夫か?」
その影は、炎のようなオーラを纏い、手にはオーラに輝く剣を持って、妖魔を蹴散らしていた。
(私の王子様?!)
私は思わず口から出そうになった言葉を飲み込んだ。バットを肩に担いで、私を心配そうに振り返ったその笑顔には歯がキラリと光っていた。この薄暗い中で……?
どうやらそれは、私が今の境遇(いじめや妖魔たちに付け狙われる)から救い出してくれる人を求めるあまりに働いた補正みたいだ。
「麗! ぼやっとするな! 速攻で逃げるぞ!」
「は、はい!」
確かに鳥居までたどり着けば、結界が張られていて神社の中には入れないはず……。
目の前の妖魔をバットで薙ぎ払うと、私の手を掴んで、神社の方に走り出したその人は私の中学生の兄だった。
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