第107話 さらに、その黒縄を引き剥がそうと
さらに、その黒縄を引き剥がそうと、もがいた手を別の黒縄が絡め取って拘束する。俺を見る目は涙目になっていて、吐く息使いだけが聞こえ肩を大きく揺らせている。切ればさらに数を増やし、俺は美優の首に巻き付いた黒縄に手を掛け引き剥がそうした。締め付けが少し緩んだところで美優が、俺に何とか気力を振り絞り声を出す。
「錬、こいつら二重らせん状に絡まる二本の線にみえるの。二本の間の鎖を断ち切って」
「?!」
美優はそれだけ一気に言うと、激しくせき込んで言葉を発することができない。しかし、俺には美優が発したメッセージが何のことかさっぱり分からない。それに、自分の首を絞められ、美優の首に巻き付く黒縄を引きはがすことで頭の中は一杯だ。
さらに、隠れていた麗さんや彩さん、留萌さんや沢口さんそれに鈴木部長にも黒縄が纏わりついているのが見えているのだ。
だめだ。このままじゃ誰も守れない。弱気になった俺の耳に沢口さんの声が聞こえた。
「縦に切るんだ。この黒縄を縦に切るんだ!!」
その声に我に返って、沢口さんを見れば、どこから出したのか、沢口さんはメスを構え、この黒縄を縦に裂いているのだ。そして、足元に散らばる黒縄の残骸。
「そういうことか!!」
俺は虎杖丸を取り出し、美優に巻き付いている黒縄を縦に切り裂いていく。切り裂かれた黒縄はそのまま地面に落ちて動かなくなる。そして俺に締め付けている黒縄も。
「沢村、こっちは大丈夫だから、扉から入ってくる黒縄を頼む」
これは部長の声だ。部長の声に横目でみんなの状態を確認すると、メスで黒縄と格闘中だ。ただし体に巻き付いた黒縄は動きが鈍いため、みんなも対処できているようだった。
俺は改めて扉の方を睨みつける。
確かに扉からスカイフィッシュが一直線にわらわらとこちらに向かって飛んでくるのだ。
俺は虎杖丸を正眼に構え直し、霊力を練る。そしてその霊力を刀身に纏わせると紅蓮の刀身が四尺を超える。
「どいつも逃がさねえ」
俺は一人呟いていたようだ。
俺は扉の境で人王立ちになり、こちらの空間に飛んでくるスカイフィッシュの頭?の部分を縦に裂くように一刀両断にする。まさにその軌道を繰り返し続ければ、傍から見れば、面となり扉が閉まっているように何者も通さない鉄壁の太刀筋だ。
背後では、美優のところに麗さんと彩さんがメスを持ってきて美優を黒縄から解放している。
相当数のスカイフィッシュを切り切り刻んだか。足元には黒縄で足の踏み場もなくなっている。
そして残りを見れば、あと数百ほどか。そいつらはうねうねと飛び回り、やがてお互いが絡みつくように太いスカイフィッシュになっていく。こんなもので締めつけられたら、逃れる前に全身骨折で即死を迎えられそうだ。それにその姿は例えるのも恐れ多いいが出雲大社のしめ縄のようだ。これでは絡み合って固まった国縄をすべてを縦に引き裂くのは難しい。やみくもに虎杖丸を振り回せばその数を増やし、こちらが不利になるだけだ。だかしかし、これはこれで都合がいい。胴体の割には羽があまりに貧弱だ。ようするに飛べないようにしてしまえば……。出雲大社のしめ縄は、紙垂れを捲く針金で固定されているのだ。
「麗さん!!」
「はい、錬」
どうやら俺の考えは以心伝心、麗さんに伝わったようだ。麗さんが返事と共に投げてよこしたのは包帯のように巻かれた布切れ。ただし只の布切れではない。その表には、神代文字が書き連ねられているのだ。
布切れを受け取った俺は、虎杖丸の霊力を受け取り全身に行きわたらせる。
「はあっ!!」
そして気合一閃、この巨大スカイフィッシュに向かって神速で走りだすのだ。
その動きを見切り躱そうとする巨大スカイフィッシュ。だか俺は逃さない。すれ違ったとたんに巨大スカイフィッシュが浮力を失い地面に墜落する。そして巨大スカイフィッシュの胴体には、麗さんから渡された結界封じの布切れが紙垂れのようにらせん状に巻き付き、スカイフィッシュが地面をのたうち回っている。そんな姿をしばらく見ていたが、やがて、スカイフィッシュが力尽きたように動きを止め、その場に横たわると煙のように霧散していく。
「スカイフィッシュっていうのは、飛ぶのをやめると、死んでしまって死体も残さす消滅するって聞いていたけど、本当だったんだ」
俺はその成り行きをみて思わず口から言葉が出てしまった。
後ろから心霊スポット研究会の面々が歩いてきた。俺の言葉が聞こえたのだろう。部長が俺の背後から話し掛けてくる。
「なあ、沢村君、まるでスカイフィッシュって、泳ぐのをやめると死んでしまうマグロのようだな。僕たちってスカイフィッシュの謎も解いてしまったのかもな」
「部長そうですね。スカイフィッシュがまさか地獄に巣くう蟲だったとは」
「全くだ。それにしても、沢井さんのスカイフィッシュに対する洞察力はたいしたものだ」
「あっ、そこなんですけど……。美優の言ったことの意味が分からなくて」
「ああっ、それは……」
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